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覚醒の儀

 司祭に案内されたのは8畳くらいの部屋で、テーブルと椅子とちょっとした調度品があるこじんまりとした部屋だ。と思ったところでハタと気付く。8畳ってこじんまりした部屋か? と。この世界に来てから感覚がおかしくなっている気がする。よくよく見ると結構いいつくりの家具だよ。

「それではお召替えしましょうか。」

うん? 司祭の声に我に返って、彼を見る。テーブルに着替えを置いて、オレの服を脱がそうと手を伸ばしているのが見えた。

「いや! 大丈夫! 一人で着替えられるから!!」

「しかし…」

「大丈夫!!」

着替えを手伝ってもらうとか、怪我しても無ければ病気で倒れてる訳でも無いっつうのに、無理。日本の庶民のオレには無理。着方が分からない時だけ教えてくれればいいから、と、断固として拒否して一人で着替える権利をもぎ取った。

 まあ、男同士なので目の前で着替えするのは特に抵抗は無いんだけど。なんか脱がされるとかちょっとなぁ。ともかく、気を取り直して着替えを始める。

 真っ白のローブってやつ? 司祭の来ている服に似ているけど、布の質感はもっとさらっとしてふわっとしている。うん、布の種類とか分からんからそんな感想だな。綿とか絹とかとは違うとしか分からん。ひらっひらなのがちょっと恥ずかしいけど… うん、司祭の服に似てるって思ったけどアレだ、これ黒かったらビジュアル系の人とか着てそうなデザインかもしれない。金の刺繡がされていてシンプルなのになんか豪華な感じがする。

 んー、語彙力無いなあ。まあいいか。


 着替えも終わったところで、司祭に案内されてさっきの精霊石があった所に戻る。精霊石しかなかった部屋には祭壇が設置されていた。爽やかな… ミントっぽい? 感じの香りがする。祭壇の上には蝋燭やらなにやら置かれているから、この香りもそこからなのかもしれない。暫くして王子もここに戻ってきた。

「それでは儀式を始めましょうかな。 アーサー様は今回はあちら側でお待ちいただけますかな。」

クローヴィス枢機卿はこの部屋、広間? の端の方を差してそう言った。

「ああ、そうだな。」

端に行けと言われたにもかかわらず、気にする気配もなく王子はその言葉に従う。神殿の権力がすごいのか、単に王子の物分かりがいいのか、どっちなんだろうか。


「さて、聖女様。儀式の流れですが… なに、簡単です。その祭壇の前で跪いてくだされ。そうしましたら、まずは私が貴方様を聖別いたします。それが終わりましたらあの精霊石に意識を集中してくだされ。声が聞こえるまで。声が聞こえましたら儀式は完了となりますな。」

枢機卿がそう説明してくれた。跪いて集中するだけならオレにもできそうだな。難しそうなことは枢機卿がするっぽいし。

 オレが頷くと、枢機卿はオレを祭壇の前に誘導した。


 跪くと言われたので、なんとなく気分で祈りを捧げるようなポーズで祭壇の前に待機する。

「それでは、始めますぞ。」

枢機卿のその声で儀式は始まった。ここに来て、初めて枢機卿が何を言っているのか分からなくなった。呪文ってヤツだろうか。呪文を唱えながら、何かを焼いているみたいだ。パチパチと音がして、ミントみたいだった香りがこう、森の中にいるみたいな香りになる。あ、お香ってのを焚いてるのかな? うーん、このポーズは失敗した。頭を下げてるから何してるか見えない。…気になる。

 水の音が聞こえる。風の音が聞こえる。土の匂いがして、火が燃える熱を感じる。…気になる。動いて良いか確認しとけばよかった。


「聖女様、雑念を捨てて集中してくだされ。」

枢機卿の声が遠くで聞こえた。いつの間に離れたんだろう。集中、集中か。

 爽やかな香りが、風に乗ってすり抜けていく。香りはまた変化していった。森を抜けて草原を過ぎて、花畑を通って、そうして磯の香りがする。海の匂いがどんどん濃くなる。溺れそう。なのにどこか安心するのは… きらきらするのは太陽の光を反射する水面、深い青、その底は暗闇が待っている。その暗闇を通り抜ければ…

『ああ、口惜しや…』

誰かが嘆いていた。知ってる、あんたを、オレは知ってる。


 あんたは、オレの――…

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