11話 タバコの味と散る花火
彼と過ごす日々は、毎日が穏やかで、でも新鮮な刺激に満ちていて本当に楽しかった。
これまでの私なら、どんなに彼氏ができても友達や自分の時間との優先順位は変わらなかった。
けれど、彼とほぼ毎日のように一緒にいていた。
彼は本当に物事をよく考える人で、その言葉の一つ一つが胸に深く響いた。
そんな彼と今日は花火大会に行く約束をしていた。
友達から「一緒に見よう」と誘いの連絡が来た時、私はすぐに彼に話してみた。
彼は笑顔で「いいよ」と頷き、二人で友達と合流することにした。
日本ではありえないかもしれないけど、このようなことはよくあった。
今日は特別な日。
私はいつもより少しドレスアップして、彼のアパートに向かった。
ドアを開けた彼は、私を見た瞬間、大げさなくらいの声で「可愛いねぇぇぇぇぇぇ!とっても可愛い!」とぎゅーっと抱きしめて褒めてくれた。
彼の笑顔を見て、私も自然と笑みがこぼれる。
人混みの中、彼はしっかりと私の手を握り、友達のいる場所へと導いてくれた。
友達と合流すると、驚いた様子で「えぇぇぇぇぇぇ!彼氏?!」と声を上げる友達に、私は少し照れながら「うん、そうだよ」と答えた。
そして、大好きな友達と大切な彼と一緒に花火を見た。
夜空に大輪の花火が次々と咲いては散っていく。そのたびに心の奥が温かくなるような、でもどこか切なさを感じさせる不思議な気持ちが広がった。
ふと、彼が私の腰に腕を回し、優しい声で言った。
「一緒に見てくれてありがとう。」
その声には、彼の不器用な優しさがにじみ出ていた。
「こちらこそ、ありがとう。私もすごく嬉しいよ。」
私は彼の肩にもたれかかりながら、夜空に広がる光の華を見つめた。
彼の体温がほんのりと伝わってくる。
だけど、そんな幸せな瞬間にも、私の胸には少しだけ重い影がよぎる。
彼はたまに、ふとした時に見せる、説明できないような表情をする。
それを見るたびに、彼の心の中にまだ元カノの存在があるのではないかと思ってしまう。
私は聞けなかった。
聞いたら、この特別な時間が壊れてしまう気がしたから。
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付き合っている間、私たちは本当に色んな時間を共に過ごした。
ギリシャ料理を食べに行ったり
小腹が空いた時にサブウェイへ立ち寄ったり
プールやサウナ
お祭り
料理を一緒に作ったり
彼の好きなサラミのピザを買って家で食べたり
日本食を食べに行ったり
時には二人乗り用の自転車で並んで笑い合った。
彼は最初、たばこを吸っていることを隠していた。
私自身、タバコを吸う人には抵抗があったし、正直「絶対嫌だ」と思っていた。
でも、彼を好きになったらそんな固定観念はいつの間にか消えていた。
彼は私に気づかれないように入念にブレスケアをしていたらしい。
「実はね」と笑いながら後で教えてくれた時、私は思わず「もう!」と笑ってしまった。彼のそんな気遣いが可愛かった。
だから、キスをしてもタバコの匂いに気づいたことは一度もなかった。
でも、ある日、彼がタバコを吸った後、ふいにキスをしてきた。
いつもと違う感覚。唇に触れた瞬間、ほんのりと苦くて、煙の香りが混ざった味がした。
初めての味だった。そして、その刺激が不思議なほど心を揺さぶった。
少しだけ胸がドキリとする――どこか背徳的で、それが妙にエロく感じられた。
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彼はいつも私にお金を払わせようとはしなかった。
レストランでも、カフェでも、細かい場面でさえも、彼が自然に支払いを済ませてしまう。
私はその気持ちが嬉しかったけれど、何か返したいと思うこともあった。
だから、たまに小さなプレゼントを選んで渡したり、彼の体に良さそうなものを持って行ったりしていた。
ある時、彼の偏った食生活が気になって、色んな野菜がたっぷり入ったサラダを買って行ったことがある。
「これ、あなたに食べてほしいなと思って。」そう言って彼に渡した。
彼は驚いた顔をして「ありがとう!」と笑った後、真剣な顔でこう聞いてきた。
「いくらだった?」
私は首を振りながら答えた。
「違うよ、いつも払ってもらっているし、これは私があなたのために持ってきたの。」
それでも彼は「そんなのいいよ。いくらだった?」とまた聞いてきた。
その時、私は彼の唇にそっとキスをしてから言った。
「ほら、早く一緒に食べよう?」
彼は一瞬驚いた顔をしてから、微笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。
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彼は別にお金持ちではなかった。
でも、私のために色々と出してくれるその姿が、真剣さの表れのように感じられて嬉しかった。
それでも時々、私は心のどこかで自問してしまう。
「あの時、彼の気持ちは本気だったのだろうか?それともただの気の迷いだったのだろうか?」
その考えが浮かぶたび、こんなことで「本気」や「遊び」を計ってしまう自分が情けなくなる。
彼の行動のひとつひとつに答えを求めている自分が薄っぺらく感じてしまうのだ。
でも――それには理由がある。その理由については、また後で書こうと思う。
彼と過ごす日々は、ただただ楽しかった。
けれど、彼を好きになればなるほど、どこか悲しくなっていった。
私たちは、それぞれの国に帰らなければならない日が近づいていることを知っていた。
その事実を思い出すたび、彼と過ごせる時間がかけがえのない幸せに感じられる一方で、その幸せがいつか終わってしまうかもしれないという悲しみが胸を締め付けた。
彼がくれる優しさや笑顔に触れるたびに、「このままずっと一緒にいられたら」と願わずにはいられなかった。
そんなある日、私たちの関係が大きく変わる出来事が――。




