ハーブと魔法
(8/11)
内階段のドアをノックして ウィリアムが再び戻ってきた。
今度は 少し歳とった男を連れてきた。
「私の専属護衛の一人だが カゲとでも呼んでくれ。
この者は若いころ女装しての潜入捜査も行っていたので 女性の着付けやメイクなどもできるらしい。
エドガー達よりは役に立つだろうから 使ってやってくれ。
それとハーブ棚を持ってきたから、それの使い方もこの者に聞くと良い。
入浴剤として自分用に使うもよし。
アロマや飲用について学べば 身を守ることにも役立つ。
杖の稽古とあわせてハーブの使い方についても 今から練習を始めてほしい」
そう言いおいて、カゲを残して ウィリアムはさっさと戻って行った。
「初めまして」とりあえず ローズは挨拶した。
「初めまして。
あなたの寝室には 入りませんからご安心を。
それでは 早速説明に入りましょう」
そういって カゲは廊下の隅に新たに置かれた棚とライティングビューローの元へ歩いて行った。
ライティングビューローの前板を下ろし、「これは ハーブカウンターです」と言った。
机の奥はガラス扉付きの棚になっており、その中に精油の瓶が並んでいた。
脇の引き出しには、布袋やひも、さじやスコップなどが入っていた。
棚の中には 各種乾燥ハーブが入った大瓶や缶、はかり類や蒸留セットなどが入っていた。
蜜蝋やアルコール・重曹などもあった。
ラベルが 化学式やラテン語で書かれているのには驚いた。
その名称が 元の世界と同じだと良いのだけど。
「蒸留するときは 熱と蒸気を避けるために、コンソールテーブル(シンプルな横長机)を使ってくださいね」カゲ
「杖を身に帯びて お披露目式に出るならば、それまでにある程度は杖を使えるようになっている必要があります。
ですから まずは 風呂場に行って、杖を使った水魔法や風魔法の練習をしてきてください。
リラックスするために ハーブを湯に浮かべるのも良いでしょう」
そういって カゲは好みのハーブを選ぶように促した。
ローズは 何種類かあったローズハーブの中から 甘く華やかな香りの花びらを選んで、ガーゼの袋に入れて口を縛った。
ハーブカウンター付属の椅子も高くて足が浮いた。
キッチンなど家具全体が高く大きく感じるのは やはり私がちびっこってことかしから?
そういえば これまで出会った人はみんな背が高かったな。
「それでは 私はキッチンまで下がりますので、ローズ様はごゆっくり入浴をお楽しみくださいませ。
洗髪・顔そりなどメイク・ヘアケアなどは 遠慮なくベルを鳴らして私をお呼びくださいませ」
そういってカゲは下がった。
エドガーも一礼してから カゲの後についていった。
・・
はぁ~ また一人男性出現
いくら丁寧な態度を示されても 所詮は誘拐監禁されている身はつらいなぁ
相手のいいようにころがされるだけの存在だわ
ぼやいても仕方がないので 気を取り直して 本日2度目の入浴だ。
浴室にはティンカーもついてきた。
「お湯」湯船に向けて杖を向ける
イメージ通りのお湯が出た。
「止まれ」湯が止まる。 便利だ。
でも 備え付けのカランからも湯が出るんだよ。
ふと思いついて DK側の壁に杖先をあて、キッチン側にラッパの先を出すイメージをした。
盗聴防止と念じてから 声をかけた。
「もしもーし 聞こえますか?」
キッチンの向こうで 騒ぐ声がした。
「うわっ」エドガー
「こちらカゲです」
「杖からお湯は出たけど、湯舟を満たすほど出し続けなければだめなの?」
「カランから水を出して それを湯にするよりは 杖から湯を出し続けたほうが楽だと思いますがね」カゲ
「カランから湯は出ないの?」
「出せるなら出してごらんなさい!」ぴしゃりと響くカゲの声
ムカッと来たので、伝送管イメージのラッパを消して、カゲをウィリアムの休憩室に送り込んでやった。
もちろん送り込む前に休憩室に誰もいないことを確かめてからだが。
そして ウイリアムの休憩室側の内階段ドアにも 階段側から内鍵を新たに取り付けて鍵をかけた。
実の所 浴槽には 朝の残り湯がそのまま残っていた。
だから 新たに湯を張るのではなく 残り湯を浄化して再度温めようと思う。
しかし こちらが転移魔法を使えるなら、他の人も使えるかもしれないと思い、
まず浴室に防御スクリーンを張った。
薬物を放り込まれたり熱攻撃をされると困るので無害な空気だけを通すスクリーンを張ったのだ。
排水溝の扱いに困ったので、床の排水口をよけてスクリーンを張った。
浴槽の排水口に関しては逆にしっかりと密閉しておいた。
私の張った防護スクリーンは 開けた窓の所から無害な空気を取り込みスクリーン内のCO2や有害物質を適切に排出するようにした。
スクリーンには 液体や私が洗い流したいと思うものが排水口から流れていくように命じた。
洗面所の排水口と窓にも同様の処置をして洗面・寝室にも防御スクリーンをはった。
洗面・寝室の間の扉をあけ放ち、扉の所で両室の防護スクリーンを密着させ、私だけが通り抜けられるようにした。つまり 湿気や臭いが移らないようにしたのだ。
ふー 部分部分でスクリーンの性質を変えるのは大変だった。
スクリーンの性能を確かめるために スクリーンの両側の空気成分などの確認をくりかえした結果
鑑定魔法も使えるようになった。
そこで ハーブバス用に持ち込んだローズパックの成分も鑑定したら、「人畜無害 私にも無害」と出た。よかった。”濡れても乾燥させても 浸出液も燃やしても煙も灰も全部無”」だそうだ。
ドシャ―と疲れた。
こういうのって 「一括無害」とか確認できないのかな?と思ったら「全部OK!」と出てきた。
ホエ? もしかして鑑定の神様を怒らせた??
浴槽の中のぬるま湯を浄化して40度に温めてからローズパックをほうり込み その香りを鑑定してみた。
「リラックス」とだけ出た。
とりあえず寝室にもどり、ドレッサーの前の椅子を部屋の中ほどに動かして座った。
視角と聴覚を広げてみた。ブンスカ怒ったカゲが、階下の休憩室に座り込んでおり、
休憩室側の内階段の扉にもたれるようにしてズームが立っていた。
もしかして カゲが無茶をしないようにズームが見張っているのかしら?
一方 ウィリアムとエドガーがDKの扉を開けて廊下を突っ切ってくるのが見えた。
寝室の扉がノックされた。
「キッチンで話しましょう。
そこでお待ちください」
こちらから先に声をかけた。
ウィリアムとエドガーは顔を見合わせた。
「わかった」とウィリアムは答え、二人はキッチンに戻って行った。
彼らがキッチンテーブルに向かって座るのを見届けてから、私も 寝室を出てキッチンに入っていった。
普通に 歩いて。 もちろん 寝室の結界は保持したまま。
ティンカーが私の髪の中に潜り込んでついてきた。
(見つからないようにしてね)
(もちろん!)