五話 エルフとの逃避行
木が入り混じる密林の中を歩き始めてどのくらいの時間が経過しただろうか。
テレダジナの体力が底を付いたのか歩みがだんだんと遅くなっているのが目に見えてわかる。
「大丈夫か?」
「はい・・・大丈夫です・・・」
全然大丈夫なようには見えなかった。
息は上がっているし、それに反比例して足は上がっていない。
このまま歩いても怪我をするだけだ。
「ここらへんで一回休憩するか」
「は・・・・はい!」
凄く嬉しそうな顔で返事をする。
休みたいなら最初から休みたいと言えばいいものを。
休憩する場所のすぐ近くには小川が流れていた。
「テレダジナ」
「何ですか?」
「汗かいただろう?近くに小川が流れてるから汗流してこい」
「良いんですか?」
そう言うとテレダジナは迷いなく服を脱ぎだした。
「ちょっと待て!」
「ん?何ですか?」
「何ですかじゃないだろ・・・替えの服は持ってないのか?」
「はい、持ってないです」
「だからって全裸はまずいだろ」
「どうしてですか?」
「それは・・・あれだ・・・」
動揺するセイヤに疑問の視線を向けるテレダジナ。
「そうだ。また襲われてでもしたら大変だろう?」
「それもそうですね・・・でも替えの服ありませんし・・・」
居心地が悪そうにもぞもぞする。
はあ、しょうがないか。
「しょうがない、代わりに条件がある」
「条件?」
「そうだ、覗きはしない。だから、近くで待機させてもらう」
「そうですね・・・それなら安心です」
すると、一度止めた手をまた動かした。
「だからここで脱ぐな!」
「はーい」
そう言い残し、小川の方に向かっていくテレダジナ。
「全く・・・」
こうして、テレダジナの水浴びが始まってからどのぐらいの時間が経過しただろう。
太陽は西の方へ傾いていた。
「お、お待たせしました」
「おう、長かったな」
「ごめんなさい」
「謝ることはない・・・・ん?」
「どうしました?」
セイヤはあることに気が付いた。
テレダジナは本当は可愛かったのか?
透き通る水色の髪がその美貌を際立たせていた。
というかなんで今まで気が付かなかったんだ?
「いや、何でもない」
「そうですか・・・」
「あ、いや聞きたいことあった」
「何でしょう?」
咄嗟に思いついた疑問をぶちまけた。
「さっきは何で名前をなかなか名乗ろうとしなかったんだ?」
「それは・・・」
歯切れが悪い。
これは何かしらの事情がるんだな。
それを無理やり聞き出すのは良くないことだ。
「悪い。無理なら別に言わなくていい」
「ごめんなさい、話せる日がきたらちゃんと言いますから」
「わかった」
二人の会話が途切れたその時だった。
「ここら辺にいるのか?」
「はい、間違いなく」
「本当に見たんだろうな?」
「はい、確かにこの目で」
「あの、裏切りの大罪人がな・・・」
声が足音と共に近づいてくるのが鼓膜を通して伝わる。
「テレダジナ!行くぞ」
「は、はい!セイヤ様」
その声から逃げるようにその場を去っていく。
だが、これで終わりではなかった。
「チッ、あいつらだけじゃないのか」
「セイヤ様、どうしましょう?」
進んだ先にも兵士は進行していた。
「どこか身を潜められそうなところを探すのはどうでしょう?」
「いや、ダメだ。そんなことすれば確実に見つかる」
相手がまず探しそうな場所は、恐らく隠れそうな場所から探すだろう。
隠れてしまえば逃げ場を失う。
二つの問題がある限り、身を潜めるのは得策ではない。
どうすれば・・・
悩みこむセイヤにテレダジナはさらなる提案を持ち掛けた。
「空を飛ぶのはどうでしょう?」
「テレダジナ・・・」
この子は何を言っているのだろうか。
人類が挑戦をし続けて、未だにその夢も叶っていないというのに。
「お前は何を言ってるんだ」
「本気なんです!だから痛い子を見ているような目で見るのはやめてください!」
だとしたら本当に空を飛ぶことなんてできるのだろうか。
第一に俺にもこの子にも羽など生えていない。
どうするのか
「その空を飛ぶための方法を聞こうじゃないか」
「はい、私は実はエルフなんです」
「知ってる」
「なんで知ってるんですか!?」
そう言えは、この子が何者なのかその口からは聞いていなかった。
「さっき襲われてた時にちらっと耳にしたんだよ」
「そういうことだったんですね・・・」
「ああ。それで、そのエルフと空を飛ぶことに何か関係あるのか?」
「もちろんあります。エルフと言っても三つのエルフに分類されるのです」
「エルフが分類される?」
普通のエルフとダークエルフみたいなものだろうか。
とりあえず、このまま聞いてみよう。
「それで、どんなエルフがいるんだ?」
「強奪が上手い、盗賊エルフと 魔法が得意な、賢者エルフ。それに空を自由自在に飛べる天翼エルフの三つです」
「種族間違えてないか?」
「どういうことですか?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
どう考えてもそれをエルフと言う種族に分類していいのだろうか。
だが、確かな情報はテレダジナは天翼エルフということになる。
だが、羽は生えていない。
どこからか突発的に羽が生えるのだろうか。
「てことは、テレダジナは天翼エルフということだな?」
「いや、違います。私は賢者エルフです」
「じゃあ、空を飛べないじゃないか」
「飛べますよ」
「どうやって飛ぶんだ?」
「まあ、見ててください」
すると、テレダジナは詠唱を唱え始めた。
「テレダジナが命じる、この危機に逃避行の羽を授けたまえ。「フェアリーウィング」」
その詠唱と共に二人の背中には光り輝く羽が生えていた。
「こんなことできるなら、他のエルフいるか?」
「普通ならそう考えますが、これも魔法。限度があるのです」
「なるほどな」
ずっと飛んでいるわけにもいかないということか。
詳しいことは後で聞くことにしよう。
今は兵士たちから逃げる方が最優先だ。
「それじゃあいくぞ、テレダジナ」
「はい!セイヤ様!」
背中に力を入れれば飛べるのか?
その思い付きを実行することに。
すると、簡単に飛ぶことができた。
「テレダジナ。この世界のことをあまり知らないんだが、どこかいいところはないか?」
「そうですね。西に位置するドルワオ王国でしょうか。あそこも怠惰の勇者様を信仰していますので」
「それなら話は早い。行くぞ」
「はい!」
「太陽が西にあってまぶしいだろうが、我慢してくれ」
「私なら大丈夫です」
こうして二人は逃避行をすべく、西に位置するドルワオ王国に向かったのだった。