帰宅 そして波乱
来るときは2日がかりで来た道のりを、帰りは1日で突っ走って、王城に帰宅したローズは 真夜中の0時1分前に滑り込んだ。
一応 遅くなることは、DKの卓上にメモを飛ばして知らせて置いた。
そう ローズはメモ程度なら物質転移することもできるようになったのだ。
が しかし、ヒロポン国にというかウィリアムの時代には、転移魔法を使える者はいない。
しかもだれもローズの筆跡を知らなかったので、大騒ぎになった。
念のために、書いた文字が読めるかどうかティンカーに確かめてもらってから
ウィリアム達の朝食の時間に合わせて飛ばしたのだが・・
そして ただいま深夜0時
城内の川辺、ローズがマルレーンと旅立った所で待っていた影の長といっしょに
ローズは、居室に向かっていた。
5階のDKでは、ウイリアムとエドガーが待ち構えていた。
もちろん5階の部屋の入口のドアをあけたズームも、DKまでついてきた。
正確に言えば、塔の2階の階段を登る時から、カゲも合流していた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」エドガー
「このメモに見覚えは?」
ウィリアムがいきなりローズにメモを突き付けた。
「あっ これ 私が今朝飛ばしました。
ちゃんと 朝食を召し上がっているときに届きましたか?」
「ああ エドガーと一緒にテーブルに向かっていたら 突然目の前に現れて驚いた」
ウィリアム
「まさか 転移魔法を使う方がこの世にいらっしゃるとは思いませんでした」カゲ
「えっ? 異世界から神子召喚をやるくらいだから、物質転移も日常的にあるのでは?」
「ない ない ない。
人もモノも この世界で転移したりすることはない」ウィリアム
「そうなの?」
「そうだ。お前の世界ではありふれているのか?」
「物語の世界では ありふれてますね。
現実にはあり得ないですけど。
でも 魔法の使える国なら こういうのもアリかと思いまして」
「さすが 神の愛し子様。
われら 人の子には想像もつかないことを やすやすとなしとげられるとは」カゲ
「しかも メモが神聖文字で書かれているとは」カゲ
「へっ?」
「おまえは 一体何と書いたのか?」ウィリアム
「2日の道のりを1日で走り抜けるから、到着は深夜0時を過ぎるだろう。
門限の22時にまにあわなくてごめんなさい、って書いたのよ。」
「いいか よくみろ、
お前の言ったことばを そのまま文字にするとこうなる」
ウィリアムは ローズが言った伝言内容をエドガーが書き取った紙を見せた。
「ちょっと 私が送ったメモを見せて」
ローズは2枚の紙を見比べた。
(どっちも日本語に見える)
ローズはティンカーにこっそりと尋ねた。
ティンカーは 目をパチパチさせているだけ。
チグリスに助けを求めると、彼は こっそりと姿を現した。
「だれだ!」ウィリアム
「ほー お主 私が見えるのか」チグリス
「どうしました?」ズームとエドガーがウィリアムをかばいながら尋ねる。
「ここに 男がいる」
ウィリアムはチグリスを指さした。
「見えません。気配も感じません」一同
「お主 どの精霊と契約をしたのだ?」チグリス
「ローズ ここにいるのは お前が契約した精霊か?」ウィリアム
「お前よばわりは やめてください」ローズ
「精霊が見える条件っていうのがあるのですか?」
ローズは全員に向かって尋ねた。
「精霊は 気に入った相手にしか姿を見せません。
精霊と契約することにより、契約した精霊とつながりのある精霊が見えることはあります。
大精霊と契約した者には、ほかの精霊が見えることもあるという説もあります」カゲ
「で お前が契約したのはだれだ?」
チグリスが重ねてウィリアムに尋ねた。
「どうやら 錯覚だったようだ」ウィリアムは首を横に振った。
「急に疲れが出て来た。
今日はここまでにしよう。」
ウィリアムは エドガー達に手を振って退出を促した。
「その前に もう一つ教えて。
自分が結んだ精霊契約を隠す必要があるのはどういう時?
隠すメリットはなに?」ローズ
カゲはウィリアムの顔色をうかがう。
ウィリアムは「答えてやれ」とカゲに告げて
自分は座って 肘をテーブルについて頭を抱えた。
「人と精霊との契約には いくつかの形態があります。
人が精霊に何かを望んだ場合、代償と沈黙を求められることがあります。
一般的には 精霊と契約したことを伏せている方の方が多いですね。
なぜなら 契約者が得た力を欲しがる者が多いですし
契約者に頼ろうとする者達も多いですから。
それゆえ 契約者は 精霊契約のことを口にするのを避ける傾向にあります」カゲ
「私たちは 何も見なかった 聞かなかった ということで
今夜の所は引き上げましょうか」
影の長は 一同に告げ、皆はウィリアムとローズを残して退出した。
残されたローズはウィリアムに声をかけた。
「で?」
ウィリアムは ローズの顔を見つめた。
「すまないが 一つだけ教えてくれ。
あそこに居るのは 人間なのか 精霊なのか
君の知り合いなのか ちがうのか」
チグリスは 肩をすくめ ローズにだけ聞こえるように念話を送った。
「おまえさへ良ければ 俺のことを言ってもいいぞ。
それとも お前は 私に姿を消してほしいと思うのか?」
「彼は 水の精霊チグリス。
今度は ウィリアムが チグリスの質問に答える番よ。
あなたは 誰と契約しているの?」
ローズはウィリアムに問うた。
ウィリアムは ため息をついた。
「それについて話すことは許されてはいない。」
ウィリアムの言葉を聞いて チグリスはフンと笑った。
「力と引き換えに 沈黙を要求したのはポセイドンか?
奴以外の者と その手の契約を交わしたのなら
お前の存在そのものを許すわけにはいかんな」チグリス
ウィリアムは黙って 上着を脱いで へそを指さした。
チグリスは ウィリアムのへそにそっと触れた。
「ローズ お前も 触れろ。
そうすれば 沈黙の誓いの適応外になるから」チグリス
「触ってもいい?」ローズはウィリアムに尋ねた。
「好きにしろ」ウィリアム
ローズも チグリスを見習って、ウィリアムのへそにそっと触れた。
ローズがウィリアムに触れるとき、チグリスは ローズの肩に手を置いた。
ローズの意識は 一瞬飛んだ。
大海原の真ん中へ
目の前には 大きな鉾を持ったひげもじゃの大男がいた。
「ポセイドン様?」ローズは片膝をついて挨拶した。
「そうか お前が ウィリアムの配偶者となるのか?」ポセイドン
「いえ まだ そういう関係にはなっておりません」ローズ
「では なぜ ここに来た?」
しかじかかくかくとローズは説明した。
「なんとまあ あきれた話だ。
そういうことなら 私のことについて お前とウイリアムが話し合うことは許可する。」ポセイドン
ローズの意識がDKにあった己の肉体にもどった。
彼女の耳は、ウィリアムに話しかけるポセイドンの言葉をとらえた。
「ウィリアム、ローズとローズの仲間の人外には
私がお前と交わした契約に付随する誓約の適応対象外とする」
「ありがとうございます」ウィリアムは 頭を垂れた。




