ウィリアムの指示
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ローズが 林の中で陰々滅々していたころ、ウィリアム王は巡行中の馬車の中で影便を読んでいた。
影便とは 文字通り、影の者達からの報告書である。
ローズが一度戻ってきてしばらく5階に閉じこもって休養を取った後 再度旅だったこと、
ローズに対するエドガーの態度などがしたためられていた。
(こういう所で育ちの悪さが露呈するな。
いくら努力をして結果を出していても、高望みをして僻んで
誰かに八つ当たりするとは 困ったものだ。
自分より強い者にぶつかればいいものを、自分が強気に出ればつぶれる奴を狙い撃ちにするとは。
なまじ「いい人」の評価を得ているだけに始末に悪い)
ウィリアムは エドガーの振る舞いに嘆息した。
(ローズは 人を寄せ付けないことによって自分を守ろうとする幼さがあるから、
エドガーのようなずるい人間の手にかかると、あっという間に立場を悪くする危うさがある。
精霊達が ローズの良き師になれればいいのだが、
人外にそれを期待できるのだろうか?
後ろ盾のない優秀な人間ほど、いじめの対象になりやすいからやっかいだ。
しかも 女の子というのは幼いうちから闘争心を摘み取られ叩き潰されて育つから、やれやれだ。
意思が強く明晰な頭脳と感性豊かなのに闘争心を封じられていては、
サディストの生贄用に育てられているのも同じだ。
まったく とことん家族運に恵まれたなかった人だなローズは。
こちらの世界では、なんとか乗り切って幸せになってほしいが・・)
目いっぱいため息をついたあと、ウィリアムはカゲに伝言を送った。
「エドガーをローズから切り離せ。
神の愛し子親衛隊長の後任候補をひそかに探せ」と。
城に帰ったら、エドガーを外向きの仕事に回し、自分の個人生活やローズにはかかわらせまいと決めたウィリアムであった。
ウィリアムも 己の欲を封印することによって、ようやく本来の明晰な分析力をとりもどしたようである。
実のところ、ポセイドンから契約を忘れるなと最近連絡があっったばかりなのであった。
(国王になり 少々気が緩んでいたが、水問題を解決しなければ全生物が滅ぶと警告されれば
性根を据えなおさざるを得ないからな。
そのカギとなるのがローズだと言われれば、
彼女を全面的にバックアップするのが国王としての務めだ。
俺の恋愛問題はお蔵入り確定だ。)
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