表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

主婦ソルジャー

作者: くろねこ

 がんがんがん♪


 「朝ごはんですよ~」


 朝、台所に鍋を叩き、家族を起こす音が家にこだまする。


 「ふぁぁぁ~い」

 「……」


  間の抜けた声と共に、眠たそうに目をこすり、ぞろぞろ降りてくる旦那と子供。

  二人とも抜けてるけど、其処がかわいいのよね。


 「さっさと食べて、遅れないようにね~」


 今日の朝ごはんは、トリモモのトマトスープ煮込みに、トーストしたパン。

 昨日の有り合わせだ。


 「……」

 「……」


 でも、二人とも文句言わずに食べてくれる。

 半分寝ながら食べてるから、誤魔化されるのかもしれないけど、好き嫌いがないのはありがたい。

 そうこうしているうちに、二人とも食べ終わり、それぞれ身支度を整えると職場や学校へゆく。


 家族を食べさせ、家から送り出すと、それから自分の仕事が始まるの、わたしの本当のお仕事が。



 家から車で30分、基地外のある某国の軍事施設。

 ここが自分の仕事場だ。


 「おはようございます」


 ゲームの大会で優秀な成績を残したからスカウトされたこの職場。

 にこやかに同僚達に挨拶をして、PCとVRゴーグルの並んだゲームセンターのような室内に入る。

 でも、ココはアトラクションでは無い。

 れっきとした国の施設と言う事だ。


 「今日の作戦のミーティングをします」

 「「「はーい」」」


 主任の説明を受けながら、資料に目を通す私達。

 今日のお仕事は害虫駆除(敵兵殺害)だ。

 けれど、私にはあんまり意味の無い事だった、どの道、AIが見つけたターゲットの、天使承認ボタンをクリックするだけの事だから。


 「では、今日も宜しくお願いします」


 上官が説明を終え、私達はそれぞれの席につく。


 「今日もがんばらなくっちゃね」


 VRゴーグルを被り、起動ボタンをアイリンクでクリックする。


 6Gでタイムラグ無く画面に即座に映し出される、地球の裏側の世界。

 そして、自分の操作する無人戦闘機は、基地となっている潜水艦からゲーム画面のように飛び立ってゆく。


 暫く飛行の後、自分の担当のエリア上空に着いた。

 日干しレンガで出来た建物が並ぶ中東の町並み。

 一言で言うと、極貧。

 文字通りのスラム街だ。


 だが、宵闇の上空にいるこっちの機体に気がついていないらしい。

 さすが、光学ステルスを搭載した機体ね。

 モニター越しの眼下には何も変わらない、バザールなんかが広がるスラムの日常がひろがっていた。

 あ、広場で人が集まってる、若そうな男女を取り囲むように老若男女が集まって紙ふぶきを投げていた。

 紙ふぶきが雨のように降っている。

 たぶん結婚式だろう。

 

 でも、今日は、ここらに居る害虫駆除がお仕事なのよね。

 お気の毒に。

 きっと一緒に駆除されちゃうのだろうから。

 まあ、ただのお仕事の自分には関係の無いはなしだから、そろそろ作業を始めますか。


 「この辺りでよいかな? アレフ、ザイン、ギメル……、

 みんな頑張ってね~」


 アレフやザインと言うのは、私がつけた親機から分離される攻撃用ドローンの愛機の名前。

 一番幾がアレフ、2番がザインという名前をつけてみたの、ただの機械でも名前をつけると、愛着がわくしね。


 そんな事を思いながら呟くように言うと、パージボタンを選択し、攻撃ユニットを展開する。


 同時、半透明な画面に、自分の位置を表す青の基点を中心に広がる13個の緑のグリッドが広がってゆく.

