風の精霊達
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ひと眠りしたローズがテントの外に出ると、泉の中の噴水は止まっていた。
かわりに 泉のあちこちに 人型のようなものががうずくまっていた。
「我らは風。
魔力を使って人の形をとらないことは 一か所にとどまっていることがむつかしい」ビューの声が聞こえた。
「たとえば ドーム状の結界の中に入れば 風としてその中にとどまることはできますか?」ローズは尋ねた。
「それはどういうものだ?」ビュー
ローズは 泉を中心とした小型の結界ドームを張った。
すると 泉の中の塊からはじけるように多くの風が飛び出して、渦を巻いたり ゆっくりとながれたりドームの中を漂いだした。
「風を捕まえる、面白いことを考えますね」ささやき声がした。
「面白いね、ここ。結界の外から入るのは簡単で、出たいと思ったら結界の外に気軽に出ていけるのに、とどまりたいと思えば、自分の魔力を使わずに結界の中にいることができるよ」かわいい声
「まるで休憩所みたいだ。
ここで乾きを癒したり、ゆっくりとみんなとおしゃべりができる♪」別の声
「こういう休憩所が あちこちにあれば、しっかりと水分を補給して
我ら風の一族も雲をまとって 再び各地に雨を降らせることができようになるかもしれんな」しっかりとした声
「ならば 風の休憩所を海上につくるのはどうかしら?」ローズ
「いや 人間達が来ない今は荒れ地となった場所に、ここのような結界付きのオアシスをいくつも作ってらもらったほうがいいな」別の声
「むしろ 人間達の住処を結界で覆って、人間達が周囲から水を盗めないようにしたほうがいい」新たな声
ガヤガヤガヤ
「あのー 私の魔力は有限なんです。
常時結界を張りっぱなしなんて無理です」ローズ
「水盗人のマルレーンとそれに協力するナイアードを消してしまおう」誰かの声
「そうだそうだ」賛同の声
「殺人は困ります」ローズ
「大地を枯らし、多くの人外が死なせ 我ら風の一族の命すら脅かしているのが、
ナイアードが己の力を分け与えた魔法使いのマルレーンではないか!」ビュー
「そうだ そうだ」
「乾燥しきった大気の中では 我らは雲をまとうことができぬ。
雲をまとうことのできねば風の精の命はつきる。
そなたの守り袋の中でポセイドンの加護を得て、我はナイアードと談判したい」ビュー
「えっ?」ローズ
「つまり その袋の中に我ら風の一族の代表を入れて、ナイアードのもとに運んでほしいのだ。
あの者の愚かさが、人間を増長させ、人間以外の生き物を根絶やしにしようとしているとしっかりと言って聞かせたい」ビュー
「暴力はなしでお願いします」ローズ
「まずは 話し合いからだな」ビュー
「だったら 待っている間に仲間が死んでしまわないように ここにもっと水を用意して」
「結界を広げて」いくつもの声が聞こえてきた。
「暴れたりしないでね」ローズはそういって 風たちの望みをかなえてやった。
「結界は2日目には切れるから」
「じゃあ 結界が切れるまでに 話をつけようか」ビュー
「でも 私に転移魔法でナイアードの泉までもどれというなら、
先に 一晩ここで休ませて。
出発前に 結界を強化するわ」
「だったら そなたが眠っている間 その守り袋の口をあけておいてくれ。
我らは ポセイドンとも話がしたいから」ビュー
念のために ポセイドンの了解を得てから、ローズは守り袋の利用をビューに許し、自分は簡単に夕食をとって根袋にくるまった。
その夜は ローズの回りで いろいろな風が吹いていた。
※ 土日休日は 朝8時 夜8時の2回投稿
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