呼ばれた理由
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ロープを羽織って一息ついたら 扉を叩く音がした。
「神子様 神子様 入ってもよろしゅうございますか?」
「だれだ?」
「神官のメサイアです」
「靴とコートと刀を先に差し入れろ。それまではだれも入ってくるな」
「刀ですと?」
「先ほど 襲われたゆえ 身を守る武器が必要だ」
ドンと扉を蹴りつける音がした。
「ただいまお持ちします しばらくお待ちください」
ほぼ同時に ガタガタと音がして 「短刀はくれてやる 剣は後で返せ」と言う声とともに細く開かれた扉の隙間から 大小の刃物が滑り込んできた。
扉が閉まったのを確認してから 取りに行った。
すばやく 柱の陰にもどり
剣は 刃先まで確かめたあとさやに収めて腰にさし、短剣は抜き放って左手で持つことにした。
ちなみに私は一部両手利きである。
なぜ「一部」とつくかと言えば、ちゃんばらと筆記だけは両手が使えるように練習していたからだ。
しばらくすると「コートとスリッパとお茶をお持ちしました」と言う声と共に扉が開けられ
服を腕にかけ盆を持った老人が 扉の外に姿を現した。
「そこに置いたまま出て行って。話なら扉越しで良いでしょう」
扉近くにあった小卓をアゴで示すと 老人はそのようにして出て行く。
扉が閉まってから 素早く小卓のそばにより、卓を扉の前によせて不意の侵入に備え、
スリッパをはき コートをつかんで先ほどとは別の壁際に寄った。
どっしりとした毛皮のコートは暖かいが重かった。
「神子様 どうかご無礼をお許しください」
と扉の外から言われても 困る。
なんなんだ この状況。
返答のしようもないのでだんまりを決め込む。
「魔王が降臨し 我が国は滅びる一歩手前。どうかお助けくださいませ」老人の穏やかな声
「まさか裸の女が出て来るとは思わなかった。 お前はなにものだ」
偉そうな声が扉越しに響く。
「神子様 こちらに 快適なお部屋を用意してございます。
お食事もお風呂もすぐにご用意いたしますので どうかお出ましを」おじいさんの声。
「今は メサイア殿以外の者には会いたくない。
メサイア殿以外の者が誰一人としていない状況なら 部屋を移動しても良い」
「くそっ」と言う声と共に 遠ざかる足音。
「国王陛下もお発ちになられましたので、神子様 どうかお出まし下さい」との声のあと
メサイアが扉を開けた。
扉の前に置いた小卓が ずずっと押し下げられた。
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