異世界デビューはコスプレから
(7/11)
昼過ぎに 寝室のドアをノックされエドガーに起こされた。
「申し訳ありません。
3時のお茶の時間にウィリアム様がおいでになりますので お仕度を願います」
時計を見ると1時だった。
顔を洗って眠気を払った。
昼食は水餃子 青菜のお浸し 牛乳寒だった。
もしかして この国は、建物は洋風で食事は中華風なの?
エドガーによると 昼食はエドガーの手作りで、行軍食(水餃子)と侍従として覚えた夜食(お浸し・寒天)の組み合わせだそうだ。
・・・
そして 3時きっかりに表れたウィリアム。
「あとで食べさせろ」と3時のおやつの果物をエドガーに押し付けて
自分はズームをしたがえて 書斎に入って行った。
がらんとした書斎に ズームは手際よく折りたたみ机を並べて
そこに さまざまなコスチュームを広げた。
「近々、貴族部会で ご降臨いただいた神子様のお披露目がある。
その時の衣装を この中から選んでほしい。
勇者・魔法使い・魔法剣士・剣士・巫女装束・令嬢スタイル
どれでもよい。好きなモノを選んでくれ」ウィリアム
「アクセサリーなど調整の利くものは できる範囲でご希望に沿いたいと思います。」ズーム
なんと 異世界デビューがコスプレ選択から始まるとは!\(◎o◎)/!
「これって 途中変更とか複数選択とかできますか?」
「あと 冒険者スタイルとかありませんか?」
「冒険者スタイル?」ウィリアム
「動きやすくて洗濯が簡単で着替えをたくさん用意できる庶民的な恰好」ローズ
「それは 後日相談ということで、王宮デビューは礼装で頼む。」
「服のちがいにより 今後の所属とか待遇がかわったりする?」ローズ
「あなたが私の庇護下にあることにかわりはない。
ただ 巫女装束では神聖さを期待される。
勇者スタイルならすぐに討伐隊の先頭にたつことを
令嬢スタイルなら花嫁修行を期待されるな。
あなたの気分次第で これらの服すべてを順に着ても構わぬが
とにかくお披露目の時にはどれを着るか決めてくれ」ウィリアム
「あっ ごめんなさい。あなたの剣を借りっぱなしでした。」
寝室に駆け戻って 壁にかけていた剣をウィリアムに返した。
「ありがとうございました。
剣を身近に置くことができて 大変心強かったです」
両手で剣をささげたら ウィリアムは何か言いたそうな顔をして受取り
自分の腰に差していた予備の剣と差し替えた。
そして予備の剣を慣れた様子でエドガーに渡し、
「寝室の壁に剣を置くのが趣味なら この剣を飾っておくがよかろう」と言った。
エドガーは一礼して その剣を持って部屋を出ようとするので呼び止めて、
それを 私の傍の空いた机の上に置くように命じた。
「別に剣を飾る趣味はありません。
それに 私室の中を男性にうろつかれるのは不愉快です」ローズ
「剣本来の使い方をしなければ ただの飾りだ」ウィリアム
「だったら 私に剣術を教えてください」ローズ
「考えて置く。しかし 今は お披露目の時に着る服を選ぶことに集中してくれ。」ウィリアム
エドガーは黙って書斎の扉のわきに立った。
そこで 改めて 机の上に並べられたコスチュームに目をやった。
魔法剣士に添えられていた刀を持ち上げ抜いてみた。
キラキラとして金色の粉のようなものが飛び散った。
刀そのものは軽いが 宝石をちりばめた鞘が重い。
軽く振ると 刀から炎が出たり 水が出たり。
室内なので雷等々をイメージするのはやめておいた。
刀を鞘におさめ 掌をたてて「修復」と念じると室内は元に戻った。
(これって もしかしたら精霊魔法? やったー!
それにしても疲れる・・・・)
刀を机の上にもどし、魔法使いスタイルから杖を取り上げ
人差し指で杖を軽くたたいて「回復」と念じると 体が楽になった。
「ウィリアム 杖や魔法剣について学びたいです」
「手配する」
「あなたがまとっているようなシンプルなズボンとシャツの上からローブを羽織り
先ほど頂いた刀を差すのではだめですか?」
「なぜ 杖と魔法剣を帯びないのだ?」ウィリアム
「使い方がよくわからないものを携帯したくありません。
それに魔宝剣の鞘が重すぎます。
それに魔法剣を血で汚してもよいのでしょうか?
