序:monologue
ある日、異変に気付いた。
ほんの少しの異変、のはずだったそれは思いの外… オレを蝕んでいたらしい。
「…。白髪?」
朝、顔を洗おうと洗面台の鏡に映った自分を見て、え? 何? オレまだ十代だけど? と不満を漏らしたのが数日前。
そして、若白髪の1本くらい気にしなければよかった、と思っている今日この頃。え? なんでそんなこと思ってるかって? メッシュ入れたみたいに白髪が増えて(なんでだ)、それだけじゃなくて、瞳の色も日に日に色素が薄くなっているように見えるからだ。
まあ、白髪は染めればいいって思うだろ? オレもそう思ったんだよ。1本しかなかった時は抜いたんだけどな、そのせいか知らんけど、次の日には1本どころか1房に増えてたんだよ。さすがに悪目立ち過ぎだろって思って、ドラックストアでカラー剤買って染めてみたんだよ。次の日… どころか午後には白く戻ってたよな。なんでだ(2回目)。しかも2房に増えるおまけつきだったぜ。嬉しくねえ。
そんなこんなで、どうにかしようとする度白髪が増えていって、メッシュになったところで対策を練るのも実行するのもやめた。このまま続けたら十代の身空で真っ白になっちまう。頭が。
…っつうか、ホントに白髪なんだろうか、コレ。なんつうか、銀っぽい感じもする。でも白髪か。いや、ふつうの白髪ではないよな。
って悩んでいるうちに、瞳の色がなんか違うことに気付いた。ダークブラウンだったはずが、明るい茶色に見える。光の加減かな? とか気楽に考えていたら、黄色味がかってきて、そうして。
だんだん色素が無くなっていって、白いというか青いというか、…こう、海の色のような。浮かれたリゾートの海っていうよりは、冬の海、日本海のような、どこか物悲しい色。
分かるだろうか。こんな得体のしれないことが身に降りかかるってことがどんなことか。髪がメッシュ手前になるくらいで、いじられるのに辟易したオレは、まさかの引きこもりになった。病院に行っても原因が分からず、瞳の色が薄くなってくると両親も腫れ物を扱うような態度を取るようになったのは本気でショックだったな。
同情してくれていいと思う。
誰にも会いたくなくて、何もしたくなくて、日がな一日ベッドの中で無為に過ごしていたある日のことだった。
何もしないことに飽きて、マンガを読んでみたりゲームをしたりしてもすぐに投げ出してただぼんやりと天井を眺めていた。ふと、何気なくスマホに触れる。何かがしたい訳じゃない。友人だと思ってたやつらからのメッセージが来ていると通知を無視して、結局何もせずにソレを投げ出そうとした、その瞬間。画面が謎の発光をする。カメラのフラッシュより強烈な光がオレの網膜を焼いた。
「んっだよ、これ!!」
日頃の鬱憤込みで、オレは苛立ちを隠せず吐き捨てた。
目を閉じていても、光が目を射抜く。真夏の太陽の下で目を閉じても真っ暗にならないあの感じだ。
目を庇うように自然に体を丸めていたオレは、他人の話し声に思わず顔を上げてしまった。いや、だってヘンだろ? オレは自分の部屋に一人で引きこもってたってのに、ガヤガヤと大勢が好き勝手に話している声が近くから聞こえるんだぜ?
「おお、聖女様…!」
感極まったおっさんの声が響く。
え? なに? 聖女? はやりのやつ?
オレは人ごとのように周りを見渡してみた。おっさんがたくさんいる。中世ヨーロッパの貴族っぽい格好のおっさんとか、RPGとかでよく見る司祭っぽい格好のおっさんとか。あ、若い兄ちゃんもいたわ。こっちは騎士っぽいな。人ごみの向こうには煌びやかな装飾の壁に天井が見える。
すげえな。コレ。夢じゃなかったら、あれだな。いわゆる巻き込まれ召喚とか転生とかってやつ? 最近鬱っぽかったけど、この展開はちょっとアガるかも。
ってウワサの聖女は?
オレは今度は自分の周りを見てみた。オレの真下の床には、魔法陣が淡く光っている。これが聖女召喚の魔法陣か。…。聖女は? オレしかいなくね?
なのにおっさん達は口々に聖女が、って盛り上がっている。
なんでだ(3回目)。