奮闘するローズとウィリアム
(神の愛し子 3/5)
立てこもり事件の跡地の開発を ウィリアムとローズは精力的に進めた。
国王に就任以来、事務に忙殺されて城にこもりっきりだったウィリアムが、
ローズとともに しばしば城下町の視察にでかけるようになったのを、国民は歓迎した。
病院の建物が完成し、隣には薬局と助産院ができた。
病院は3階建て、最上階は医療関係者の宿舎で、ここは外階段・外廊下を使用する独立仕様だ。
2階は、図書室・研究室・空室(病室予定)
1階が 診察室・手術室・病室だ。
なにしろエレベーターがないので、病人・けが人は1階しか使えないのである。
スロープで2階まで行けるようにはなっているので、
今後振動の少ないストレッチャーを開発できたら、
2階に手術後の患者用病室をつくることもできるだろう。
薬局と助産院は、一連の事件で没収した家屋を解体して組み立てなおして作った。
それには ローズも協力した。
彼女の解体・運搬・組み立て魔法に、人々は目を見張った。
助産院は、診察用の家屋、分娩用の建物、産後の建物、宿泊棟がそれぞれ廊下でつながっている。
宿泊棟は出産前の妊婦やその家族のためにある。
この建物は4階建て、最上階が助産婦達の為にあるのは、病院と同じ。
陣痛がはじまると、妊婦と付き添い一人までは分娩用の建物に移る。
その他の家族は、宿泊室の2階・3階へと移動して、1階の部屋は新たに到着する妊婦達にゆずる。
分娩後、妊婦と新生児は産後の建物に移動する。
ここは衛生管理のために、基本的に関係者以外立ち入り禁止である。
特に問題がなければ、産後5日間はここで過ごしながら
赤ん坊の世話などについて助言をうけることができる。
王都内に住む者であっても、初産であったり、陣痛が起きても周囲から手助けを得にくい立場にある者にとっては、出産予定日3日前から宿泊できるのはありがたいことだし
遠方から付き添ってくる者にとっては、家族用の宿泊室があるのも便利だ。
産婆にとっても夜中にたたき起こされて、雨や雪の中を走らされるよりは、
住環境の良い宿泊棟の上の関係者用居住区で暮らしながら、必要な時に廊下を渡って
分娩室に行く方がよほど体も気も休まるというものである。
さらに 身内がいない初産の妊婦にとっては、妊娠中から助産院で検診を受けたり、
各種相談をしたり、近くの用品市で必要なモノを随時購入できるのは大きな安心につながるだろう。
「なぜ宿泊設備が必要なのか?今一つ理由がわからん」ウィリアム
「初産は 陣痛が始まっても分娩に至るまでの時間が長いのです。
半日以上かかることも珍しくありません。
しかも 初めてのことゆえ不安になりやすいのです。
だから早めに宿泊室に入っていざという時まで家族とともに待つのは良いことだと思います。
しかも 陣痛の進み具合を 産婆に見守ってもらえるなら安心することでしょう。
一方経産婦の場合、お産の進行は早いですが、家族に幼子がいたり、介護の必要な老人がいると
出産ギリギリまで家族の世話に追われたり、分娩直後から家族の世話に追われたりと、ゆっくりと
体を休めることもままなりません。
さらに妊娠後最初の6か月くらいは、おなかがそんなに目立たないので、周囲の気遣いが足りず
本人が仕事で無理をしてしまって、流産・早産が起きやすいので。
切迫早産の場合、たいてい前兆があり、その時しっかりと1週間くらい体を休めることができれば
大事なく出産まで行くのですが、家事・仕事なので体を十分に休ませることができないと、胎児が流れてしまうこともままあります。
出産後も 大出血がしやすいので、胎児が出て来たからと安心せずに様子をみて緊急時に備えることが必要ですし、出産により女性の体の内部が傷ついているので、その傷がいえるまでの5日~10日間は清潔な場所で衛生的な生活をすることが重要です。
こうした注意を守ることで 妊娠・出産に伴う女性の死亡率を下げることができます」ローズ
「ふーん そういうものなのか?」ウィリアム
「男というのは、子供が生まれれば安心して酒を飲み友を集めて宴会をして後片付けもせず、
出産したんだからもう大丈夫だろう、赤子の世話も良いが俺の相手もしろと妻をに付きまとう愚か者が多いですから、産後5日間は母子だけで、ゆっくりと体を休めることのできる宿泊設備があることは
たいへん望ましいことだと思います」ズームと影の者達。
「たしかに そういう男達が多いのは 先輩・知人たちを見ていてもわかる」エドガー&ウィリアム
「出産時の死亡率が高いのは、衛生面だけでなく 分娩前後の女性の負担が重いということもあると思います」ローズ
・・・
今はまだ、器ができただけの状態である。
薬局については 王都内で評判の良い店が移転してくる予定である。
もちろん影の者が査察して国王ウィリアムが認めた店だ。
この店は、建物が老朽化して営業がむつかしくなっていたので、
今回 是非にと名乗りをあげたのだ。
店主は 薬師としての腕もよく、実直な人柄である。
現在、用品市の場所に入ることが決まっている店は、妊婦・乳幼児用品の店だけだ。
これは ローズの肝いりで建物と商品を用意し、現在売り子を探している最中である。
なぜなら これまでヒロポン国には、妊婦・乳幼児用品専門店と言う発想がなかったからである。
仕入れ担当と売り子に関しては、当面 影の者を使えばよいとウィリアムは考えている。
ローズは 病院関係・介護用品関係の店も開きたいと考えていた。
これから、病院・助産院の職員を募集し、一斉入居でオープンしたいとウィリアムは考えている。
そして 職員採用面接のときに、その者達が ここに居住するにあたって必要な店舗の概要を見極め
良品市の店選びに役立てたいとウィリアムの部下達は考えていた。
なにしろ ローズの構想は、スラム街のど真ん中に中産階級向けの住宅街とショッピングモールをつくろうというに等しいものであったから。
それも 地価高騰によるスラム住民の追立を起こさず
むしろ 仕事にあぶれてスラム化している住民に職を与え、向上心を刺激して
住民のレベルアップを図ろうという夢物語つきであったから。
これまで 必要なモノは なんでも人に命じて購入させてきたウィリアムやエドガー達が
必要なモノを自分で 品質と値段のつりあいを吟味して買うというローズの発想に 度肝を抜かれたのはいうまでもない。
ある意味 ウィリアムが信頼する部下達の中にもあった階級の壁(=下からは はっきりと見えるが上の者が自覚することのない壁)をぶち壊す存在=神の愛し子ローズ様であった。
※ 土日休日は 朝8時 夜8時の2回投稿
月~金は 朝7時の1回投稿です




