転生
目覚めるとそこは知らない場所だった。またベッドの上だけど。
”ツェペシュ!”
そう言おうとした口は上手く動かせなかった。
「だぁ!」
だぁ?
よく見ると手足が小さい。
え?これは一体?
どうやら転生したらしい。
「マリア!目覚めたのか!ほーらっ!ベロベロばぁ!」
名前はそのままらしい。父親らしき人がそう言う。夢でも見ていたのだろうか?ツェペシュとの日々は夢だったのだろうか?
今となってはわからない。私はこの世界で生きていく。
16年後、
「マリア!」
「あ、かなで!おはよう!」
「おはよう!」
このかなでは凄くいい子で、あの夢に出てきたかなでとは全然違うのだ。幼なじみのかなで14歳は私に乙女ゲームを教えてくれた師匠である。
「ねぇ!”ヴァンパイア・ブラッド・ラブ”の新作出るんだって!!」
「え!?そうなの?!」
「うん!楽しみ!来年らしいよ!」
「来年かぁ!お小遣い貯めとかないとなぁー。」
なんて話ながら登校する。変な前世の夢の世界はこの乙女ゲーム”ヴァンパイア・ブラッド・ラブ”の世界に似ていた。だからかなでから教えてもらってから”ヴァンパイア・ブラッド・ラブ”にどハマりしたのだった。
「次のお話確か前作の悪役令嬢が復活する話らしいよー!」
「あく、やく、令嬢?」
何故か痛む心を無視して話を続けた。
「そーそ!あのどんくさい悪役令嬢いたじゃん?名前なんだっけ?」
どんくさい?何故かイライラする。
「マリアじゃない?」
「そーそー!そいつ!転生するらしいよ!」
そいつ……
何故か胸が痛むが何故かわからない。きっとあの変な夢のせいである。
「あっ!それよりマリア!今日の英語の宿題終わってる?」
「終わってるよ!」
「ちょっと写していいかな?」
「いいわよ。」
「やったー!ありがとう!」
こんな感じでいつも仲良しだった。学校につくとかなではマリアの宿題を写す。
「かなでちゃんマリアちゃんおはよう!」
「「おはよう!」」
女学生が話しかけてくる。そして先生が入ってきてチャイムがなった。
「あー、今日の日直はー、令嬢だったな!このノート職員室に持っていっといてくれ。頼んだぞー!」
「マリア運ないねー!手伝おうか?」
「ううん、大丈夫!ありがとうかなで!」
かなでに悪いと思って1人で持ってゆこうとする。だが、かなでは
「こら!強がらない!親友なんだからいつでも頼ってよ!」
「かなで……ありがとう!」
本当にあの夢にでてきたかなでとは別人である。
2人でノートの山を運んでいると前からくる男子学生を避けようとしてバランスを崩す。
「きゃっ!?」
そのままノートをぶちまけてコケてしまうと思った。思わず瞑った目を開ける。そこにはマリアを支えてくれている男子生徒がいた。ノートが床に飛び散っている。
「大丈夫か?」
「え、あ、は、……」
息をのんだ。だってそこにいたのは……。
「マリア大丈夫?!」
かなでは心配そうに駆け寄ってきてノートを集めだす。
「怪我はないか?」
「は、はい。」
影のある暗い雰囲気だが綺麗な顔をした彼はまるで、そう、まるで、あの、ツェペシュだった。
「マリア?大丈夫?」
「あっ、ご、ごめん!すぐに拾うよ!」
マリアもノートを拾って集める。ツェペシュに似た彼もノートを拾ってくれた。ノートの束を持ちながら彼は
「俺も持っていくの手伝う。」
と言ってくれた。結局3人で職員室へと向かい。ノートを無事に運べたのである。
「あの!ありがとうございます!」
「ああ、気にするな。」
そう言ってツェペシュに似た彼は去っていった。それを見て、ニマニマしたかなでがマリアに耳打ちする。
「彼の事好きになっちゃったの?」
「え?ええーーー?!ち、違うわよ!」
「へー!そうかなぁ?」
「違うったら!」
マリアはいつになくムキになってそういう。
「わかったわかったー!彼はね!3年の先輩の森衛先輩だよ?」
「森衛先輩?どうして知ってるの?」
「ほら、イケメンだし、ハーフらしいから有名なのよ!」
「へー。」
きっと他人の空似だろう。マリアはそう思った。
放課後、掃除当番のかなでと別れて下校する。すると、どこからかにゃーにゃーと、猫の鳴き声が聞こえた。どこだろうと探すと木の上に登って降りられないらしい。助けなきゃ!そう思った。1人ぼっちで誰にも助けて貰えなくて前に進むことも戻る事もできない。そんな状況が自分と重なったからだ。手を伸ばすが届かない。なんとか登って助けようとするが上手くいかない。更に登って手を伸ばす。掴んだ。
「やっ」
やったー!と言おうとした口は異変を感じ、悲鳴にかわる。
「きゃー!」
木から落ちてゆく。このままでは!そう思った時だった。しばらくたった。痛くない。なぜ?
