誰が伝える?
みなさんこんにちはブルングです。
楽しんでいただけると幸いです。
「恐怖がたらんなぁ!!!敗戦国の捕虜風情が!」
そう言ってその軍人は、力を込めて男を殴った。その体躯から放たれた拳は、若い捕虜の下腹部にめり込んで静止する。みぞおちに強烈な一撃をくらったそいつは、低く声にもならない呻き声をあげながら倒れ込んだ。
「あーあ。また始まったっすよ……。毎朝こんなことされると、流石にイライラしてくるっす……」
「同感だ」
俺たちがヒソヒソと話していると、女性の声があたりに響いた。
「待ちなさいよ!こんなの理不尽よ!国際条約で体罰は禁止されていること、知らないの!?」
そこでは、1人の女性捕虜が、殴られた男に駆け寄っていた。その声には、理不尽に対する怒りがこもっている。
「あぁ。知っているとも。国際法は絶対だ。もし世間にバレたら……私は職を失うだろうな!!!だが……」
軍人は何かを言いかけると、手当をし始めた先ほどの女性に近づき、その長く、美しい髪を掴んで持ち上げた。
「痛い!何するのよ!この変態!」
それは彼女が言葉を発した瞬間だった。
「……え?……………っ!!!」
「嘘っすよね?流石にこれは……隊長!」
「………………」
俺たちが目にしたものは、色鮮やかな、赤い、赤い鮮血だった。
腹部にナイフが刺さったまま、血溜まりの中で座り込む彼女にオリントリア将兵は吐き捨てる。
「誰が貴様らの状況を伝えるというのだ?」
軍人はゆっくりとかがみ、ナイフを勢いよく引き抜いた。
「馬鹿な奴らだガハハハハ!!!!」
軍人は高笑いしながら、倒れ込む女性捕虜を蹴り飛ばし、先ほどの若い捕虜に向けて発砲した。
「この俺様に!逆らうことなどできないのだ!!!ガハハハハハ!!!!」
ひとしきり笑ったあと、軍人は大きく咳払いしてゆっくりと歩きだした。まだ飽き足らないのか、ちょうどいいサンドバッグを探しているようだった。
「お前らも、あぁはなりたくないだろう?であれば私に従うことだ。分かったな?」
軍人は手をポキポキと鳴らしながら全員を睨みつけていく。コツコツと足音が近づいていき、やがて、俺たちの前で立ち止まった。
「おい。そこの女。生意気な面をしているな?」
「俺様はな。人をいたぶるのが大好きだ。特に、女ならなおさらだ!!!最近はただの体罰では物足りなくてなぁ……」
そう言って先ほどの醜い笑顔をレイカに向けた。
俺は、嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
軍人は、今度はノコギリ状のナイフを取り出して、レイカの首に突き立てる。スラリとした首筋を、冷や汗が流れていった。
俺は、横目で様子を伺っていた。すぐにでもやつの首をねじ折れるように。
「この腐れ外道……」
俺が動き出そうとした時、レイカがそう声を発した。その瞬間だった。
「何をしているのです!スロイド少尉!」
その声と共に、奥の扉から長身の女性将兵が飛び出してきた。黒のコートと、漆黒の長髪を靡かせながら、静かに、しかし素早く近づいてきた。
その将兵は、軍人、スロイドの手を掴んで押し戻す。
2人はしばらくの間睨み合っていた。スロイドは200センチはあろうかと言う長身であり、その体躯と相待ってかなりの圧を感じたが、女性将兵も負けじと睨み返していた。
やがて、スロイドは嘲笑うかのように鼻を鳴らし、歩き去っていった。
残された女性将兵は、横目でこちらを見たあと、看守たちに命令した。
「彼らを、弔ってやれ。これは命令だ」
看守の中には、戸惑う者、迅速に動く者、捕虜たちを眺める者など、三者三様であったが、数分のうちに彼らの遺体は片付けられた。
「さて……仕事の時間だ。今日のことは忘れろ。全体。進め」
2人の遺体を運び出す看守たちの足音と、2人の将兵の言葉は、ここにいる全員の心の奥底に、何かを思い起こさせた。
彼らの目線は、怒気をはらんでいるもの、恐怖をはらんでいるもの、打って変わって何もないもの。
俺は、一体どんな目をしている?
つい10分前と、何か変わっただろうか?
俺は、少し静かになったレイカと共に、ゆっくりと歩きだした。
皆さん初めまして、ブルングです。
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(作品名:我が空の防人)
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