第003話 敵は本能寺にあり! 弐之巻
【簡易説明】
河童:青、緑系統の色素持ち
……有り得ない。えぇ、有り得ないわ。
本能寺陥落? ふふっ……、そんなわけ無いじゃない。
化生如きの本能寺、何するものぞ!
あんなもの、飾りよ! 助兵衛には、それが分らないのよ!
南蛮渡来の巨乳なんてねぇ!? 日之本の品乳に比べたら、駄乳以下の何物でも無いのよ!
あんな重り、体力を無駄に削るだけですし?
重心だって、不安定になるし?
面積も多めになるし?
はっきり言って、斬り合いの邪魔なのよ!
分かるかしら? 戦闘では、些細な物事が勝敗を分けるのよ!
重心の不安定化! 的の肥大化! 回避行動の遅延化! 痛覚の鈍化!
そして何より、四十八手! ……四十八手!
慎ましいからこそ、技術力の向上に繋がるのよ!
『取り敢えず、色々挟めばいいでしょ?』とか何とか考えてる内は、技術力の向上なんて望めるはずも無いでしょ!
取り敢えず、挟むだけ? そんなもん! 乳さえありゃ、誰でも出来んのよ!!
誰にも真似できないことをする! だからこその四十八手よ!
「お父ちゃん? あの人、何を話して──」
「お前には、まだ早い! 本当に、早いから!」
……ぜぇ、……ぜぇ。……はぁ、……はぁ。
はっ!? 信長様!? 信長様は、どうなされたの!?
「化生と言うなら、そちらもデース! イエローならぬ、ゴールデンモンキー?」
「ご、ごおるでん? 渡来語で御座いますですか?」
「秀吉、黄金色の猿と言うことだ。……それと、言葉遣い」
黄金、黄金ねぇ。言われてみれば、確かにそうよねぇ。
猿子の髪色、黄金に近い茶髪なのよね。まるで、日輪そのもの。
渡来人の血でも、混じってるのかしら?
「これは、茶髪でありまする!」
「フ~ン? そう言うことに、しておきマ~ス!」
「……こほん! ああ、その何だ? 良く見たら、変わった着物であるな? 秀吉なら、似合うのではないか?」
「……えっ!? そそそ、その様なことは決して!!」
さ~る~こぉ~? その場所、代わりなさいよ!
信長様の寵愛を受けるのは、この私以外に考えられないでしょ!?
「……でだ? その着物は、何と言うのだ? 渡来物であろう?」
「フッフッフッ! 良くぞ、聞いてくれましたネー! これぞ、当店一押し! 南蛮渡来の『メイド服』デース!」
「……『冥土服』!? やはり、化生の類!?」
……『冥土服』!? やはり、化生の類!?
逃げて、信長様!? 超、逃げて!
「落ち着くのだ、二人共。女中のことを渡来語で『めいど』と言うのだ」
「な、なるほど。渡来語で御座いましたか」
流石、信長様。あれはつまり、割烹着のような物なのね。
よく見たら、形状も似てるし。ひらひらして、可愛らしいわね。
……あら、何かしら? 何かを見落としているような?
「お猿サン? 良かったら、レンタルするデスカー?」
「いや、その必要はない。そうであろう、フランソワ?」
「流石、フール殿! 分かってますネー!」
「いやいや、貴様ほどでは無かろうかよ!」
『ハハハハハハッ!』
おのれ、化生めぇ! 信長様に、色目を使いおってからに!
あの駄乳こそ、本能寺の極み! 即ち、敵は本能寺にあり!
その穢れた本能寺を抉り取ってやるわ!
──ミシミシッ! ベキキッ!
「あのぅ、お姫様? それ以上なさいますと、柱が壊れて──」
後で、弁償するわ! 分かったら退きなさい、小娘! あいつ、抉れない!
……えっ!? 今、信長様と目が合った!?
いえいえ、そんなはず無いわ! 私の変装は完璧なはず!
こちらには、南蛮渡来の『さんぐらす』があるのですから!
あ、あら? 嘘でしょ? ひょっとして、見破られてる?
……念の為、静かにしましょうか。
「どう言うことですか? 信長様?」
「……ふっ。聞いて驚け! 見て驚け!」
「何と、なーんと!? この長屋には!!」
「南蛮渡来の茶屋以外にも!」
「様々な問屋が、軒を連ねているのデース!」
この河童、調子に乗りよってからに……。
信長様と息ぴったりとか……、お光だけに許された特権でしょうに!!
猿子は、何してるのよ!? 呆けてる場合じゃないでしょ!?
「流石、信長様。この秀吉、感服致しました」
「ふっ……。そうであろう、そうであろう」
「フッ……。そうでしょうとも、そうでしょうともデスネー!」
…………けっ。河童の癖に、またしても調子に乗りおってからにぃ!
あら、いけない。大和撫子にあるまじき醜態でしたわ、おほほ!
隠密任務、隠密任務♪
「と言うわけで、注文を頼む」
「了解したデース! こちらが、御品書きデース! 懐で温めておきました、フール殿!」
今、何処から取り出したのかしら?
見間違いでなければ、胸の中から取り出したように見えたのだけれど?
…………ちっ。妖怪牛女めぇ。
これだから、南蛮渡来の駄乳製品はっ。
「いや、待て。何故、それを知っている?」
「ただの流行りデース! 気にしたら、負けデース!」
「そうか、そうであるか。では、こちらの『今日の御勧め』とやらを頼む。お主はどうする、秀吉?」
「では、信長様と同じものを御願い致しまする!」
せっかくだから、わたくしも何か頼もうかしら?
そこの小娘。……何故、逃げる? いいから、来なさい。
うふふ、何処へ行こうと言うのかしら?
魔王の右腕からは、逃げられないわよ?
さぁ、その御品書きを寄越しなさいな? ……さぁ……さぁ……さぁ。
「フール殿! ご注文の品を御持ちしたデース! 『今日の御勧め』は、頭に『あ』の付く……」
「ほほう? さては、餡蜜であるな?」
「餡蜜!? それなら、秀吉も大好物です!!」
餡蜜……、信長様と一緒。私も、同じ物を頼──
「南蛮渡来の『アームストロング砲』で御座いますデ~ス!」
「『あ』しか、合っとらんでは無いか!?」
「『あ』しか、合って御座らんですよ!?」
「『あ』しか、合ってないじゃないの!?」