ミーティング
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水の配分に関する見直しは、ヒロポン国と魔術師と精霊達との問題だから、まずは関係者の間でこれまでの反省をしてほしいと言って ローズは 話し合いに加わることを断った。
そこで 魔道具を使って、国王ウィリアム・ポセイドン・ナイアード・その他精霊達との間で 話し合いがなされた。
結局のところ、現在ヒロポン国とその周辺の水の配分については ナイアードの力を使うマルレーンが全権を握っているに等しいので、単にナイアードがマルレーンと手を切ったところで、今度は ローズが水の供給係として命を絞り取られるだけだからである。
ウィリアムは頭を抱えた。
ナイアードも含めた精霊達が、もはやマルレーンに協力する気がないことも
ポセイドン神も、今回は精霊とローズに味方していることにも。
マルレーンによる水の供給が止まった瞬間から始まる民の不満が、ローズにぶつけられれば、ポセイドンは即座にローズをヒロポン国から連れ出し、
人間達が乾きによって全滅するまで神々も精霊達も自分がまだ知らぬすべての人外から見捨てられると 告げられた。
民の不満をおさえるべく 自分も努力するが、ローズにも一緒に耐えてほしい
事態の収拾に協力してもらいたいと述べると却下された。
人としてのよしみで ローズの情にすがって 彼女の魔力を駆使して水の供給をしてほしいと訴えたら、彼女の魔力をもってしても ヒロポン国の水需要を賄えるのは1年足らずだし、それはつまり 彼女が苦しみぬいて水を供給し続けて1年以内に死ぬことだと言われてしまった。
そして ポセイドンも精霊達も 彼女の命の絞りつくそうとする人間の横暴を許せぬから、そんなことを考えているのなら 津波と地割れと噴火と大風で3日以内にヒロポン国の土地全体をこの世から消し去る宣言されたので、
ウィリアムも 国王としていかに内政を執り行うか真剣に考えざるを得なかった。
ウィリアムは とりあえず考える時間が欲しいと言った。
「我々は 十分すぎるほどの時間と力をお前たち人間に与えた。
1時間で答えを出せ」それが 精霊達からの通告であった。
ウィリアムは ローズの傍らに行き、嘆いた。
「なにも 急に水の供給を止めなくてもいいだろうに」
「水がなければ作物は育ちません。飲み水がなければ 人も家畜も生きられません
飲み水しかなければ 人は3か月以内に衰弱死します。
そして人は 飢えと渇きにさらされれば3日とたたないうちに殺し合いを始めます。
違いますか?」ローズ
「違わない。
そもそも 父王が殺されたのも、水不足が原因だった。
内乱を収めることができたのも、 国民の数が減少して、食料や水の分配で争う必要がなくなり民衆が安全を求め始めたからだ」ウィリアム
「そして 生産活動が再開し、この半年の間に マルレーンによる水の収奪が一気に激しくなって
さらなる国土の乾燥化がはじまったことに気づかなかったのですか?
精霊達は だから人間とは完全に手を切る気になったと聞いてますが」ローズ
「その説明も 先ほど受けた。
しかし 水の利用を増やさなければ飢えは続く」ウィリアム
「つまりは そういうことです。
生活の向上を求める気持ちが貪欲さと表裏一体になっていることが問題なのです。
理を外れて とれるところから分捕ることを、収奪と自覚することなく
当たり前の営みだと考えるから、崩壊が進むのです。
自分達だけが自滅すればいいものを、周囲のモノを滅ぼしつくしてから自壊していく
その人間の愚かさが問題なのです」ローズ
「だったら 君は ヒロポン国民の数をもっと減らせというのか!」ウィリアム
「苦労も貧しさも分け合えばいいのです。
互いに希望も喜びも苦しみも等しく分配して 寿命の長さも皆が等しくわけあえばいい」ローズ
「恐ろしいことを言うな」ウィリアム
「自然を畏れ敬う気持ちが必要だと思いますよ。
過剰に求めれば 自然からしっぺ返しを食って飢えと渇きがやってくると思い知ることが、
逆に自然と調和して 人間の欲を抑える必要性を学ぶことにつながるのだと思います」ローズ
「誰かの得が誰かの損である社会は滅びて当然だと思います。
誰かの命を搾り取って自分は贅沢しようとする人間が一人でも居れば
人間の社会は腐り崩壊していく。
等しく苦労を分け合い等しく貧しくても、他者との協働を楽しいと感じる心、必要最低限が維持できれば満足できる生き方ができれば、その世界は 長期的に安定していくでしょう。
そして 自然の許す範囲で人口を維持していれば、つまり増えすぎなければ 豊かさを味わうことができると思います。
『民の数が国力だ・産めよ増やせよ・少子化を阻止せよ・出生数が減少すれば外から労働力を補う必要がある・低賃金労働者が必要だ』なんていう政治家は、人を搾取して自分が贅沢する強欲を正当化する糞ですよ。」ローズ
「しかしなぁ・・・」ウィリアム
「1時間たったぞ」
ジェットがウィリアムの前に姿を現し、告げた。
「民が悔い改める必要性を感じられるような 神の啓示を示してください」
ウィリアムはジェットの前にひれ伏した。
「どう思う?」ビューがローズに尋ねた。
「マルレーンや神官たちの所業について 民に告知するのは、王であるウィリアムの役目でしょ。
私は ヒロポン国から姿を消して 精霊達と共に 水の循環を整え雨を降らせる準備をするけど
ウィリアムが ヒロポン国の住民を国土の外に出すことなく内政をきちんと執り行なうのでないなら、
もうヒロポン国には戻らない。
雨ごいの生贄にされるのはまっぴらごめんですから」ローズ
