第004話 敵は本能寺にあり! 参之巻
どう見ても、餡蜜とは別物じゃない!?
驚き過ぎて、声が出ちゃったじゃない!?
見た目からして、凶悪だし! 明らかに、遠間武器の類でしょ!?
こんなもの持ち出して、どうするつもりよ!!
ひょっとして、信長様を……。
よし、退治しよう。久方振りの妖怪退治と参りましょう。
「ここは、茶屋では御座らんのですか!? 色しか、あって御座らんですよ!? 秀吉の餡蜜は、何処へ!?」
「モチロン、茶屋デース! 正確には『メイド茶屋』デ~ス!」
「冥土茶屋!? やはり、化生の──」
「そのネタ、さっきも見たデース! 二番煎じの御茶の子騒々しーデ~ス!」
「三途の渡守、又は獄卒の類で御座るか?」
「そう来たデスカ~」
おや? 信長様の様子が……?
『あ~むすとろんぐ砲』を熱心に見つめている、……ような?
「ふむ。何処までも黒く、武骨な造形。それ故の重厚さ。……控えめに言って、滅茶苦茶かっこいいな!!」
「流石、フール殿! 分かっていらっしゃる!」
「………………!? 信長様の本能寺が、陥落した!?」
………………!? 信長様の本能寺が、陥落した!?
「これは、凄いぞ! 見ているだけで、心の中の本能寺が炎上しておるぞ!! まるで童心に帰ったようではないか!!」
「なんとぉ!? 信長様が、まるで座敷童のように!?」
「フッフッフッ! 何処の国でも、男の子はこういうのが好きデスネー!」
「分かるのか、河童よ?」
「当然デスとも! それと、先ほど言ったように『フランソワ』と御呼び下さ~い! 次も間違えたら、強制マリッジの刑にしてやるデース!」
「『まりっじ』……。日之本語で、結納のことであったな」
結納……ですってぇ!? 河童の癖に、生意気な!
お前なんて、夜の河童巻きでも食べてればいいのよ!
どうせ、河童巻きならどれでもいいのでしょ!?
信長様のことを思いながら、独り寂しく食べてればいいのよ!!
……えっ? 『何だか、やけに実感が籠ってる』ですって?
そそそ、そんなわけ無いでしょ!?
この私が、独りでそんなことするわけないでしょ!?
やるとしたら、信長様と……って!? 何を言わせるつもりよ!!
それよりも、猿子! あんたも、何とか言いなさいよ!?
このままだと、信長様の本能寺が炎上しちゃうでしょ!?
「むむむ? 先程から、みっちゃんの声が聞こえるような? 具体的には『あ~むすとろんぐ砲』の辺りから」
やたらと具体的じゃないの!? ひょっとして、感付かれた!?
猿の癖に、こちらの気配に気づいたとでも言うの!?
それなら、送った思念にも気付きなさいよ!!
「う~ん? 何やら、妙な思念を感じるような? 『は・な・し・を・そ・ら・せ』……?」
やった! 上手くいったわ!
流石ね、猿子! あんたは出来る子だと、前々から思ってたわよ!
……えっ? 噓八百、八百屋の八百長? 何の事かしら~?
「ああっと!? そう言えばですね、河童殿? 先程から、丁稚が妙な言い回しをしているので御座いまするが? あれは、一体?」
……おまえが言うな、おまえが。妙な言葉遣いは、あんたもでしょうが。
「あれは、一つの御約束というやつデース! ……具体的には、業務規定となります」
最後の方だけ、急に流暢な日本語でしゃべるなぁっ!?
吃驚するじゃないのよ!?
「ほう? 具体的には、どうなっておるのだ?」
「簡単に説明しますと、殿様の気分が味わえるのデース!」
ふ~ん? 呼称を工夫したのね。
これなら農民でも、殿様気分が味わえると言うわけね。
中々面白い、趣向じゃないの。少しだけ、見直したわよ。
「ところで、河童殿? 餡蜜は、まだで御座るか?」
いや、あんた。そんなの頼んでないでしょ?
そんなに、餡蜜が食べたいの? いや、私も食べたいけれど?
「やれやれ……。仕方のない、モンキーガールですネー! アームストロング砲と言うのは、南蛮冗句デース! 本当のメニューは、こちらデース!」
「『あ~むすとろんぐ砲』では、無かったのか……」
「あぁっと!? 信長様が、露骨に落ち込んでいらっしゃるで御座いますですよ!?」
猿子、だから言葉遣い。
……信長様? 勿論、落ち込んでいる姿も素敵です!
「今度こそ、正真正銘! 皆さん、お待ちかネ~! 日之本由来の『あ──」
「遂に来ましたよ! 信長様!」
「日之本由来で、平仮名発音! これは、間違いないぞ!」
えぇ、そうね! 信長様の仰る通りですとも!
「~むすとろんぐ将軍』で御座いマ~ス!」
『…………将軍って、誰!?』
ちょっと!? 思わず、声を揃えちゃったじゃないの!!
私の隠密護衛が、信長様に知られちゃうでしょ!?
突然現れた、御仁。いえ、筋肉達磨。
その将軍とやらは、どう見ても金髪なのだけれど?
「センセー、お願いします! ……ではなく、ショーグン! 後は、頼みますデース!」
「………………」
「ほほう? 此奴、出来るな。侮れぬ、筋肉である」
「分かるのですか? 信長様!?」
それにしても、この達磨。やたらと、無口ね。
代わりに、その眼差しが雄弁に語っているわ。
『来いよ、信長。人斬り包丁なんざ捨てて、掛かって来いよ。信長』
そう言っているのが、私には分かる。
何故なら、こちらも武人ですもの。
「面白い。余と、腕試しをするつもりか!」
「合意と見て、宜しいデスネ? ……レスリング台、カモ~ン!!」
──ウィ~ン! ガチャ! ゴゴゴゴゴゴッ!
……えっ? 店と言うか、地面そのものが揺れてないかしら?
ちょっと、河童!? これ、大丈夫なんでしょうね!?
「信長様!? 地面が、口を開いたで御座いまするよ!?」
「……む? これは、もしや?」
『そうだ、信長。これぞ、我らの本能寺。アームレスリング場だ!!』
眼は口ほどにものを言う、……と言うわけね。
奴の考えが分かるわ。だって、武人だもの!
【店員の呼び掛け】
・男性=御館様、女性=御前様
・少年=御坊様、少女=御姫様
・子供=和子様、老人=御隠居様(特別枠)