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お手本



 「……ねぇ、あんなにダメ出ししたんだから、お手本でも見せてみなさいよ!」


 帰り道の途中。

 唐突に、そんな事を言われる。


 振り返ると、アリアが不安そうな顔でこちらを見つめていた。


 (挑発……納得がいかないというより、単純に参考にしたいけどどうしたらいいかわからなかった感じかな?)


 多分、そこまで悪い子じゃないと思う。

 不安そうなのは、怒られないかが心配なんだろう。


 「おいっ!失礼だろ」


 僕が何も言わないのを見てか、グレンが咎める。


 「いや、いいんだ。……因みに、皆も見たいかな?」


 僕がそう他のメンバーに聞くと、グレンとジウの反応が良かった。


 「「いいんですか!?」」


 食い気味で、目をキラキラさせて聞き返してくる。


 「見せてくれると言うなら、嬉しいです」


 「俺も見たいかと言われれば見たいですね」


 エントルもリーシェも見たいようだ。


 「……じゃあ、お眼鏡に敵うかはわからないけど。後、アリア」


 「な、何よ!」


 怯えてはいるが、語気の強さは衰えていない。


 「うん。怒ってるわけじゃないんだ。……でも、冒険者の人ってほら……気性が荒い人多いから。あんまり挑発とかはしない方が良いよ。寧ろ、折角可愛いんだから普通にお願いすれば結構優しくしてもらえると思うかな」


 冒険者は基本的に、まぁ、男性の方が多い。

 美少女からのお願いとなれば、大多数は口が緩むのだ。


 「えっ?」


 「よし、じゃあこの辺で一番大きいのでも狩りに行こうか」


 「「はい!」」


 唖然とした様子のアリアを放置し、声を掛ける。勿論、放置と言っても警戒していないわけではないが。


 因みに、一番大きいの、と言うのは魔猪ではない。

 この辺りでは目撃情報こそあるものの、珍しいといって間違いない……黒血魔熊と言う魔物だ。






 帰り道を外れ、森の奥へ進んでいく。


 「そろそろだね、僕から離れた方がいいよ。後、警戒は忘れずに」


 そう言い残して、紅蓮の剣の面々から離れ、木の枝に飛び乗り、見つからないように息を潜める。

 樹上を跳び進むと、直ぐに目標が見えた。


 闇の様な黒色の体毛に、赤黒く染まった爪が特徴で、その大きさは先程の魔猪の三倍はある。

 名前にある血の由来は、返り血を浴びた……とかではなく、その爪の色が血に見えること。

 しかし、強いのは間違いない。


 (今は食事中か)


 辺りには栗鼠と思われる死体があり、血溜まりが出来ている。


 黒血魔熊は暑さと寒さに強く、その体毛はなまくらの攻撃を通さない。

 それに、風属性の魔法が使える。

 爪は鉄程度なら容易く切り裂く程の鋭さを持っており、単純な力も相当強い。

 五感のうち、嗅覚が特に鋭く、犬と同程度はあると言われている。

 動きも素早い為、正面から戦うには相応の動体視力と速度が必要だ。


 (油断している所を狙わない手はないんだけど……)


 ちらりと、紅蓮の剣の面々の顔が浮かぶ。


 (いや、お手本なんだから別にいいか)


 少し、しっかりとした戦いを見せた方が良いのかと考えたが、参考にするならその時の最善と思える行動をしよう。

 魔術収納から片手剣と目眩し、そして匂い玉を取り出す。

 匂い玉は市販されているもので、物凄く臭い。

 目眩しは視覚を、匂い玉は嗅覚を潰す用だ。

 目眩しに関しては魔法で代用できるが、ここは言ったことを実践しようと思う。


 ご飯に夢中の黒血魔熊に向かって、匂い玉、目眩しの二つを投げる。

 そして目を瞑り、魔法を唱える。


 「〈戦場〉〈探知〉〈炎弾〉〈炎弾〉〈剛力〉」


 瞬間、辺りを透明な壁が覆う。

 探知によって得られた情報のお陰で目を瞑りながらでも正確な狙撃が出来、投げられた二つの球に命中。

 直後、その壁の内側に眩い閃光と強烈な匂いが広がる。


 僕は息を止め、跳躍。

 何が起こったか分からないまま視覚と嗅覚を潰され、混乱し無防備な黒血魔熊の首を、一撃で切り落とした。


 「〈消臭〉」


 残った息と共に、その言葉を吐き出す。

 同時に、〈戦場〉を解除し透明な壁を消失させる。


 「よし」


 周囲に他の魔物がいないことも、紅蓮の剣の面々がこちらに来ていることも探知で確認済みだ。

 黒血魔熊の死体を魔術収納に入れて待つ。


 因みに、戦場というのは一定の範囲で区切り、意図的に分断したりする魔法で、こちらは使う人が結構多い。

 消臭はその名の通り、付近の匂いを打ち消す魔法だ。かなり便利だが、原因を断たないとすぐにまた臭くなるから、原因までを消し去れるわけではない。


 「じゃ、帰ろうか」


 振り向き様そう言って、こっそりと近付いて来たグレンとアリアに苦笑する。


 「「はい……」」




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