神への祈り
卒業式が終わる。そして、舞踏会が始まった。王子が用意したドレスを着て、王子と踊る。踊り終えるとイリスは飲み物を、持って来ると言って少し離れた。ぼーと、していると1人の男性に声を掛けられる。
「俺と踊ってくださいませんか?」
「え?」
仮面を付けていたが綺麗な鼻筋の通った顔立ち、どこかで……。そう思っていると手を引かれる。少し踊る。このダンスの上手さは…、まさか?!
「あなた、ツェペシュなの?」
「なんのことだか?それより1人なのだな?」
「王子は飲み物を取ってきてくれると言って……」
「くくっそうか、幸せになったんだな。」
そう笑う男。踊り終わると歓声が響いた。この踊りの上手さ、そしてあの声……やっぱり。
「ツェペシュなのよね?」
そう言った瞬間人混みに消えた。必死で追いかけるがもう居なかった。かわりにイリスが現れる。
「マリア、俺以外と踊るなよ!」
「ごめんなさい。」
「まあ、いいけど。はい。飲み物。」
「ありがとうございます。」
また、彼に想いを告げられなかった。もう会えないかもしれない。そう思うと涙が零れた。
「マリア?さっきのやつに何かされたのか?」
「いいえ、目にゴミが入っただけですわ。」
誤魔化す。そうして夜はふけていった。そして、ついに結婚式の日が来てしまう。化粧をして綺麗なドレスに身を包んだマリア。そんなマリアはイリスと結婚することになってしまった。嫌だと言ったのに誰も止めてはくれなかった。誓いのキスが近付いてくる。嫌だ。こんなの!嫌だ!
「嫌、嫌っ!」
するとその叫びに応えるように急に当たりが暗くなった。シャンデリアの火が消えた。そして、気がつくと1人の男に抱き抱えられていた。
「マリア!」
「あなた、誰!?」
そう聞いて見たが答えない。殺されるのだろうか?男はステンドグラスを割ってマリアと外にでる。横顔を見て確信した。
「あなた、ツェペシュ?!」
「さぁな。」
「ツェペシュ!!」
ツェペシュに抱きついた。
「そのまま離すなよ。」
ツェペシュは勢いよく走ってゆく。そして馬車に付いた。馬車には使用人らしき人がいて馬車を動かしてくれた。
「あれ?でも使用人はいないんじゃ?」
「使い魔だ。」
使い魔は馬車をとんでもないスピードで操り、森へと向かう。
「どうして?助けにきてくれたの?」
「いや、その、お前に言いたいことがあったんだ。」
「え?」
「好きだ、マリア!」
その言葉に唖然とした。
「え?嫌いだったんじゃ?」
「本当は伝えるつもりなんて、なかったんだ。でも、現代に転生して思ったんだ。伝えたいと!」
「現代に転生?もしかして森衛先輩って……」
「俺だ。」
なんとなくそうではないかと思っていたけどまさかかなでだけじゃなく、ツェペシュまで転生しているとは!
馬車が急にとまった。窓から見ると使い魔は血まみれになっていた。
銃の音が響く。ツェペシュとマリアはそこから走った。しかし、途中でツェペシュに弾丸が当たる。そう、銀の弾丸だ。ツェペシュはその場に崩れ落ちた。
「ツェペシュ!」
ツェペシュは血をしばらく吸っていなかったようだ。ツェペシュの身体は太陽の光を浴びて崩れかけていた。血を飲んでいないことで栄養が取れずに身体を保てないのである。マリアは泣きながらそっとツェペシュの手を取る。
「お願い!死なないで!消えないで!」
マリアはツェペシュに首筋を差し出す。
「マリア、俺はお前を、失いたくない!だから、吸わない!」
頑なにマリアの血を拒むツェペシュはそっと目を閉じる。マリアは持っていた銀のナイフで自らの手首を切り、流れる血をツェペシュの口元へと差し出した。
ツェペシュはそれでも飲まない。マリアは血を口に含んでキスをした。鉄臭い味が口に広がると同時にツェペシュの冷たい唇の柔らかい感触が伝わる。ツェペシュの顔色は相変わらず青白いが血を与えたことで崩れかけていた身体は元に戻り、消滅の危機は脱したらしい。
「マリア…」
「ツェペシュ!」
マリアはツェペシュに抱きついた。ツェペシュはそっと優しくマリアを包み込む。
「もっと、のん…」
もっと飲んで、そう言いかけて目の前が真っ暗になった。
「マリア!?」
神様、どうかツェペシュが一人ぼっちになりませんように……と、マリアは祈った。