風の王
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ナイアードの泉は 山の3合目あたりにあった。
近くの森から山の頂上を目指すことにした。
森の中はしんとしていた。
木は生えているが 生き物の気配がない。
空気の動きもあまり感じられなかった。
森につきものの 植物の香りもあまり感じられなかった。
もしかして 空気が乾燥しているから 臭いがわかりづらいのか?
前回ナイアードを訪問した時は、川面を勢いよく滑ってきたからわからなかったが・・
それほど高い山ではなかったが、7合目から上には木が生えていなかった。
というか 生き物の気配がなく 石がごろごろ、乾いて地面が続いていた。
これって、昔は緑豊かな土壌だったのが、乾燥して硬くなり
しかも風がないから風化もせずに そのまんまになっているのかしら???
高度が低いので、頂上まで上っても、照り付ける太陽の暑さしか感じなかった。
とりあえず、水筒の水を飲んだ。
山々はTの字のように三方向に連なっていた。
国境線に添って広がる山脈と、国境外の砂漠に向かってなだらかに低くなりつつ伸びる山地。
ナイアードの泉のある山の頂上が ちょうどその三差路の分岐点となっていた。
砂漠に向かう尾根線を歩くことにした。
こまめに口を潤しながら。
突然 暑い風が吹きつけてきた。「水をくれ」というかすかなささやきとともに。
水筒からはじか飲みしていたので、コップを取り出し、そこに杖から出した水を注いだ。
ちなみにローズの杖から出る水は、海水から塩分を取り除いて作り出した真水ストックから引き出した水である。
大気中の水分子をどっかからか収奪したものではない。
海水由来の真水ストックの作成は ポセイドンの監視と承認のもと行なった。つまり生態系に影響なしとのお墨付きw
空気中から、おぼろげな手のようなものが出て来て コップを持ち上げ 水を空に流し込んだ。
「もっと」「もっと」さらなるささやき越えが聞こえた。
たてつけ3杯の水を飲み干すと
うっすらと人影があらわれ、
「その杖から霧状の水を出して吹き付けてくれ」と言う。
望みどおりにすると、
「我の仲間にも 水を分けてくれぬか?」との言葉とともに
体を抱えあげられた。
「私にも 人にも危害を加えないならば」ローズ
「約束する」人影
「熱く火照った風に包まれていると息苦しいわ。
目的地を教えてくれれば 自分で転移する」ローズ
「そうか」
ローズは人影に教えられた砂漠の真ん中に転移した。
そこは かつてはオアシスがあったらしいが、今は干からびてカラッカラだった。
「ここに 霧雨状に水を出して頂けると助かる。
量は おまかせするが、多い方がうれしい」人影
ローズは 語りかけてくる者の心の奥の願いをよみとり
霧雨状の雨を高さ1mくらい所から大量に降らせて オアシスの跡地を満杯にした。
最初は ローズの横に立っていた人影は、
次々と湧き出る水を見て、オアシスの真ん中に歩み寄り 両手を広げて、全身で水を浴び受けとめた。
やがて 人影はくっきりと人の姿になった。
両手を差し出し、降ってくる水を掌で受けては 嬉しそうにその水を飲んでいる。
ようやく人心地着いたのか 水の中をザブザブと歩いて岸に上がると
その全身をブルブルと震わせ、水滴をまき散らし、笑顔を浮かべ、
スッと姿を消した。
すぐにローズの傍らに姿を見せた男は、
「水を分けていただき感謝する。
我は 風の王ビューだ」と名乗った。
その姿は、褐色の肌、灰色の短髪、青空のような眼、白い腰巻にサンダル
引き締まった中肉中背であった。