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結晶石を君へ  作者: ながとむ
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入学とは名ばかりの編入

これは遥かいにしえのお話。

1体の石像と1人の乙女のお話


乙女の村は石工が盛んな街だった。

乙女も石工の娘だった。

ある日乙女の父は神を模した石像を作った。

作られた石像はあまりに神々しく、神の姿にあまりに酷似していた。

神はその石像を気に入った。

そして神は自分の魂の一部を石像に込め、石像は命を宿した。


命を宿した石像と乙女が恋に落ちるのにそれほど時間はかからなかった。


乙女と石像は仲睦まじく平和に暮らしていた。

しかし石像には不安があった。

石像は何年も変わらぬ姿だというのに乙女は日々成長し、そしていつしか老いる。

常に変わりゆく彼女の心もいつしか変わってしまうのではないか。そう考えるようになってしまった。

そして、石像は乙女を輝く結晶に変えてしまった。乙女を永遠の物にしようとしたのだった。


これで彼女は永遠の物になる。大変喜んだ石像は何千年もその乙女に寄り添い続けた。

しかし、ある日石像は自分の体にヒビが入っている事に気付いた。

そして石像は悟る。石像自身も結晶に変えた乙女も永遠ではいられないことに。


ならばせめて、と石に変えた乙女を砕き、飛び散らせ、才能ある人間の体に埋め込まれた。石像は結晶は依り代を変え、結晶は永遠に受け継がれていくと考えたのだ。



それが結晶の始まり。



幸せそうな顔で眠りに耽る少女、美空アカリの頭に分厚い本の角が叩き込まれる。


「いったあ!?」


激痛のあまり大声を出し、痛みの元に目をやる。

目の前に居たのは若い女教師。教師は呆れた顔で首を振っていた。


「あなたね。誰のために結晶の始まりを話していると思ってるの?

