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情報は大事



 「——栄養ポーションに、中型の魔術収納、銀貨70枚、金貨20枚、大金貨18枚……これで全部ですね」


 「はい」


 回収物の読み上げと共に実物を渡され、数や品質を確認する。

 因みに、受付ではなく個室だ。


 「にしても、本当に良かったんですか?受け取れる内の三割も提供するなんて……」


 そう言って、もう一度確認してくる。

 共有財産からの受け取り時、一部を辞退したのだ。

 本来であれば後大金貨8枚は取れたけど……養う相手もいなければ、僕はそこまで金遣いが荒いわけでもない。それよりは、あの浪費家聖女に困らせられるレア達の助けになってあげたいしね。

 ……話し合いは拒否されてしまったけど、僕としては仲直りしたいから。


 「あぁ、いいんです。一緒にやってきた仲間でしたし……それに、レアもいますからね」


 (……と言っても、レアにあげたことにして貰ったから何かあった時に取られる心配もないんだけどね)


 流石に、よく知りもしない、人を馬鹿にしてくるような人間にお金を渡したくはない。

 その事をマイラさんに伝えると、快く了承してくれたのだ。

 仕事を増やしてしまって申し訳ない気持ちはあるが、ありがたい。


 因みに、大金貨や金貨と言うのは国で発行している通貨で、この国以外でも広く使われているものだ。

 銅貨3枚でパンなんかは買うことができる。

 銅貨10枚=銀貨1枚、銀貨10枚=金貨1枚、金貨20枚=大金貨1枚。


 物を僕専用の魔術収納……空間魔法を使って容量を増やし、且つ重くならないと言う、上位の冒険者なら大体は持っている鞄型の便利アイテムに入れ、立ち上がる。

 収納に関してはカバンの口を異空間に繋いでいると言った方がわかりやすいかもしれない。


 「ええっと……これから、どうする予定でしょうか?」


 (どうしようかな……)


 別のチームに入れてもらうか、ソロで行くか……。

 出来れば、ソロはやめておきたい。死亡率が跳ね上がるのだ。

 ただ、別のパーティーにずっといる気もない。


 「そうですね、まぁ……臨時でパーティに入れて貰ったりしつつ、折を見てパーティーを作るなりしますよ」


 「成程……因みに、今日依頼を受ける予定は……?」


 「あー、特にないですね、何か指名依頼とかあります?……と言っても、大体紅空の彼方宛でしょうけど」


 指名依頼というのは、特定の個人或いはチームに対して依頼を出す制度のことで、報酬が高い代わりに高難度だったり、一定のラインが求められる。


 「指名依頼はないのですが……今、つい最近登録した新人パーティがいるのですが、教育担当の冒険者さんが見つかっていなくて……」


 (新人教育か、懐かしいな)


 新人冒険者が、登録後数日以内に休暇中や引退した冒険者の人にいろはを教えて貰う制度のことだ。

 僕らもかなり前に受けたが、あれは先輩冒険者との繋がりや依頼達成への自信等を得るための貴重なもの。


 「僕でいいんですか?パーティー追放された人間ですけど」


 その時点で、まず人脈は殆ど期待出来ない。

 しかも追放されるということは、基本的に何か問題を起こしているわけで。


 (どう考えても不相応だよなぁ……)


 「ソラさんは職員や他冒険者さんからの評価も高いですし、追放理由も聞く限りだと……いえ、これはダメな奴ですね」


 後ろの方は小声で、よく聞こえなかった。


 「僕も何かやらかした記憶はないんですけどね……」


 「ともかく!問題はありません。受けていただけますか?」


 「僕の方は大丈夫です」


 「ありがとうございます!少々お待ちくださいね!」


 そう言って、部屋を出て行った。






 「彼らが、今回受けてもらうパーティの紅蓮の剣です」


 部屋に戻ってきたマイラさんに紹介されたのは、13歳くらいの少年少女5人。

 黒髪で片手剣を持った前衛と思われるやや細身の少年と、杖を持った溌剌とした雰囲気のある魔法使い風の黄色髪の少女。

 神官風の身なりをしたお淑やかな空気を纏った桃色髪の少女と、片目が隠れたやや気弱そうな黒髪の少年に、大きめの盾を持ったこの中だと一番の高身長で体格もいい茶髪の少年。


 茶髪の少年と剣士の少年が前衛で、他の3人が後衛だろう。補助役が二人か。


 「元紅空の彼方のソラです。今日はよろしくね」


 僕がそう挨拶すると、各々反応を見せる。


 「よろしくお願いします!」


 と元気よく返してきたのは剣士の少年。


 「よろしくお願いしますね」


 「よろしくお願いします」


 と礼儀正しく返してきたのは桃色髪の少女と茶髪の少年。


 「へー、思ったより歳変わらないのね」


 「アリアちゃん、失礼だよ……」


 僕をマジマジと見つめながらそう言ったのが黄色髪の少女で、それを諫めたのは気弱そうな少年だ。


 「それでは、よろしくお願いしますね」


 そう言って、マイラさんは退室する。


 「お疲れ様です」


 「あ、お疲れ様です!」


 「お疲れ様です」


 「「ありがとうございました」」


 「はーい!」


 上から僕、剣士の少年、茶髪の少年、桃色髪の少女と気弱そうな少年、黄色髪の少女だ。


 (まずは自己紹介してもらわないとな……)


 「それじゃあ、自己紹介しようか。少なくとも今日1日は一緒に行動するわけだしね」


 「はい!」


 剣士の少年が一番熱量があるようだ。


 「まずは僕から。さっきも言ったけど、元紅空の彼方のソラです。役割は補助メイン。基本何でも出来るけどね……今日はよろしく」


 「知ってます!俺、紅空の彼方初期メンバーの御三方のファンで!……と、すみません。俺の名前はグレンです。役割は近接攻撃で、他の四人と幼馴染なんです!つい最近近くの村から出てきました!」


 剣士の少年に捲し立てられ少し驚いてしまったが、それを察してか落ち着いてくれた。


 (そんなに有名だったのか……?)