 。その外には、情報を共有している同僚達の位置情報が、黄色グリッドとして機体と攻撃ユニットの情報がみえる。

 

 そして、赤グリットは攻撃対象だ。


 自分の機体から広がってゆく13個のグリッドは、実物は見たこと無いけど、これは真っ黒いバレーボールのようなドローンに、反動の少ないジャイロジェット銃を搭載した自立式攻撃兵器。

 フクロウの羽の構造を模した羽は静穏にすぐれ、闇夜に音も無く対象に忍び寄る、昼間は発光するすることで空に紛れ優れたステルス性を発揮する。

 そして、AIが敵味方を判別し、最適な位置をキープして攻撃をする暗殺に優れた兵器、らしい。

 最初の説明のときに教えてもらっただけだから、その程度しか判らない。

 昔は、自爆ドローンやミサイルを放って爆殺してたらしいけど、コスト削減で一発あたりの単価が安い銃弾で済むならコレで良い、という事でこれに変ったらしい。

 お財布に厳しいのは国も家も同じね。


 ちなみに、同僚の機体は、自分と同じドローンと、親機ドローンから投下されると地面をワシャワシャ ムカデのように歩く敵基地深部攻撃用自爆型多脚ロボット、との事だ。

 多脚ロボットは高性能の指向性地雷クレイモアに蟹のような多数の脚が生え、百○棺のように走り回り、建物の奥深くまで進入して敵の集団をみつけると犬の伏せのような体性となり、背中の荷物を爆破して相手に不運をお届けするらしい。

 ポジショニングがよければ、一発でシェルターに避難している数十人をまとめて爆殺(昇天)できる、と言う説明で受けた話だった。


 もっとも、それ以上知ろうとも思わないけど。

 ただ、どっちの機体を選ぶにしろ、機械が選択してきたものに承認ボタンをクリックするだけだから。


 ーー1番、3番、7番 目標捕捉」


 そんな事を思っていると、つぎつぎとサブ画面に映し出されるターバンの男達。

 AIが本人認証し、目標である事を教えてくれる。

 たまに誤認もあるけどね。


 

 「お命ちょうだい、えい、えい、えい」


 サブ画面をクリックすると承認される。

 すると、一瞬閃光がみえ、人間がパタンと倒れ、次の瞬間には青いお花に変わって行く。

 自分達オペレーターの心的疲労に配慮しての画像処理らしい、

 だけど、それは心配しすぎと言うもの。

 ゲームの方が余程人をころして、グロイ画面がでるから。

 どちらがリアルか判らない位に。

 この程度じゃ、蚊ほど退治した罪悪感も出てこないわよ。


 青天の霹靂のような銃撃で、会場で起きるパニック。

 何時もだけど、クモの子を散らすように逃げるって意味がよく理解できる。

 火兎を吹いた盗賊のように、辱も外聞も義理もへったくれもなく、新郎が新婦を盾にし、親が子を置き去りにして、母親が背中の赤子を盾に変えて、親友が友人を踏みつけにしながら、われ先へと必死で逃げ惑ってる。

