第9話 マカイジャー、魔界研修
「い~ち、い~っち! いち、に~っ!」
黄色い空の魔界の朝、俺達は銀色の鎧に身を包み声を出しながら走っていた。
胸の前で両腕にライフルを抱えて、見知らぬ学校のグラウンドを走る。
レトロな造りの赤レンガの校舎に囲われた校庭で、仲間達と武装マラソンだ。
ゴートランド王国にある、陸軍兵学校での朝の訓練である。
「進太郎、こっちの方だと元気ね? 何か私もだけど?」
「そらまあ、魔界の空気から魔力吸ってるし俺ら魔王印でリンクしてるし」
「そうなんだ、魔界もなんかいい所ね♪」
「その内、勇子ちゃんにも角とか生えるかもね♪」
俺も半分は魔族だからか、魔界の方が体が軽く力が沸く。
服の下は悪魔化して、サテュロス状態だ。
「私は普段、剣より重い物は持たないので鎧を着て走るのは結構きついです!」
「くう、まさかまた鎧着てこの場所で走らされるとは思わなかったぜっ!」
「私も走るの、好きじゃないのだ~っ!」
純粋な魔族のザーマス達は、愚痴を言いつつも走れていた。
ガンスは、この兵学校の卒業生だからか苦い顔だ。
俺達が何故、魔界で走っているのか?
それは、GWの休みに入ったある日の出来事が始まりだった。
「マカイジャーの皆様に命令です、連休中は本国で訓練に励むようにと」
大使館の玄関に集った俺達に、母上からの命令を伝えるギョリン。
「つまり、合宿って事ね♪」
「流石は勇子様、ご明察です♪」
ギョリンが勇子ちゃんを褒める。
「おいおい、マジかよこの合宿所の場所?」
「ガンスの母校ですね、兵学校ですか」
「頑張りたくないけれど、仕方ないのだ」
ザーマス達は乗り気ではなかったが、命令だから仕方ないね公務員だし軍人だし。
「殿下と勇子様には、ゴートランドについて学ぶようにとのことです」
「いい機会だな、自国の事を知らない駄目王子にならないようにがんばるよ」
「進太郎と合宿に行くって家に連絡したら、頑張ってねだって♪」
勇子ちゃんがスマホを見せて告げる、保護者の許可は得たらしい。
お向かいにある勇子ちゃんのご実家とは、幕末からの付き合いだ。
親戚みたいな距離間でご近所づきあいしてるから信頼が厚い。
俺と勇子ちゃんの代で、四世代くらい幼馴染してる計算だよ。
「ほらほら進太郎♪ 次の訓練メニューに行くんでしょ?」
「おお、そうだった! 十分小休止の後に、訓練用森林へ移動!」
副リーダーである勇子ちゃんの声に、俺は我に返る。
俺の指揮官訓練でもあるので、仲間達に指示を伝える。
「「ラジャーッ!」」
そして、小休止の後に俺達は昼間でも暗い感じの森に入った。
「相変わらずだなこの森、坊ちゃん達は気を付けて下さいよ?」
「了解、森を焼かないように注意するわ」
「ヤバイ罠とかあるのか案?」
「この森も花粉が出そうなのだ」
「ガンスは鼻、私は耳で探査します」
ガンスとザーマスを前に立たせ、ライフルをいつでも撃てるよう構えて進む。
「金属探知は私がするのだ、訓練用の施設だからきっと罠があるのだ!」
フンガーが、両目を光らせて地面などを照らす。
ブービートラップはなかったが、開けた場所に巨大な蜂の巣はあった。
「デカイ蜂が出たわ! 撃って良いのよね?」
「魔界の蜂だ、撃たないとヤバいぞっ!」
俺達は、赤ん坊サイズの鉢の群れをライフルで撃ちまくり撃破した。
森を出て戻ったら、午前の訓練は終わり。
「ふう、あの蜂だけで済んで良かったぜ」
こじんまりした食堂のキッチンで、ガンスがカレーを作りながら呟く。
「ガンスのカボチャカレー、久しぶりね♪」
勇子ちゃんは、テーブルに座り楽しみに待ている。
「蜂蜜は美味しいのに、手強かったのだ」
「美味しい蜂蜜を生み出すから手強いんですよ、美味い奴は強い」
同じくテーブルで待つ組のフンガーの呟きに、皆のグラスに蜂蜜ジュースを注いで配って回るザーマスが返事をする。
鎧を外して野戦服姿で俺達は寛いでいた。
「皆、お待たせ♪ 出来たぜ、食ってくれ♪」
ガンスがカレーライスを盛り付ければ、ザーマスが配る。
「軍隊と言えばカレーって、日本風ね♪ いただきます♪」
「そりゃ、家の国が日本をパクってるからね」
「皆様、午後は空挺なので食べ過ぎにはご注意を」
「うえ~? 空から落とされるのだ~?」
「坊ちゃん、陛下に進言して下さいよ軍用ヘリをくれって?」
「そこは、日本政府か米軍に払い下げ頼まないといけないんだよ」
「魔界の空挺って、何に乗るの?」
勇子ちゃんの言葉に、ザーマス達は黙り込んだ。
「でっかっ! このグリフォン、大きすぎない?」
「これが魔界のオスプレイこと、ビッググリフォンでございます」
「気圧が気持ち悪いのだ、カレー食べ過ぎたのだ」
「グリーン、吐くなよ?」
「よ~しよし、良い子だ~♪ はい、ここでホバリング!」
