10話 弱者の凶刃
今回はガッツリ戦闘シーンとなっています。
教会に突入する六樹、裏口から入ったのは、表玄関の扉が破壊されているのを目にしたからだ。
「頼む、もう出ていてくれ」
と、神に祈る。魔王軍の獣人達は、おそらく金品の略奪目的で侵入したのだろう。それがひと段落してすでに外に出ていることを願う。
その場合であれば、おそらく隠れているであろう、逃げ遅れた子供達をコッソリと連れて逃げれば目標達成だ。
最悪なのは、子供達がすでに攫われている場合だ、だが、町に魔王軍が侵入してからそう時間はたっていない、今ならまだ間に合うと考えられる。
「覚悟はしておかないとな」
ギルドの支部長に聞いたが、この世界には戦争における法律が決められており、ギルドはそれに基づいて中立を保っている。
その戦争法の中でも特に禁忌が存在するらしく、それは、戦闘に全く関係の無い民間人の殺害や誘拐などだ。逆に金品の略奪は勝者の権利として認められていたりもする。
そのため、子供を連れ去ろうとするような輩はギルドの敵であり、ギルドの名前を出して説得を試みても、まず間違いなく応じないだろう。その為、戦闘は避けられない可能性が高い。
だが、六樹の個人の武力は低い、牙を磨いた兵士達に正面から立ち向かってもまず勝てないだろう。だから必要なのは
「隠密行動と不意打ちだな」
そう結論付けた。コソコソと広い教会内で子供達を探し回る。そして見つけた。
(クソ、最悪のパターンだ)
六樹が目にしたのは、数人の子供達が縄で縛られて、部屋の隅で一箇所に集められている光景だった。
部屋の中には獣人が4人、二人は子供達の近くに立ち、あとの二人は奥の椅子に腰掛けている。何か嬉しそうに話をしている。
「いや〜、孤児院を速攻で攻めたのは正解だったな〜」
「おかげで高く売れそうなのがこんなにいた」
すると、一人が子供達をいびり始める。ドンッ、バンッと近くの物を蹴ったり、床を踏みつけたりして、大きな音を立てながらこう言う
「ガキども!おめーらは特別に殺さないでおいてやる。感謝しやがれ!その代わり暴れんじゃねーぞ!……おい!返事はどうしたぁ!」
と叫びながら近くの椅子を蹴り飛ばす。子供達はか細い声で返事をした。
「胸糞わりぃ」
六樹はそう小さく呟いた。
すると奥に座っていた一人が今叫んでいたクズにこう言う。
「おい、そろそろ、連れて行くぞ、あの野郎に見られる訳にはいかねーからな、ガキどもを歩かせろ」
まずい、もう移動を始める。獣人達の身体能力は知らないが、もしかしたら子供を担いで走ってたとしても
、六樹が追いつけない可能性だって普通にある。
行かせてはいけない。やるしか無い。そう覚悟を決めた瞬間、六樹の目から光が消えた。
初撃は確実に決めないといけない。そして、一人殺せたら隠れる。ヒットアンドアウェイに徹する。
この方針が最もマシだろう。上手くいけば、全員殺せる。そうじゃなくても敵が警戒して、スローペースな展開に持ち込めれば、ギルドからの増援が来る可能性が高い。
獣人達が子供を連れて移動を始める。六樹は位置を整える。
獣人達は四人、前方にいるのが狼のような奴と、牛のような奴、後方に猿のような奴と、最後の一人はパッと見ではよく分からない。
狙うのは前にいる最も獣要素が強い牛のような兵士だ、見るからに強そうで動き方が予測出来ないため、不安因子になるからだ。
タイミングを見計らい六樹は無言で斬りかかった。
「!!、ぐぅあぁぁっあー!」
「うわっ!誰だ!?」
六樹の振り放った一撃は狙い通りに致命傷を与えた。
(いける、ちゃんと殺せる。)
六樹は元々野生動物を締めたり、血抜きしたりと、生き物の命を奪う事には慣れていた。初めて人型を殺したが、思ってたよりも冷静だ。自分は自分自身が考えていたよりもずっと冷酷だったと分かる。
「次!……」 「オラァ!!」
近くにいた狼の獣人にも剣を振るうがこれは弾かれた。
「流石にダメか、一度さがって…!!?」
少し下り、一度撤退しようとしたその時、
ドゴっと、隣の木製の壁から突然拳が飛び出してきた。
