四話 大罪勇者の過去
時間がちょうど正午ぐらいだろうか。
まぶしく照らしつける陽が地に光を降り注ぐ。
密林の中にいてもそれは変わらない。
そのせいだろう。
少女の涙が輝いて見えるのは。
「えっと、とりあえずどういうわけか聞いてもいいか?」
「はい・・・」
泣き止んだ少女はある昔話を語り始めた。
「これは40年前の話なのですが、この世界には七つの大罪勇者が存在していたそうです」
「七つの大罪勇者?」
「そうです。憤怒の勇者、嫉妬の勇者、強欲の勇者、暴食の勇者、色欲の勇者、傲慢の勇者、そして、怠惰の勇者の七人です」
この世界にも勇者と呼ばれた存在がいたらしい。
だが、自分が大罪勇者と呼ばれる覚えはもちろんない。
情報が圧倒的に足りない。
「その大罪勇者と俺が関係あると?」
「はい、先ほどの禍々しいオーラは伝承に伝わる、怠惰の勇者のものです。怠惰の勇者は20年前に国によって殺されてしまいました」
「大罪を犯したからか?」
「とんでもないです!大罪勇者様は国民のため、その禁忌を代償に強力な力を手に入れたのです」
「禁忌?」
「そうです、怠惰の勇者様なら・・・そう」
胸に手を当てて少女は言う。
「怠けることなく、行動し続けること」
「その禁忌を破るとどうなるんだ?」
「災いがその地にもたらすといったものです」
その事象に心当たりがあった。
乳児期にあった火事の件。
あれが禁忌を犯したということか。
しかも、20年前に死んだということは、自分がこの世界に来た時期と重なる。
偶然か?いや、これは偶然ではない。
何かしらの一致で自分は怠惰の勇者になってしまったのだ。
その何かしらにも、当然心当たりがある。
それは毎日自堕落な生活を送ってきたことが原因だろう。
それを見かねた前怠惰の勇者は、俺を使い輪廻転生することにした。
そして、前怠惰の勇者は禁忌を代償としていた。
その禁忌をあの日の声は代償とわざと濁していたのだ。
あの日、脳に響いた声。
間違いない、前怠惰の勇者の声だ。
「そういうことか・・・でも君の国に行く理由にはならないと思うのだが?」
「それは・・・」
それきり黙り込んでしまったが、意を決したようにこう告げた。
「私の国は元々、怠惰の勇者様のご領土でした。しかし、新しく生まれた子が「怠惰」の能力を持ったと勇者様を殺した国の兵士が情報を聞きつけたのか、国を燃やし尽くしたのです」
「なるほどな。それで俺に自分の罪深さを認識させたいと?」
「そんなことはありません!国の皆はそんなこと思ってません!」
「どうかな」
「本当です!」
必死に訴えかける少女。
だが、その願いはセイヤには届かなかった。
「仮にそうだとしても、俺は行かない」
そう言って、その場を立ち去ろうとするセイヤを少女は迷いなく追いかける。
「待って!待ってください!」
「待ったとしても、君の国に行かないぞ?」
「わかりました!だから待ってください!」
「だとしたらなんだ・・・?」
息を上げる少女の呼吸が整うまで待ち、落ち着いたところで話し始める。
「私を連れてってください」
「ダメだ」
「どうしてですか・・・?迷惑ですか・・・?」
「そういう問題じゃない。ろくな生き方しないぞ?」
「それでもいいです!お願いします!」
全く、そんな顔をするなよ。
そんな顔されたらダメだと言えなくなるじゃないか。
そして、セイヤは一言言って、また歩き始める。
「好きにしろ」
「はい!」
「そういえば名前は?」
「え・・・?」
「名前だよ名前」
「それが・・・」
「なんだ?言えないほどの変てこりんな名前なのか?」
「ち、違います!」
「だったら早く言え」
「テレダジナって言います」
「なんだよ、全然変じゃないじゃないか」
「え・・・・」
テレダジナは突然、立ち止まった。
「ほら、置いていくぞ」
「あ、待って」
歩みをやめたその足を、もう一度動かした。
「俺はセイヤだ」
「セイヤ様?」
「セイヤでいい」
「そんなわけには・・・」
「まあ、好きな呼び方でいい」
「分かりました・・・」
こうして、二人は密林の奥地へと消えていった。