一話 転償の先には
視界が暗い。
一体いつ視界が開かれるのだろう。
ここはどこだ?
本当に死んでしまったのか?
いや、呼吸はできているし死んではいないか・・・
だとしたら俺は、どうしてしまったんだ?
何もわからないまま、あの謎の声の通りに転償してしまったのだろうか。
何もわからずじまいかと思いきやようやく暖かな光が視界いっぱいに広がった。
「まぶしい・・・!」
最初に視界に映ったのは木に沢山ついた葉が満遍なく広がり、優しくゆらゆらと揺れていた。
「やっぱり、あの声の主のように転償してしまったのか?」
だとしたら、ここはどこなのだろうか。
「まさか、異世界なのか!?」
夢にまで見た異世界の地。
ようやくその土俵に立つ権利を得たということか。
まあ、それが大罪でというのが癪に障るが今はどうでもいい。
とりあえず冒険の旅を始めよう。
そう意気込み、最初の一歩を踏み出そうと決意したところ、それは叶わなかった。
「あれ?なんで歩けないんだ?それどころか起き上がれてない?」
体が思うように動かなかった。
何かの身体的病気のせいなのか?
だが、手足は動いていると感じ取れる。
「おいおい、どういう状況?」
この状況に全く理解できなかった。
「顔は動かせるのか?」
顔を横に向けたところ、その動作は無事に叶った。
だが、ある問題が。
「これはなんだ?」
目にしたのは、木の素材が絶妙に入り混じっていた光景だった。
そして、なにより驚いたのは視界に入った自分の手だ。
「なんでこんなに小さいんだ?」
成弥の手は十センチにも及ばない小さな手だった。
「まさか・・・」
ここまでわかればどんなバカだって気が付く。
そう、成弥が置かれているこの状況。
「俺、赤ちゃんになってるーーーー!!!」
成弥は転償と共に真の赤子戻りをしてしまったのだった。
だが、その驚きは一瞬のことだった。
代償を持って転生したとなると必然的に人生リセットという解になる。
だから、驚きは一瞬で冷めたのだ。
「とはいえ、どうすればいいんだ・・・?」
赤子にも思考は存在するだろうが、ここまで明確な思考を持つ赤子は存在しないだろう。
だから、この先どう生き延びていけばいいのかわからなかった。
動物に育てられた子供を言う話を耳にしたことがあるが、あれは迷信だとこの時までは思っていた。
この状況はその迷信も真実味を増してしまう。
「嫌だ、そんなの嫌だー」
成弥の悲痛の声が全身を駆け巡る。
その悲痛は誰にも届かないと思われたが、ある女性がゆっくりと近づいてくる。
「誰だ?わからない・・・」
そう感じるのは、突然睡魔が襲ってきたからだ。
成弥の目蓋がゆっくりと閉じてしまう。
この女性の姿を見ておきたいのに、体が拒否反応を起こしているかのように目蓋は閉じ始める。
「ダメだ、このままでは寝てしまう!」
そう思われたその時だった。
「いってーーー!なんなんだ?」
全身に強い痛みが走った。
痛みはどうやら精神的なものらしく、身体的には何ともなかった。
この痛みがこの女性にも伝わったのだろうか。
女性は成弥から手を引き、来た道に沿って戻って行ってしまう。
「あ、ちょっと!ちょっと待って!!!」
だが、彼は赤ん坊。
その声は虚しくも届くことはなく、そのままゆっくりと目蓋を閉じたのだった。