咄嗟のことで六樹は避けようとするも側頭部に直撃する。
「ぐっ…!」
敵がまだ他にもいるという事は、考えなかった訳てまはないのだが、まさか壁抜けパンチをしてくるとは思ってなかった。
拳で開けた穴を広げて壁から猫の獣人が姿を現す。
そしてふらついた六樹を見逃す獣人達ではなかった
「やってくれたな!」
っと目の前にいる狼の獣人が六樹のみぞおちに拳を叩き込んだ。今まで味わった事のない衝撃が六樹の腹部を襲う。
「うぐっ!」
衝撃で倒れ込んでしまった。手に持っていた命綱である剣、アングリッチも滑り落ちてしまう。這いつくばって取りに向かうがその背中を猫の獣人に踏みつけられ、身動きが取れなくなる。
「コイツも奴隷商売り飛ばすか?」
「そうだな、だが、暴れねーように目は潰してもいいかもな」
などと非道な会話が聞こえる。そして狼の獣人が六樹の目の前に立ちこう言った。
「一人殺したんだ、雑魚にしては、よく頑張ったんじゃねーか?……!?って、俺の脚なんか掴んでそんなに悔しいか!?哀れだな!」
そう吐き捨てる。六樹は無言で掴んだ脚を離そうとしない。
子供達は無言で六樹を心配するような、尚且つ、一筋の希望を見るような目で見ていた。
六樹は頭の中で考えていた。
(絶対絶命だ、今からこの場にいる四人を殺さないといけない。)
(絶望的だ、そもそも一対一でも勝てる保証なんて無い、むしろ、相手は歴とした兵士だ、負ける可能性の方が高い。)
だが、やるしか無いのだ、そして行動を起こす前に息を整える。
しかしながら、少なくともこの状況においては……
今脚を掴んでいる奴は確実に殺せる
六樹は小さな声でそっと唱えた。
「解毒:特」と
「はっ………」
次の瞬間、狼の獣人は一瞬で顔色が青白くなり、倒れた、即死だ。
一瞬の出来事に何が起こったなか分からない他の獣人達はフリーズしている。
「えっ…おい!…どうしたんだよ?、えっ?死んでる」
踏みつけが緩んだ隙をつき、六樹は彼の剣アングリッチを掴み、まだ混乱している。猫の獣人を切り捨てた。
「グワッ!」
という断末魔を最期に命を落とした。
六樹が何をしたのか説明せねばならない。
[解毒魔法:特級]は体内の特定の物質を消滅させる。アンリが使うのを見た限り、食中毒菌などの単細胞生物を消滅させたりもしていた。
そう細胞だ、だから六樹は、相手の全身から赤血球を消滅させた。
一度凄く弱い力で自分に試してみた時でさえ、貧血となりぶっ倒れた。全力で使えば即死は免れない。
魔法の発動には相手に触れる必要があったのだが、それは相手がこちらを舐めて近づいて来てくれたので助かった。
再び立ち上がり、剣を構える六樹、あと2人、そう頭で考える。
おそらく隊長格であろう獣人と向かい合ったその時
「オラァァーー!!!」 「!!」
とてつもない威力の上段蹴りが六樹をに飛び込んで来た。
「ぐっ!」
とっさに剣で防ぐが相殺仕切れない。そのまま近くの扉を突き破って外の大通りまで吹っ飛ばされた。
バゴンッ!! 「……かはっ」
ゴロゴロ……と道の真ん中まで吹き飛ばされる六樹
幸いにも、他の獣人達の姿は無い。
その上段蹴りを放った男の方を見る。
今、一瞬だが蹄のようなものが見え気がした。
六樹は考えながら、なんとか立ち上がりまた剣を構える。
「そのキック力と蹄、お前…馬か?」
そう尋ねた
「正解だ、さっきの技といい、気味の悪い奴だ…俺がお前を殺す!」
「小隊長様!やっちまってください!」
と隣の猿の獣人が囃し立てる。どうやら猿は傍観に徹するらしい、こちらとしては好都合だ。
馬の獣人は小隊長らしい、強いわけだ。
その小隊長は腰に下げていた剣を引き抜く。直感で分かる。
(アレは強い、まともにやっても勝ち目は無い。)
そして六樹は攻略方法を模索した。
(解毒魔法で殺すか?いや無理だな、あれは相手に触れて詠唱して初めて発動だ、剣で斬り結ぶ相手にベタベタ触ろうとしても3回は殺される。落とし穴はどうだ?出来なくは無いが地面に触れた時に隙が大きいな、リスクもデカい。ならどうする?)
