二話 悪夢の予兆
次に目が覚めた時には視界に緑はなく、木造物に覆われていた。
「ここは・・・どこなんだ?」
顔は自由に動かすことができる。
それを活かして、辺りを見回してみる。
だが、不思議だ。物音一つしない。
それどころか人の気配すら感じられない。
「どっかに出かけてるとかか・・・?」
あまりの静寂に眠気がもう一度襲ってくる。
このまま寝てしまえばまたわからずじまいになってしまう。
「どうにかできないものか・・・」
そう考えているうちにもまた眠ってしまった。
そして次に目が覚めた時、またしても景色は変わっていた。
今度は天井にはレンガで覆われている。
「あ、起きたよ!」
成弥の顔を覗くように一人の少女が見てくる。
「この子は誰だ?」
成弥の疑問は決して届くことはなかった。
そしてまたしても夢の中へ潜り込む。
あれからどのぐらいの時間が経過したのだろうか・・・
体内時計では深夜を回っているだろうか。
意識が朦朧とする中、ある違和感に気が付いた。
「あれ?なんか焦げ臭くないか?」
食べ物を焦がしてしまった匂いではなかった。
息するのにも苦しい。
気にすることはやめようとしたその時だった。
「赤ちゃん!大丈夫!?お母さん!早く避難しないと!」
「あなたは早く逃げなさい!この子は私が何とかするから!」
何やら騒がしいな。
そして、成弥はゆっくり目を開けると、その光景に目を疑った。
「なんだよ・・・これ・・・」
目にした光景は、高く舞い上がる火柱に激しく飛び散る火の粉。
間違いない。これは火事だ。
「やばい、動けないのにどうしたら・・・!」
火はすぐそこまで来ている。
だが、体は思うように動かない。
このままでは死んでしまう・・・・
全てを諦めたように、成弥の意識はそこで切れた。
「うわああああああ」
成弥は突然目覚めた。
「なんだ・・・今の夢・・・」
目が覚めると、広がっていた景色はレンガの天井ではなく、藁の天井だった。
夢にしても悪質すぎる。
これもあの謎の声の正体のせいなのか?
不可解な事があれば全て謎の声のせいにしてしまう。
そのぐらいリアルな夢だったのだ。
「はー、まあ夢でよかった・・・」
寝返りが打てるようになり、横になると必然的に手が見えるようになる。
どうしても視界に手は入ってしまうものだ。
だから、寝返りは打つべきではなかった。
「おい・・・・おいおいおいおいおいおいおい」
赤子にも関わらず鳥肌が立った。
なぜなら、右手の甲に火傷の跡があったのだから。
「まさか、夢じゃなかったって言うのか!じゃあなんであの状況で助かったんだ!?」
あの窮地から脱する方法はなかった。
ただでさえ、赤子の自分に逃げられるはずがない。
「どうなってんだよ・・・」
謎が解けないまま、眠りについたのだった。
どうやら最近、寝付けが悪いらしい。
またしても深夜に起きてしまった。
今まではそんなことなかったのに。
「・・・・ん?」
またしても違和感を感じた。
その違和感を感じ取ったのは・・・・鼻だった。
「また焦げ臭い・・・・・まさか!?」
目を全開に開けると、またしても火の海。
逃げ場などなかった。
「おい・・・どうしてこうなるんだよ。」
今度は助からない。本能がそう叫んでいた。
せっかくの異世界なのに何もしないで終わるなんて・・・
またしても、全てを諦めてこの状況を受け入れる。
その時。
(これは全て貴様のせいなのわかるか?)
またしてもあの謎の声だ。
「言われなくてもわかってる!なんでこんなことするんだ!」
(貴様に欠落しているある物がまだわからないのか?)
「わかるわけないだろ!」
(それもそうだな。今まで怠けてきたのだからな)
「・・・! お前!まさか!?」
(そうだ、お前が一日何もしないとその周りを巻き込んだ大火事になる)
「神にでもなったつもりか!?やりすぎだ!」
(貴様が怠けたのが悪いのだ。巻き込みたくないのなら工夫して回避することだな)
「ちょ、おい!」
謎の声が聞こえなくなったと同時に意識が遠のいていく。
そしてもう一度、意識はなくなった。
「・・・・・」
今度は黙って目覚めた。
だが、感情は目覚めなかった。
自分が怠ければこの家も焼け落ちる。
それが自分に相応しい罪だと?
笑わせるな。
いいさ。いくらでも回避してやる。
怠けるということはつまり、何もしないことだ。
だったら、何かしらの行動をすればいいということになる。
この案は成功し、あの日以降火事は起こることはなかった。
そして、無事に二十歳を迎えられた。
だが、悪夢はまだ終わらなかった。