三話 尋問されるエルフ
おかしい。明らかにおかしい。
今まで良くしてもらった人たちが次から次へと姿を消していく。
どういうことなんだ?
この奇妙な出来事を理解できなかった。
いや、受け入れたくなかったと言った方が正しいだろうか。
恐らくこれも全てこの俺、セイヤのせいだ。
異変が起こったのは、この左胸に刻まれた刻印が発現した時からだ。
この文様を見た人間がら姿を消していく。
この文様が示す意味合いが俺には分からなかった。
だが、推測はできる。
これは、俺から遠ざけたくなる何かを表しているに違いない。
俺が何をしたというのだ。
神の逆鱗に触れたからか?
指一本も触れていないだろう。
ただ、自堕落な毎日を過ごしていたというのになんでこんな目に合わなければいけないんだ。
「っく・・・」
さらには、感情がネガティブになると心臓を握られたような痛みが体を襲ってくる。
最悪だ。
負のスパイラルが剣二を襲い続ける。
だが、今日でこれも最後。
この村を離れて、一人静かに死ぬのだから。
そしたら何も考えることはない。
猟をすれば火事になることはないし、不の感情を抱くこともない。
それに、誰にも迷惑をかけることもないのだから。
「それじゃ、さようなら」
誰の見送りもなく、セイヤは空気に紛れるように姿を消していった。
「さて、ここからどうしたものか・・・」
猟をするとは言ったが、何も道具は持っていなかった。
小川に行って魚を素手で捕まえるか?
向こうの世界で生きていた時に体験したが、なかなかに難しかった。
どうしたものか・・・
セイヤが思考を巡らせているうちにそれは起きた。
「たすけて!」
どこからか幼い女の子の声が聞こえた。
聞き流すことができないぐらいに辺りに響き渡り無視することは許されない。
「どっかに落ちたのか・・・?」
以外にも女の子は近くで見つかった。
だが、ある問題が。
「おい、早く奪ったものを返せ!」
「何も取ってません。本当なんです」
「嘘をつくな!取ったのは知ってんだよ!」
鎧をきた兵士三人が女の子を囲んで攻め立てていた。
その光景はまるで・・・・
「尋問みたいだな・・・」
セイヤの目からはその子が嘘をついているようには見えなかった。
だが、奪ったと決めつけている兵士三人はそうはいかなかった。
「早く出せ!」
「だから取ってません!」
「これだからエルフ風情は」
エルフ?エルフが盗みを働く?
そんなことは絶対にあるはずがない。
セイヤの体は自然と動いていた。
「おい、やめろよ」
「あ?誰だ貴様は?」
「俺はセイヤだ。その子が嫌がってるだろ」
「部外者は引っ込んでろ!おい!早く出せ!」
「いや!やめて!」
一人の兵士が女の子の髪の毛を引っ張った。
次の瞬間、何かが解放された気がした。
禍々しく邪悪な何かが・・・
「おい・・・やめろよ・・・」
「なんだよ、うっせ・・・・!!!」
兵士は何かを感じ取ったのだろう。
自分自身でも感じ取れるオーラが他人が感じ取れないわけがない。
そして、一人の兵士が口を開いた。
「貴様!大罪の勇者か!」
「知らねーよ。そんなことより・・・・やるのか?」
セイヤは自然と臨戦態勢を取った。
その異様さに恐れをなしたのか兵士たちは「チッ覚えておけよ」と言い残し、逃げていった。
彼らの姿が消えたと同時に邪悪なオーラは引っ込んでいくのが分かった。
「大丈夫か?」
「ひっ!」
まあ、この子が怯えるのも無理はないだろう。
先ほどまで邪悪なオーラを巻き散らしていたのだから。
「気をつけて帰るんだぞ?」
こうして女の子と別れるはずが、「待ってください!」と呼び止められた。
「どうしたんだ?」
「あなたは大罪の勇者様なんですか?」
「俺もわからないのだが・・・」
まず第一に大罪の勇者って何なんだ?
悪人なのか善人なのかよくわからない。
内容が理解できないまま、少女は唐突にセイヤに頭を下げた。
「お願いです。一度でいいから村に来てくれませんか?」