「………………」
六樹はしばしの沈黙の後アングリッチを構えた。
六樹は両手で剣を右下に構え、下段からの大振りを狙うような体制で突っ込んだ
「ふっ、素人が」
小隊長に鼻で笑われた。だが六樹は近づくのをやめない。対する小隊長は余裕の表情で無謀な突撃をする六樹を嘲笑う。
「………!」 「来い!切り刻んでやる!!」
無言で詰め寄る六樹とそれを意気揚々と迎え撃つ小隊長
そしていよいよ互いに剣を振りかざそうとするその瞬間、六樹はこう頭の中で念じた
[ステータスオープン]
次の瞬間、小隊長の目の前にステータスウィンドが現れた。
「な!?……は!?」
突然視界を奪われて狼狽する。
「うおおお!!!」
視界不良の中、六樹が振りかぶった剣が小隊長に迫った。
「!?………くっ、ここか!!」
ガギンッ! と金属がひしめく
突然の目眩し、だが小隊長はそれだけでは勝たせてくれない
苦肉の策で、六樹が振りかざしていた方向に剣を向け、なんとか受け切った。小隊長は斬撃が予想通りの方向で来た事に安堵する。
力で押し切られる心配もあったが、思ったよりもその斬撃は軽く、今も目の前にデカデカと表示されている筋力Dのステータスを嘲笑する。
細工はあったが所詮は小物、小細工にしかならない。そして決めきれなかった六樹に向かってこう叫んだ。
「甘ぇんだよ!!このクソガキ!?… グサッ!!
言い終わる前に小隊長の額に短剣が突き刺された。
「は?」
ステータスウィンドが閉じられる。
そこには右手でアングリッチを叩き付け
左手でそれまで隠していた短刀を自身の額に突き刺している六樹が見えた。
バタン…と呆気なく敵が倒れる
大振りの一撃の構えを見せた状態で突然視界を奪う。焦った相手は急いで防御に回らざる得なくなる。
そこにアングリッチによる陽動の一撃、それをあえて防がせたのち、本命の暗器による一撃
これが六樹の用意した策だった。
遺言すら残させない、馬の獣人の小隊長は死んだ。
「鍛冶屋で短刀貰っといてよかったな」
六樹は小隊長だったモノから引き抜いた短刀を見て、平然と呟いた。
4人の獣人を屠り、返り血だらけの六樹は最後の獲物に視線を移す。
「ヒッ、一体何を!?、来るな!見逃してくれ!」
一人残った猿の獣人は腰を抜かしている。六樹は近づいていく、当然殺す。生かしておく理由が無い。
だが突然、大通りに突風が吹いたように感じた。その突風は六樹の首を鷲掴みにし、持ち上げた。
否、突風などではない、それは一人の獣人の男だと気づくのに時間がかかった。これは白い虎の獣人だろうか?
彼は六樹にこんな質問をする。
「よくもオレの大事な部下を殺してくれなァ!!……ところでよォ、オマエ今なにしたよォ?」
さて、今回の外道獣人達とのバトルいかがでしたか?強いというよりも敵に回したら恐い主人公って感じです。
個人的にはこの作品の方向性が詰まった一戦を書いたと思っています。面白いと思って貰えたならば幸いです。