 人間ってあさましいなぁ。もっとも、人間が生きるってそんな物だけど。


 でも、乱戦になると誤射も増えるのにな……。

 気の毒に。

 個人での最適解を選んだつもりが、集団では最悪の選択ってよく有ることよね。


 「あっ」


 そんな事を思ってると、画面に小さな花が写っていた。

 小さな天使が昇天すると、その画面に画像処理されるらしい。

 隣には、寄り添うように咲く、ピンクの花もあった。


  つまり、それは……。

 ――あ、ミス承認誤爆しちゃってる。


 てへぺろ。


 照れ隠しにいたずらっぽく、舌をだした。


 だけど、特に怒られることも無い、失敗もあるわね。

 人間だもの。


 「こんな所に生まれたから悪いのよ、今度は良い所に生まれると良いわね」


 小さいお花の親子を前に呟いた。



 「あ、


 ピカッ

背後で何か光った。

「やっちゃった」

 何事かと思って、同僚の画面を見てみると、廃墟に小さなお花畑が広がっていた。

 どうやら、同僚が多脚ロボットを、民間人が避難している学校か幼稚園で間違って暴発させてしまったみたい。

 壊れたおもちゃの散らばる花畑の中に大きなクマのぬいぐるみがずたずたに破れ、頭部には何かの破片が悪魔のツノみたいに刺さってる。

 まさに 「あ、くまのぬいぐるみ」の光景ね。


 ま、そそっかしい彼女なら仕方がないわね。

 まあ、どうせテロリストが潜んでいたという事に変るんだろうし、こっちの実害は無いわね。

 広報担当が忙しくなるだけよね、給料ドロのあいつ等もタマには働かせないと。



 そんな事を思っていると、真っ黒な通信不能の画面に変わった。

 どうやら、アンチドローン用ジャミング兵器による攻撃があったみたい。


 通信妨害されると、本体はプログラミングで上空に退避し、攻撃ユニットのAI判断による無差別モードになる。

 画像認識と炭酸ガス探知と熱探知で人間と判断すると無条件で攻撃隊対象になる無慈悲なモードだ。

 その中で生き残れるのは友軍識別のアプリを入れたスマホをもってる人だけなのに。

 お気の毒に……。


 考えても仕方がないので、同僚達とカモミール茶を飲みながら、子供の話とか、老後のための資産運用とかのたわいの無い話をしながら時間を潰す。

今夜の晩御飯は何にしようかな? 肉か魚か……、。

 二人目欲しいけど、最近旦那様元気がないから、お肉にしようかな? 

 ――でも、肉なら予算が足りないなぁ。


 頑張って、お手当てを増やさないと……。


 そんな事を思っていると、通信が復活し、画面が再度映し変わった。


 其処に有ったのは、ボロボロの建物、そして無数の青い花と赤い花、たまにある小さい花。

 地面が赤土になり、つるつるになった地面がお花畑になったような光景だった。

 先程の結婚式の場所もキレイな花壇になっている。


 レーダーの画面に、炭酸ガスや熱などの生体反応をしめすグリットは無いみたい。

 AIによる無差別モードの間に害虫は全て駆除されたっぽい。


 「あ~あ……」


 やる事が無くなり、あたしは少ししょんぼりする。

 自分がクリックした青いお花が一つに付き、心労にたいするお手当てが5点追加されるのに……。

 今日の目標は500点なのに250点。目標の半分も行ってない。


 そんな日もあるわよね。

 今日のお肉は無し、豆腐だな……。


 そんな事を思っていると

 あ、そろそろ定時のお時間になっていた。


 格納ボタンを押すと、広がっていたグリットが収斂してゆく、

 数えてみると、1個足りない…。

 2番機、ザインが居ないみたい。

  1個は撃墜されたみたいね。

 まっ 消耗品みたいなものだからね、母艦の3Dプリンターで作るから、幾らでも生産されるらしい。

 明日には補充され元通りになる。

 だから、特に何も言われる事も無い。


 後は、攻撃ユニットを潜水空母に戻すのは自動でやってくれる。

 楽なものね。


 今日も、きれいなお花がさいたわね。


 ふと時計をみると 5時半をさしていた。


 「あ、今日は肉の特売!

 素敵なダーリンへプレゼントでそれなら肉が出せるかも!!

 急がないとタイムサービスが終わっちゃう!!」


 「失礼します~~」


 挨拶を終えると、ありえない位の速度で職場をあとにする。

  私にとっては、特売の売り場のほうが 本物の戦場だから。


 今日も血の川を渡る、(お店の)



 ちなみに1点、10円換算です。

 一人昇天して50円。

世界の風向きは小説のような世界に向かってますが、こんな世界が来ないことを切に望みます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] このような最新技術を使った戦争。 戦闘ゲームの上手な者の方が、こうした戦いに実戦経験のない兵士より適しているように思います。 自分は遠くて安全な場所にいるので、死の恐怖というものをまったく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