入学式に遅刻してきたあなた達のためでしょう?」


「す、すみませぇん…。」


結局、広大な敷地に迷い、なんとか事務員にトランクケースを預けたものの、入学式に間に合わず大目玉を食らった。

それに加えて彼女はこの学校での生活に喜びと期待を隠せず、昨日なかなか眠りにつけなかった。故にだ。故に今眠いのだ。


次に教師はノールックで端から端の席に向かってチョークを投げる。

その先に居たのは不動未央。

一緒に遅刻してきた生徒でアカリの最初の友達だった。


「んお…ーーー!?」


頭に当たり砕け散るチョーク。石灰の粉が威力を物語る。

思わず椅子から滑り落ち、何事かと驚きながらその体を起こす。


「あなたもよ。不動さん。全く、2人して仲良しね。遅刻も一緒で居眠りも一緒なんて。」


クラスから笑いが起こる。

アカリは恥ずかしそうに苦笑いをしながら周りを見渡す。

未央はなぜ笑われているのかわからないといった面持ちだ。


そして鳴り響く授業終わりのチャイム。

教師は仕方なくまだ居ない号令係の代わりに号令をかける。



「美空さんと不動さんはちゃんと結晶の成り立ち、覚えておきなさいよ。」


そう言い残して一先ず教室を後にした。


「美空さん、美空さん!」


先生がいなくなるのとほぼ同時に声をかけてきたのは赤髪のツインテールの女子。可愛らしいウサギの髪留めが特徴的だ。

机に身を乗り出し美空に顔を近づけて興味津々な面持ちだ。


「うわああ!?」


オーバーな驚き方で椅子の上から仰け反る今にも倒れそうになった。


「やめろ。怖がってるじゃないか。」


冷めた目で長身の男子が手持ちの教科書でアキと呼ばれる女子の頭を叩く。


「ったあ!美空さんの痛みが分かったぜ!」


サムズアップでアカリに笑いかける女子。


「茶化すようなこと言うな。」


「あいた!」


2発目が彼女の頭にクリーンヒット。

やり取りがあまりに仲睦まじく、置いてけぼりなアカリはただただ苦笑いしているだけだった。


「あ、悪い美空さん。自己紹介、まだだったよな。俺は氷上冬馬。それでこいつは、穂村亜希。」


アカリの表情から心境を察する冬馬。

やり取りを区切り淡々と無表情に自己紹介を始める。


「あ、私、美空アカリです!って、もう知ってるのか…。あはは…。」


自己紹介をしようにも知られてしまっていてはする必要もないだろう。

入学式の遅刻、居眠り。理由が理由なだけあってアカリはまた苦笑いの表情を浮かべた。


「それで、どうしたの?アキちゃん。」


「いやあ!中等部からの入学生なんて珍しいからさ!声かけたくなっちゃって!ね!ね!色々話聞かせて!」


アキは目を輝かせてアカリを見つめる。


「え?そ、そうなんだ。うん!私も、この学園の事色々聞きたい!」


アカリは快く受け入れる。

やはり好意的に接してもらえるのは気持ちが良いのだろう。


「おーおー!いいよいいよー!じゃんじゃん聞いちゃってー!冬馬に!」


冬馬に向かって思いっきり人差し指を向けるアキ


「お前が答えろバカ。」


突っぱねる冬馬


「バカとは何よバカとは!ちょっと頭がお茶目なだけなんだからねっ!」


ツインテールがぴょこぴょこ跳ねてむくれるアキ。


「…言い方変えただけで頭が悪い事には変わりないだろ。」


呆れる冬馬


「たしかに!!!!」


納得したアキ。


切り返しの早い夫婦漫才のようなやり取りに思わず笑いが吹きこぼれたアカリ。


「ぷっ…ふふっ。仲良いんだね、2人とも。」


「まあねー!物心ついた時から一緒だからね!」


その言葉に驚くアカリ。そうなんだ、と2人の顔を交互に見る。


「何も俺達2人だけじゃない。美空さんと不動さん以外は全員、幼馴染みって事になるな。」


冬馬とアキは幼年部からこの学園にいる生徒。

アキだけではない。

アカリのいるクラスではアカリと未央以外全員が幼い時からこの学園に慣れ親しんでいる。この学園では卒業後も教師や関係者として働く人間も多い。

それ故に内部の親密度はとても高いのだった。


結局、冬馬が学園についての事をほとんど教えてくれた。

アカリもアキの質問に答えていった。質問は主に流行のファッションやメイクなど、ガーリーな話題ばかりだったが小学校を卒業したばかりのアカリにとってはそこまで深く分かるはずもなく、適当な単語で乗り切るしかなかった。

短い休み時間を終えて次の授業に入るが流石に先程の一件で目が覚めたようで、終始真面目に教師の話を聞いていた。だが、さりげなくアカリが未央の方を向くと未央は懲りずに眠っていた。

