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転償した怠惰勇者様  作者: 波光
第一章
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六話 テレダジナの事情

西に位置するドルワオ王国を目指し、飛び立つ二人。

王国に着いた頃には周りは真っ暗だった。

相当用心深いのか、門は閉まっていた。


「どうしましょう。セイヤ様」

「しょうがないだろ。今日は野宿だ」

「野宿・・・」


野宿に何か思い出したくない過去でもあるのだろうか。

俯いているテレダジナに優しく話しかける。


「俺がいるんだ。何も起きるわけがない」

「そうですね・・・」


テレダジナは微笑み、野宿をすることに意を決する。


「それじゃあ、俺は薪探してくるから、テレダジナは・・・」


セイヤがそう言いかけた途端、テレダジナは袖を優しく引っ張った。


「どうした?」

「セイヤ様・・・あの・・・」

「時間がないんだ。早く行動に移すぞ」

「あの、セイヤ様!」

「だからなんだ?」

「あの私・・・・」


一度上げた顔をまた下げ、一人の少女はこう綴った。


「私、暗いのが怖いんです・・・」

「・・・は?」

「だから、暗いのが怖いんです。お化けでも出たらどうしようって」

「そんなものは存在しない。ほらさっさと行動に移すぞ」

「セイヤ様!」

「早くついてこい」

「は、はい!」


エルフは暗い所とお化けが苦手の種族なのか?

まあ、どちらにしろ仕方ないか。

テレダジナと一緒に薪を探しに出かける。


「おい、テレダジナ?」

「何ですか?セイヤ様」

「離れてくれ。歩きづらい」

「怖いこと言わないでください、離れたら歩けなくなっちゃいます」

「どういう設定だよ」

「設定?」

「あー、いや。何でもない」


焚火ができるまでこのままということか。


薪は思いのほか早く見つかり、小川の近くで火を起こすことに成功した。


「じゃあ、俺は魚捕まえるからそこで待っとけ」

「はい、わかりました」

 

セイヤは数時間かけて魚を捕まえようとしたが、取れたのはたったの三匹だった。


「悪いな。今日はこれで我慢してくれ。明日腹いっぱい食わしてやるから」

「腹いっぱいじゃなくてもいいですよ?」


焚火の近くで、魚を串刺しにして焼き始める。

眼には綺麗な火が映っていた。


「セイヤ様?」

「ああ、悪い。なんだ?」

「魚食べないんですか?焦げちゃいますよ?」

「俺はいい。テレダジナが食べろ」

「え?でも・・・」

「俺のことは気にしなくていい」

「そうですか・・・」


テレダジナに魚を譲ったつもりだったが、気が付いたときには口元に魚の食べ欠けが用意されていた。


「テレダジナ?」

「セイヤ様?あーーーん」

「いや、俺はしないぞ?」

「食べないのならしちゃいますよ?」

「・・・・・全く」


テレダジナに完全に負けてしまった。

少女から魚を受け取り、その食べ欠けを食べ始める。

食べたのを確認したテレダジナは「ふふっ」と微笑み残りの魚を食べる。


だが、不思議だ。

この魚は味がする。

今まで食べてきたご飯は味がしなかったのに。

そういう種族で育ったからか?


そんなことを考えていると、テレダジナから話が持ち込まれた。


「あ、あの。セイヤ様」

「なんだ?」

「すぐお休みになられますか?」

「そうだな、テレダジナは休んでていいぞ」

「え、でも・・・・」


テレダジナは恐らく、俺に休んでいいと言いたかったのだろう。

だがこの暗闇の中、俺が休んでいる間にテレダジナの身に何かあったらどうするんだ。

だから、休むわけにはいかなかった。

テレダジナが駄々をこねようと少女の思うように動くわけにはいかない。


「いいから、テレダジナは先に休んでいいぞ」

「わかりました。ありがとうございます・・・」

「おう、お休み」

「あの・・・セイヤ様?」

「なんだ?」

「私、まだ寝ませんよ?」

「そうなのか?」


会話の流れ的にそうじゃないのか?

では、彼女は何を言おうとしたのか

その答えはすぐに少女の口から言い放たれた。


「あ、あの・・・名前の件なのですが・・・」

「ああ、あの件の話か」


テレダジナが名前をなかなか言い出さなかった件。

もう少し経ってからだと思っていたが、意外にも早かった。

まあテレダジナが、言わなければならないタイミングがここって思ったのなら聞くしかないよな。


「じ、実は、私いじめられていたんです」

「この名前でか?」

「そうです。だから言いたくなかったんです・・・またいじめられたらどうしようって」


そう言うことだったのか。

通りでなかなか言い出さないと思った。

このぐらいの年の子は不満をぶちまけることが上手くできずに溜め込んでしまう。

このぐらいの年の子には深刻な問題だろう。

だから、その感情を上手くコントロールしてあげるのが大人の役目であり責務だ。


「なあ、テレダジナ?」

「はい、なんでしょうか?」


肩が震えている。

何を言われるのかわからないから怯えているのだろう。

だからこそ、誰でもない俺が何とかしてあげないといけない。


「俺はテレダジナの名前変だとは思わないぞ?」

「え・・・?」

「容姿に似合ってて可愛らしい名前だと思う」

「そうですか・・・?」

「そうだ。今度何か言われたら俺に相談しろ」

「・・・・・う・・・」


次の瞬間、テレダジナは盛大に泣き出してしまった。

今まで溜め込んできた感情が全て込み上げてきたのだろう。


「よくがんばったな・・・」


テレダジナの頭を撫でると、少女はいきなり飛びついてきた。


「セイヤ様。セイヤ様ーーーー。うわああああん」

「もう大丈夫、大丈夫だからな」


しばらくは、離れてくれなさそうだった。


そして時間は刻々と過ぎていき、テレダジナは泣き寝入りしてしまった。


「全く、しょうがないな・・・」


この固い地面に少女を寝かせるのは気が引ける。

だとしたら、やることはただ一つ。


「このままにしとくか・・・」


こうして、この暗い夜を過ごすのだった。





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