各々の旅立ち
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「神の愛し子記念病院と関連施設」第一期は、今までの所 順調に稼働している。
病院の職員寮には、戦乱の間、王都の各所に隠れ住んでいた医療関係者一家や、女性職員達が続々と入居した。
乱世においては、医療技術を持つがゆえに、悪党に拉致監禁され使役される危険が高く、皆 身をひそめていたのであった。
「愛し子記念施設」の警備には、医療退役した者達が多く雇用されていた。
もちろん人品に優れた者達である。
彼らは ハンディキャップのために行軍は無理だが、今でも悪党の一人や二人はのしてしまえる腕は保持していた。それゆえ後遺障害の程度にあわせて、巡回・門番・見張りなどを24時間体制で務めていた。
だからこそ 医療関係者も 自分自身や家族が誘拐される心配なく医療活動に従事し、生活もできると 隠れ家から出て、愛し子記念施設に集まったのであった。
そして医者や看護師のいるところには 患者も集まってくる。
病神と貧乏神は手を携えるとよく言われるが、
療養中の最初の敵は家賃である。
それゆえ 療養者または療養者を抱える貧困家族のための家賃無料の一時宿舎と
金持ちのための入院設備を整えることにより、王都内の病人・けが人の回復速度が見違えるほどあがった。
さらに 疾病を抱えながらも、それらを悪化させずに働ける限度を本人と家族に自覚させ
さらに療養者に無理のない範囲で働ける仕事を提供することにより、
病神の増長を抑え 貧乏神にはご遠慮いただく方向に 療養者を抱える一家を誘導することにつとめた。
一方助産施設の方は、今の所、妊婦や妊婦のいる家族の仮設避難所のような形になっている。
ぎりぎりの生活をしている者達にとって、妊娠は 失業=収入ゼロの危険をはらんでいるので
一時的にでも家賃ゼロの住居に入居できることは、収入減を補う意味で非常にありがたかったのだ。
さらにまた 妊婦の健康状態に応じて、施設内の下働きの仕事にありついたり、
読み書き計算を習って、出産後、割の良い軽作業につくための準備もできるとあっては
希望者の選別に気を遣うほどであった。
公平を期すため、主産後3か月以内に退所することになっているので、入所者には 転居にそなえた貯蓄が推奨されている。
家を取り潰されたのち王都でしぶとく生き抜いていた元貴族家女性たちが隠れ家からぽつりぽつりと出て来て、講師役となった。彼女たちにとっても 施設内の宿舎に入って 安心して暮らせることが最大の魅力であった。
薬局は無事に引っ越してきた。
さらに、時間決めの場所貸しで、生鮮食料品の朝市、雑貨の昼市、持ち帰り総菜屋の夕市、正午から30分間限定の弁当市が立つようになった。
賃料が定額制なので、己の才覚で売り上げれば儲けがそのまま収入増となり
治安のよい敷地内で、ゴザ一枚・かご一つから商売できるとあって、案外庶民からは人気の場所となった。
やがて、この市の場所代で、施設全体の警備の人件費を賄えるようになった。
・・
とまあ 王都での事業が軌道に乗り始めたので、ローズとウィリアムは 旅に出ることにした。
(なにも ローズは楽しく 体を動かして遊び惚けていただけではない。
ちゃんと 愛し子記念施設が順調に稼働するように いろいろと動いてはいたのだ。
ティンカー達とともに)
ローズとウィリアムが旅に出ている間に、王都に残った者達で、
無料宿舎に入っていた元療養者や元妊婦も含めた、低所得者層向け低家賃住居の建設と運営に関する立案に向けた情報収集も行うことになっている。
・・・
ローズはウィリアムの髪が入った守り袋を二つ作った。
一つは、ポセイドンとの通信用として、ローズが持ち
もう一つは ローズからの連絡用としてウィリアムに渡した。
「なぜ ローズの髪ではなく自分の髪の入った守り袋なのだ?」ウィリアム
「ポセイドンとの通信用に作った袋の応用形だから」ローズ
「なぜ そっちからの連絡ばかりで、俺からそっちに連絡できんのだ?」ウィリアム
「個性の違いです。
ウィリアムは 戦闘力に特化しているでしょ」ローズ
実際 ウィリアムは鬼神と称されるほどの強さを誇っていた。
彼が持つ魔力量は多いのだが、
使える魔法は ほぼ攻撃に特化していた。
「うれしくない指摘だが まあいいだろう。
ケガをするなよ。病気もするな
ローズが 加護に恵まれますように」
ウィリアムは 出立前のローズを祝福した。
「ありがとう。
ウィリアムも幸運に恵まれますように」ローズもウィリアムを祝福した。
ウィリアムと別れたローズは 空を飛んで、荒野を目指した。