閉じていた目を開ける。
「おい、大丈夫か?」
そこにいたのはツェペシュ、否、森衛先輩だった。
「先輩!?」
森衛先輩はマリアをそっと下ろした。
「あ、ありがとうございます!」
猫はにゃーにゃーと言って森衛にお礼を言っているようだった。猫を逃がす。
「……バカなんだな。」
「へ?」
「猫一匹の為に怪我覚悟で登るとかバカだっていってるんだ。」
「……」
その言葉が胸に刺さる。その話し方もツェペシュそっくりだった。
「っ!泣かせるつもりはなかったんだ。すまない。」
気がつくと大粒の涙を流していた。
「あ、いや、これはその、大丈夫です!大丈夫ですから!」
そう言ってそのまま逃げていった。
あれは夢の話だ。森衛先輩は関係ない。そう思ってただ走った。
次の日である。マリアは机の中に異変を感じた。何か、ある。
そっと手を入れて、握って、出してみる。
手紙だ。
そこには放課後、校舎裏に来るようにと書いてあった。いつものことである。これは彼からのメッセージだ。放課後、校舎裏にゆくと、そこには王子がいた。王子は苗字である。彼とは許嫁なのだが、王子はイケメンで女子に人気があるのでよく隠れて会っているのだ。
「今日はなんの用?」
そこにはかなでと王子がいた。嫌な予感がした。
「かなで?どうして?」
「俺から話そう!」
そう言って王子はマリアに向かってこう叫ぶ。
「今までお前はかなでの友達だとかなでが言うからいじめを見逃して来たがもう我慢ならん!」
「は?」
いじめ?なんだろ?どこかデジャブが……。
「お前との婚約を破棄し、奏と婚約する!!」
「はぁ?」
なんだろう。これどこかで見たことが……あの夢である。嘘だ。こんなの……。
「お前には失望したよ。マリア!」
失望したのはこっちである。と、言うより、この状況がよく飲み込めない。
「かなで?どう言うこと?」
「……マリアっ!貴方は唯一の友達!だから我慢してきたけど、もう我慢ならないの!」
「は?」
いじめなどしていない。何を言っているんだ。
「お前、かなでを殺そうとしたらしいな?」
「はい?」
どこまでも意味不明である。身に覚えにない。
「飲んでいたお茶に毒を入れたって聞いたぞ!かなでから!お前はもう終わりだ!この事は警察に相談したからなっ!」
「……かなで?嘘よね?私達、親友…」
かなでは泣きじゃくった。
「かなで、もう我慢しなくていいんだ。俺が守るから。」
王子はそういうと、かなでを連れて去っていく。
終わった。私の人生、終わった。許嫁を奪われただけでなく、身に覚えの無い罪を被せられてもうすぐ捕まる。嘘だ。
「かな……」
笑った。この女、今、顔を隠して笑った。悪魔の笑みとでも言うべきだろう。
2人は去ってゆく。マリアは何も出来ないままその場に立ち尽くした。
どうしよう、捕まる。いや、何もしてないのだ。捕まるわけが……。しばらくするとサイレンが鳴り響く。警察がやってきた。
「令嬢マリアだな。殺人未遂の容疑で逮捕する!」
違う!違うの!誰か…、誰でもいい!否定してくれ!味方になってくれ!そう願うが周囲は冷たかった。誰も、……味方してくれない。
マリアは再び絶望した。だってこれじゃ、前世と一緒である。かなではいい子だって思っていたのに?!なぜこうなったのだろう?わからない。警察に捕まる前にマリアは走った。屋上へと走る。
「無駄な抵抗はやめなさい!」
警察がメガフォンでそう叫ぶ。
「なんでこうなるのよ!」
そういいながらポケットの中を見た。ゲームソフトが入っている。
「っ!転生できるなら!次はあの女に復讐してみせるわ!!」
そう言って飛び降りた。2度目の死がやってきた。
「……また、伝えられなかったな。」
少女が飛び降りた後、屋上に走ってやってきた青年はそう呟いた。
こんにちは!悪役令嬢はヴァンパイア伯爵の餌の続編です!よろしくお願いします。なお、更新は不定期です。ご了承ください。