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馬車酔い
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うっ 気持ち悪い
さっきからこみ上げるものを しきりに飲み込んでいた。
まずいを通り越して 胃酸でのどが焼けるようだ。
これが一晩中続くの?
この馬車は窓がない。
だから ここで吐くと臭いがこもってさらにえぐいことになりそうだ。
「すみません。
次の馬替えの時に 風に当たらせてください」
吐き気をこらえつつ かすれた声で言った。
目をつぶってうとうとしていたらしいウィリアムはパッと目を開け
「わかった」と言った。
そして 御者席との仕切りの窓をあけて何事かを伝えた。
(窓 そんなところにもあったんか)
冷たい風が吹き込んで来た。ほっとした。
「酔いがひどいので新鮮な空気を吸いたい。
御者席に移らせてもらえませんか?」
「無理だ」
一言の下にはねつけられた。
(だろうな)ダメもとで頼んだだけなので、ローズは黙って目をつぶり できるだけ背筋を伸ばして座りなおした。
うつむいていると 酔いが増すし
頭を背もたれにもたせかけると 背板にガンガン頭をぶつけることになるし
馬車に座っているのも楽ではない。




