幻想と妄想と②
「ここは?」
目の前にあったはずの祭壇も、その奥にあった精霊石も見当たらない。と言うか、枢機卿も王子の姿も見当たらない。そもそも何もない。床も柱も天井も。辺り一面、綺麗な水で満たされているみたいだ。みたいだ、ってのは、息ができるし冷たさも感じないからだ。でも、水中にいるような重さは感じる。
「ここは水神様の領域、その入り口だよ。」
さっきの声がまた聞こえて、オレは反射的にそっちを向いた。子供の人魚、って言えば分かるだろうか。三頭身っていうの? 全体的にふっくらとした体形の人魚がいた。幼児体系だし下半身魚だし、正直男か女か分からない。でもこの国男しかいないって言ってたから男なのかなあ? 可愛いのになあ。
「オレなんでここにいるの?」
「? 覚醒の儀式したよね?」
「うん、したわ。それ。」
「それでね、水神様が直接キミとお話したいんだって。」
そっかー、とオレは答えた。見た目通り子供だからなのか、オレの質問の仕方が悪いのか分かんないけど、このまま話しても遠回りな気もする。でもなんか可愛いからいいや。多分水神様とやらに直接聞いたら色々分かるんだろうし、案内してもらおう。
「じゃあさ、水神様のとこに連れてってくれるか?」
うん! とめっちゃくちゃキラキラした笑顔で人魚の子供は返事をして、オレの手を引いて泳ぎ出した。
さっきは気が動転していたのか、こんなにでかい建物が目に入らなかったみたいだ。人魚の子供がオレの手を引いて向かうのは、白と青で彩られた絵本で良く見る竜宮城みたいな建物だ。木の代わりに珊瑚が生えてる。やっぱり水の中、っていうか海の中とか何だろうか。少し浦島太郎の気分だわ、これ。…全部夢ならいいのにな。髪の毛が白くなった辺りから全部。そうなると随分痛々しい夢を見てるってことになる訳なんだが。近付いてくる竜宮城を眺めながら、オレは現実逃避していた。
竜宮城の大きな入り口を通り、長い廊下を通り過ぎて、大広間って感じの場所に連れてこられた。人魚の子供は、あそこにいらっしゃるのが水神様だよ、頑張って! とか言ってどこかに行ってしまった。オレを置いていくなよ、と思ったけど子供だしな、しょうがねぇよな、と思い直した。
正面の玉座には全体的に薄水色って感じの人?神サマ?が座っていた。長い髪が水の中に揺蕩っている。整った顔、ひらひらとした衣、あと、胸。女神様なんだなーとちょっとだけ感動した。
「悠斗、良く来ました。」
玉座の女の人、状況的に水神様なんだろう、その人じゃないや神様がオレに声をかけた。聞いてて落ち着く、大人の女の人の声だ。さっきまで妙にテンションの高いおっさんばっかりだったから、ホントに安心する。
「あ、はい。」
安心しきってうっかり間抜けな返事しちゃったわ。でもそれに怒ったり、不機嫌になったりした様子は無く、水神様(推定)は、
「いきなりのことで戸惑うことも多いでしょう。」
と、オレに理解を示してくれた。好きになりそう。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は水神。世界の一角を担う、水に纏わる者を支配し司る者です。」
水神様はそう言ってにこりと笑いかけてくれた。めっちゃ美人。
「あなたは、遠い昔に人魚と人間との間にできた子の末裔です。いきなりこんなことを言われても受け入れられないかもしれませんが。」
眉を下げて、水神様は言った。王子が言ってたことと同じだ。向こうは仮定って感じだったけど。
「それじゃあ、オレはホントはこっちの世界の人間だったってことですか?」
「いえ、少し違います。あなたは遠い昔に分岐した世界の存在です。あなたの生まれた世界とこの世界は、所謂平行世界という関係性です。」
水神様の説明になるほどと思いつつ、ふと疑問に思う。パラレルワールドっていう割に、元の世界には魔法とかそう言うの無いよなと。
あったら良かったのにな。人生楽しくなりそうなんだよな。