 確かにこのギルド支部内で言えば上位ではあったと思うけど、楽しくやっていただけだから詳しいことはわからない。

 特に気にしてなかったし。


 (…………あぁ、そういえば、一時期最年少Bランクパーティーとして話題になったことがあったっけ)


 一年前にチラッと聞いたくらいだから忘れていた。

 思い返してみれば、レアとノベクは結構喜んでいた気がする。


 「……因みに、近くの村って事はエント村出身?」


 「そうです!」


 エント村と言うのは、この街から西にある村で、ここから一番近い村だ。

 そこまで大きいわけではないけど、依頼で数回近くに行ったことはある。


 「次は私ね!私の名前はアリア!魔法使いよ!」


 簡潔に、わかりやすい。


 魔法とは、人や魔物が行使出来る超常現象を引き起こす力の事で、『神様』によって齎される力だと、冒険者ギルドと同レベルの力を持つ組織、教会が公言している。

 まぁ、僕は全く信じていない。

 もし、仮に本当にカミサマの力なのだとしたら、教会なんかよりずっと公平で平等だと思う。


 魔法は火、水、風、土、雷、癒、聖(白)、邪(黒)、光、闇、時、強化、無、虚、呪、特の全16属性で、人によって適性があり、使えるものと使えないものがある。この内、聖、邪、光、闇、時、強化、無、呪、特の直接傷を負わせない物を一般的に補助魔法と言う。


 因みに、僕は父と同じく適性自体は全属性持っている、所謂天才と言ってもいい様な人間……らしい。

 適性があるのと使えるのとでは、大きな差があるんだけどね。


 「なるほど。因みに、得意な属性は?」


 「アリアの得意な魔法は雷と炎ですよ。俺の名前はエントルと言います。盾を使います」


 アリアがそっぽを向いており答える気がないことを察してか、茶髪の少年が教えてくれる。


 「そっか、ありがとう。中々いい盾だね」


 「はい、父から祝いにと頂いた物です」


 盾は綺麗に手入れされているようだし、とても大事に使っていることが見て取れる。


 「次は私でしょうか?……私はリーシェと申します。聖魔法と治癒魔法を得意としています」


 両手を合わせ、祈る様に挨拶してくる。

 これは教会で決められた様式で、リーシェが神官である事の証明になる。

 神官でもないのにこの挨拶をしようものなら、入信しない限りずっと追われることになるとか敵に回すとか……そんな噂を聞くからだ。

 こんなことで教会を敵に回したい人間なんて居ないだろうしね。


 「治癒と聖両方使えるのは珍しいね」


 ほとんどは片方、もしくは両方使えないかだ。

 特に聖魔法を使える者は少なく、神官であっても約半数しか使えないと聞く。

 僕も、聖魔法は適性こそあっても殆ど使うことが出来ない。最下級の聖魔法と言われる〈解呪〉が使える程度だ。


 「……あ、え、えっと、僕は……ジウと言います……魔法使いです、能力強化系と風、治癒が使えます……」


 「ジウは凄いんです!もっと自信持てって言ってるんですけど……」


 グレンがそうフォローする。

 僕が言うのも何だけど、実際、三属性以上を使える人は高ランク冒険者でもそこまで多くない。適性があったとしても、それを実践で使えるかは努力やセンスによるからね。


 「うん、三属性使えるなら十分凄いと思うよ。……それじゃあ、自己紹介は終わりってことで。受ける依頼は?」


 「魔獣の森の魔猪の討伐です!」


 (討伐系か。……まぁ、魔猪なら情報さえ揃えておけばいけるかな)


 「わかった、準備は出来てる?」


 「準備運動もしたし、装備も整えました!」


 「……じゃあ、問題。魔猪の弱点は?」


 「「え?」」


 「急に問題出されてもわからないわよ!」


 「え、えっと……遠距離攻撃を持たないことと、上からの攻撃に弱いこと、です」


 グレンとエントルが面食らったように声を出し、アリアが怒り、ジウが答えた。

 リーシェはにこにこと微笑んでいる。


 (……ジウは元々知っていて、リーシェは情報収集の必要を伝えなかった感じか)


 「魔獣の森に生息している個体は木の上からの攻撃に慣れている為、上からの攻撃に関してはあまり効果を望めませんね」


 そう言って、補足する。


 「うんまぁ、正解。森だから遠距離魔法系もあんまり使い勝手が良くなくてあんまり人気ないやつだね。情報収集は大事だよ?それで生存率も所要時間も労力も変わってくるから。」


 「はい!わかりました!……因みに、何処でするのがお勧めですか?」


 「あー、そうだなぁ……受付の人と話すとか、ギルド支部に置かれてる本を読むとか、場所に関する本は図書館だと見つかりやすいね。後は先輩の冒険者から聞くのもいいと思うよ」


 受付の人は情報をかなり持っているし、支部の本には魔物に関する情報が多く載っている。場所の特色はギルドよりも図書館の方が情報を集めやすい。

 先輩冒険者から聞くのは情報よりも経験を聞ける場合があることが大きく、参考になったりする。


 「成程、ありがとうございます!」


 「それじゃあ、行こうか」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 後進の指導は主人公の人柄や経験、技量を描くには良いイベントだと思います。 逆に、ここを雑に書いたり、お手軽にチートして『スゲー』をしてしまうと、一気に凡百の物語と化す可能性が高いので、腕の…
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