「雨が降るのか?」ウィリアムは驚いたように言った。
「平和な土地 搾取のない土地にはね」ローズ
「せめて 最初に雨を降らせる前には 教えてほしい。
民の慰撫にその情報を利用したいから」ウィリアム
「で そのあと 民が望むほどの雨が降らないと責められるのは、あなた?私?」ローズ
ウィリアムは がっくりと崩れ折れた。
そのウィリアムにティンカーが声をかけた。
「魔術師が力を失うのは精霊を使役した罰だと最初にはっきりさせればいいじゃないか。
そして 最初の雨がふったあと、『これは神の愛し子の慈悲だけど、こっからあとは神は強欲を嫌い、天は公平さを求める。
慈悲は一度しかくだされない。神の愛し子はその役目を終えた』と告げればいいだけじゃないか」
「でも 水の循環を起動に乗せるためには、しばらくこの世界にとどまる必要があるわ。
それに 私は人間だから、時々は人の中で暮らしたいわ」ローズ
「それは あくまでも ローズをローズとして愛して受け入れてくれる人が居ればの話だろう。」ティンカー
「君の力を当てにする人の傍にとどまるのは」ティンカー
「お前の力を利用しようとする人間の中にお前を行かせるのは」精霊達
「反対だ!」ポセイドン・精霊達
「私と同じ過ちを繰り返さないで」ナイアード
「わかった。
国王として 民に告げるべきことは告げ、内政を執り行う。
そして ローズがローズとして安全に安心して暮らせる環境を用意するよう尽力するから、
君が俺の傍に居ても良いと感じたときには いつでも訪れて欲しい。」
ウィリアム
「ローズが望んでも 彼女を利用することは絶対に許さない」ポセイドン
「僕たちは 全力で彼女を止めるし、ローズを守るよ」ティンカー
「あーあ せっかく異世界に来ても やっぱり責任を果たしたら 残るは孤独だけなんて つまんなーい。
それでも やるだけのことはやるわよ。
私 まじめちゃんだから」ローズがやけくそのように言った。
「俺だって 孤独と責任感の中で生きているんだ。
国王としての義務を果たす。
だが 俺個人の幸せのために、君が僕の傍に居られるようにも努力する。
だから 少しぐらい 僕に期待を持ってほしいと思うが ダメか?」ウィリアム
「そこまで言うのなら・・私の期待が裏切られたときの文句もちゃんと聞いてね。
希望を持つということは 失望に耐えるということでもあるのだから
失望した時に文句ぐらい言わせてもらわないと やってられないのよ。
文句をいう自由ぐらいは 期待させてほしい」ローズ
「わかった。
その点だけは 期待にそうことを約束する。」ウィリアム
「ごめんね、期待の水準が低すぎて。」ローズ
「ウィリアムの期待が強すぎるんだ。
この世界の精霊すべてが死に絶える寸前になるまで 人間達が崩壊を進めて置いて
それをローズ一人の力で回復させ、そのためにローズの命が尽きるかもしれないという今この時に、
ローズに その役割を果たした後は休む間もなくウィリアム個人の幸せの実現にまで手を貸せっていうこと自体がおかしい」ティンカー
「同感ね」ナイアード
「お前がそれを言うか?」ポセイドンがあきれたようにナイアードに言った。
「情にほだされるという過ちを犯した私だからこそ、
純情な女の子を口説く男の浅ましさの裏に潜む狡さが見えるのよ」ナイアード
「そもそも ローズが失意をあらわにしつつも 責任を果たす・見返りは求めないと覚悟のほどを宣言した直後に、己の欲をローズにぶつけるウィリアムが惰弱なのだ。」ビュー
「まったくだ ローズだけでなく 我々の風の精霊だって命をかけて、雨を降らせようとしているのに、なーにが責任を負うことに伴う孤独だ。ふざけるな」
風の精霊達も口々に毒づいた。
「力弱き者は より大きな責任を負う者の苦労を無視するのが この世の常だな。
つまらん」ビューはつぶやき ローズをさらっていった。
精霊達が姿を消し、一人残されたウィリアムは 「うわあ~~~~」と叫んだ。
(たしかに 我々の尻ぬぐいを一方的にローズに押し付け
我々の過失をなかったことにするために 彼女の命を使役しようとしているのかもしれないが、
そのことに気づかず わがままを言ってしまったことを悪かったと思うが
そこまでコテンパに言わなくてもいいじゃないか!
数の暴力だ~~~。
ローズが居るから ヒロポン国の人間が渇きで死ぬことから救われるらしいが・・
そして どうやら ローズにすがらなければ誰一人として助からない状況に居るのだということも理解したが・・
俺だって 俺だって 独りぼっちなんだぞ~)
心の中でそう叫んだ時に、ゴツンと頭を蹴られた感じがした。
「役割は分担できても 責任は一人で負うしかないという本質の分らぬ愚か者め」
と言うポセイドンの声も聞こえた気がした。
さらに
「普通 男同士だったら、任務に集中して、仕事が終わってから 臨時パーティが解散しても俺たちの友情はかわらんとかかんとか 互いの絆をたしかめあって 今後の約束につなげるもんじゃないの?
あるいは 命がけの仕事に出る場合には、『今までありがとう』とかって感謝の言葉を述べて決意のほどを示すのでは?
なのに 相手が女だと、俺は頑張るから 仕事が終わったら お前は俺のご褒美として俺のモノになれ見たいに要求するのが当たり前みたいな感覚おかしいよ!」というティンカーの声までした。
「今回 お前は ローズの力にすがって、彼女の出立を見送る立場なのにな。
命がけにの旅に出るローズに向かって がんばるのは俺一人みたいな態度を示した。
つくづく人間の王の浅ましさを感じたよ」激しい風の音がした。