俺がデーモンナイトに、皆はマカイジャーに変身しての空挺訓練。
大型バスサイズのグリフォンを俺が操り、目標地点上空でホバリングさせる。
「じゃあ、まずは私からファイヤ~ッ!」
レッドから飛び降りる。
「おっし、次は俺だっ!」
続いて俺が空中へと踊り出す。
「お~ち~る~の~だ~っ!」
一番重いグリーンが落下、レッドがキャッチし背中と足から炎を出して愛く。
「行きますよ、イエロー!」
「離したら恨むからな、ブルーッ!」
イエローとブルーも飛び降り、俺達は空中で手を繋ぎ輪となり降下して行く。
俺とレッドとブルーの飛行能力が、パラシュートの代わりだ。
「このの高さなら良いだろイエロー?」
「うっす、五点着地しまっす!」
「散開ね!」
「これ位の高さなら落下でも、耐えられる仕様なのだ♪」
「せ~の!」
地上から十メートルで散開、全員が五点着地で降り立つ。
「グリーン! 全員のスーツに飛行機能を付けてくれよ!」
「予算が降りたらなのだ」
「その予算を獲得するには、私達が活躍しないと駄目なんですよ?」
「ブルーの言う通り、スーツや装備の予算の為にも頑張ろう」
「他の乗り物や、ロボの開発費も稼がないとね♪」
俺達がスーパーマシンを駆るには、まだ時間とお金が必要だった。
グリフォンを呼び出し、兵学校へと帰還した俺達。
食堂で休憩を取っている時に、突如放送が始まった。
『緊急事態発生、マカイジャーの皆様は出動を願います!』
天井のスピーカーから流れた放送で立ち上がり、外へ飛び出す。
校庭にグリフォンに乗って降りて来たのは、ザーマスの姉のヴィクトリア。
「皆様、北西のパンプキン族の村に野盗が出現しました! 駐在の騎士が殺害された模様です! 直ちに討伐をお願いします!」
ヴィクトリアの言葉に頷き、グリフォンで移動する。
「見えてきました、火付けですと!」
「許せん、行くぞ皆!」
「「ラジャー!」」
変身した俺達は、高所から飛び降りて火の手が上がる村へと降臨した。
敵は剣や槍で武装したダークエルフの一団だった。
「げげっ! その黒い鎧は混血王子!」
「けったいな鎧着た手下もいるぞ! やっちまえ!」
「ヒャッハ~ッ♪」
襲い来るダークエルフ達。
自分達に勢いがあると思ったのか、まずは前衛が力任せの突撃だ。
「お前ら、地獄へ落ちろ! マカイショット!」
イエローが個人武装の二連装ショットガンをぶっぱなし、愚か者たちを止める。
「我らマカイジャー、この国を荒らす者は許しません。 マカイサーベル!」
ブルーの個人武装は刀身が青いサーベル、足が止まった敵に近づき切る。
「僕達の国で悪さはさせないのだ~っ! マカイハンマーゥ!」
グリーンも雄叫びを上げて、棘付きの鎖鉄球を投げつける。
「大人しく降参する気はなさそうね、マカイカリバー!」
レッドも両手剣を握り突撃する。
「判決、問答無用で死罪っ! デーモンパンチッ!」
俺の国の村を荒らし、民に害をなす奴に慈悲はない。
弁護無しの即決裁判で断罪を決め、拳から巨大な闇のエネルギーを放出して殴る。
これで敵の前衛集団は全滅だ。
「ちいっ! 後衛共は魔法を使え!」
後方で様子見をしていた、鉄の騎士鎧姿のダークエルフの男。
あれが賊の頭目、血で汚れた鎧の胸の南瓜マークは家の国の騎士の物だ。
頭目が灰色のローブ姿の魔法使い達に命じて呪文の詠唱を始めさせる。
「全員集合、マカイカノンだ!」
俺の号令に皆が集い、巨大な黒い車輪付きの大砲を召喚する。
「「マカイカノン、ファイヤーッ!」」
俺達の魔力を込めれば、大砲の砲口から黒いビームが放出される。
こちらの砲撃が、敵の魔法よりも早く発射されて着弾し大爆発を起こした。
「敵の後衛全滅を目視で確認!」
ブルーが報告する。
「おのれ、こんなトンチキナ奴らにやられてたまるか!」
運良く生き延びた敵の頭目が、片手剣を抜いて襲い掛かる。
「お前で最後だ、地獄へ落ちろデーモンキック!」
こちらも突っこみ、足にエネルギーを纏わせてドロップキック。
相手が慌てて剣で受けようとするも、こっちが鎧袖一触で敵を爆砕した。
「プリンスが止めを刺したのだ、殲滅完了なのだ」
「殲滅確認、消火作業に行きやしょう!」
「よし、作業開始っ!」
敵の殲滅後、俺達は急ぎ村の消火作業と救助活動を開始した。
「雨よ降れ、デーモンスコール!」
俺は空を飛び、魔力で広大な雨雲を生み出して大雨を降らせて火を消す。
グリーンは燃やされた家屋の破壊、ブルーとイエローは救助者の創作と搬送。
「命の炎は消させない、サンライトヒール!」
レッドは村の広場に運び出されたパンプキン族の村人達の上に、小型の太陽を生み出して負傷者達に光を当てて傷を癒し命を呼び覚まして行く。
レッドのお陰で火災や賊により傷付いた住民達の命を、全員を助けられた。
俺達は、地球に加えて魔界での初事件を終わらせたのであった。