そもそも杖と魔法剣を同時に携帯してもだいじょうぶなのでしょうか?」
「こちらの巫女装束がダメな点をお聞かせください」とズーム
「それは、郷里の法被・袴に似て異なるもの。
生地が薄くて まとうとたぶんドレンと垂れ下がり 隙間風がはいりそう。
私の故郷で巫女が着る服は神聖なものだし 形式美がある。
そもそも神と人をつなぐ神事にしか着用しません。
世俗のお披露目に着ることはないし こちらのものとは違いすぎるので。
見知らぬ土地で見知らぬ衣装を着るなら これ以外の服を選びます」
「なるほどな」ウィリアム
「ならば この剣を使って 試し切りをしてみよ」
ウィリアムは 神剣を取り上げ、ローズに手渡し、
廊下に巻き藁と青竹を置くようズームに命じた。
まさか 室内で据物斬りをすることになるとは思わなかったが
ローズは 男たちに十分離れているように頼んでから
まずは横一閃で青竹を切ったのち、から竹割に。
そして 巻き藁を貫き徹したあと 袈裟懸けに切った。
いずれも気持ちよく スッと刃が通った。
パチンと刀を鞘に納めたのを見て、ウィリアムが言った。
「俺が この娘くらいの背丈だった時の礼装その他を持って来い!」
「はっ」
ズームは退出し しばらくすると箱を持って戻ってきた。
箱の中には 真っ白な騎士服が入っていた。
ウィリアムは 純白のズボンとシャツ フリルたっぷりのブラウス・剣帯をとりだし
勇者セットの緋色のマントを添えた。
「この服装で神剣と杖を帯びるがいい。
エドガーに魔法剣を捧げ持たせて付き添わせよう。
悪いが 侍女の用意がまだできぬゆえ
エドガーに服の手直しと着付けの手伝いをさせる。
異性では困るというのなら 去勢してもよいぞ」
「物騒なことを言わないでください!
不埒な真似をしなければ エドガーの性別には目をつむりましょう」
「ならば 早速着替えて見せてほしい。
髪を洗ったりセットするときには、杖を使って水や湯・風を出してみるとよい。
服のフィッティングにも 杖を試してみると良い。
無理な時は エドガーに頼め。
しあがったら呼びに来てくれ。
エドガーにも 中の階段を使うことを許す。
今や エドガーは侍女なのだからこのフロア全体の自由な行き来も認めてやってくれ。
そうそう 私と一緒の時は ズームも中の階段を使うぞ。」ウィリアム
「エドガーの性別に目をつむるとは言いましたが、去勢しようとしまいと彼が男であることに代わりありません。そもそも男として生まれ育つ中で身についた感覚が 外科手術一つで消え去り女性としての感性に入れ替わるわけがないではありませんか。」ローズ
「そういうものなのか?」ウィリアム
「当り前でしょう。
生殖機能のあるなしにこだわるのは男の考え。
女性にとったら 男は男!。
そして 一緒に過ごすときの互いの距離感は、人として信頼できるか、女性の立場と感性を理解し尊重しているか否か 一緒に居るときの違和感のあるなしで決まるのです。
だから 護衛と連絡係だけのズームには 外階段から第一応接室より中には入ってほしくないし
王の随伴という仕事上やむおえない時のみ しぶしぶ侵入に目をつぶっているすぎません。
エドガーも侍女というよりも身の回りの世話係として必要最小限の時しか フロア内を動いてほしくない。そして 私の不在中であろうとも寝室には絶対に入らないでいただきたい。
どんなに紳士的であろうと、異性に寝室にはいられたくない。」ローズ
「緊急時は その限りではないが、平時はそなたの要望にあわせよう。
身の回りの世話係の動線については、部屋の手直しと合わせて今後 細部を煮詰めよう。
今は お披露目会の成功に協力してほしい。
お披露目会で そなたの身分を確定させたい。」
そういって ウィリアムは 荷物を抱えたズームと一緒に 中の階段を使って降りて行った。
二人を見送ったあと、エドガーは
「お見事な剣技 感服仕りました」と一礼した。
「私も まさか あんなに切れるとは思いませんでした。
これもきっと 神剣の加護でしょう」とローズはこたえた。
「それにしても 身分の確定ってなんでしょう?」ローズ
「そのことについては お披露目会の服装の仕上がり具合を見ながら ウィリアム様が説明してくださると思いますよ」エドガー
「わかりました。
それにしても 人間を去勢するなんて野蛮なこと 冗談でも聞きたくなかったです。
そりゃ婦女暴行など性犯罪者はその未遂も含めて去勢して当然と思いますけどね」
「しかし 去勢しただけで セクハラがなくなりますかねぇ?」エドガー
「去勢したうえで追放・生涯苦役につかせればよいのです。
犬猫なら 去勢すればおとなしくなるといいますが、人間の場合はやっかいですね」
(こんなことを言う12歳が居てたまるか! とエドガーは心の中でウィリアムに向かって叫んだ)