アカリはただただ神経の図太さに感心する。

次の授業も、その次の授業でも未央は起きる事はなかった。


「流石に寝すぎじゃない!?」


昼休み。アカリは思わず未央の元に駆け寄り声を大にして突っ込む。


「ああ…ーーーアカリちゃん…ーーーおはよう…ーーー。」


眠たげな瞳でアカリに挨拶する未央。

にへらと笑う未央の顔に思わずアカリも表情を崩して返す。


「じゃなくて!もう、そんなに寝てたら夜眠れなくなっちゃうよ。」


「大丈夫…ーーー。既に…ーーー手遅れ…ーーー。」


サムズアップする未央。どこか誇らしそうな表情に見える。


「そ、それじゃあダメだよ!生活習慣治そうよお!」


未央を本気で心配する様が伺えるアカリ。

アカリの未央に対して、心配をよそにチャイムが鳴り響く。

さて、放課後だ。

アカリは事務室に赴いて新生活を行う寮の案内をしてもらわなければならない。

未央も一緒に誘いはしたが


「私は…ーーーもう少し…ーー寝てる…ーーー。」


との事なので仕方なく別れを告げた。


その代わりにアキが興味本位で付いてくることになったのだが、アカリとしても分からない事を聞けるという事で安心なようだ。

女子寮には男子は入れないため別行動となった。


「女子寮にはねぇ。3つ建物があるんだよぉ〜。芍薬寮、牡丹寮、百合寮!」


聞いたところによると百合寮はプラチナランク専用の寮。オートロック式で高級ホテルのようなルームサービスまで付いてるのだという。


牡丹寮はシルバー、ゴールドランクの寮。

シルバーランクは二人一組の質素な普通の部屋に対してゴールドランクはシルバーよりも豪華な1人部屋が与えられる。


芍薬寮はブロンズ、ストーンの寮。

いわゆるオンボロ寮で寮と言うよりかは大部屋だ。大抵そこには幼年部の児童達がいるため世話が大変なのだとか。

ストーンは芍薬寮の空きスペースが寝床であり、決まった場所はない。大抵は屋根裏になるようだ。


嬉々として解説してくれるアキを横に据えて事務室に辿り着く。


事務員に一通り事情を説明するとアカリは1枚の紙を渡される。

そこには牡丹寮307号とでかでかと書かれて簡易的な地図が載っているだけだった。


事務員には


「じゃあ、ここ行ってね。荷物はもう運んであるから。」


と言われただけだった。


「へえー!牡丹寮!私と同じだね。ッテェ事はシルバーか。まあ、そうだよねっ。この学園の半分以上はシルバーだからねぇー。」


アキはアカリの紙に顔を覗き込ませる。

アカリは何やら安堵したようにホッとため息を吐く。


「でもいいのかな。私、この前発現したばっかりの弱い結晶なのに…。」


発現したのは約1週間前の事。

アカリの希望もあり入学の手続きも急遽決まったのだった。


「気にすんなーって!アカリちゃんはさ、どうしてうちの学校に来たの?」


アカリの不安を軽くあしらい、爽やかな笑顔でアカリを見つめる。


「えっと…あの…わ、私…憧れてる人が居るんだ…。鹿目沙織さんって人なんだけどね…。その人に、少しでも近付きたくって…。この学校にしたんだ…。」


恥ずかしそうな口ぶりで小さな声で話す。

その名前は平成初期を彩ったスーパースターだ。アカリはビデオやDVDで活躍を何度も見ていた。


「鹿目沙織!女優さんだよね!

私でも知ってるよ!この学園出身なんだっけ。」


基本的に外には出ることのできないアキ達生徒は外の流行が分からない。

閉鎖的なあまり日本にある学校とはいっても流行や文化が独特といえる。

知っている芸能人も流星学園の卒業生もしくは一昔前の人となる。


鹿目沙織はずば抜けて有名人で、彼女はこの学園のプラチナ生として卒業したというのは日本ではかなり有名な話のようだ。

アカリはその事について熱がこもり、嬉々として語っている。


「沙織さんはね!本当に素敵なの!2003年の引退ライブとか私泣いちゃって!あ、沙織さんは歌手活動もしててね…。」


話し出すと止まらないアカリにアキは待ったをかけた。


「おーけーおーけ。鹿目沙織を好きなのはよーく伝わったよ。

確か、鹿目沙織って結晶の力もまじでちょー強かったもんね。

アカリちゃんの結晶の力って、どんなのなの?」


その質問にアカリは固まる。

正直あまり言いたくない。


「天気予知…。」


ボソリと呟く。


「え?」


聞き取れず、思わず聞き返すアキ。


「明日の天気が分かる…っていう能力です…。」


弱々しく説明するアカリ。モジモジと恥ずかしいようだ。


「なんだ、便利じゃん。たまーに天気予報とか外れる時あるもんねー!」


アキはなぜそれほど恥ずかしいのか理由が分からなかった。うまくフォローをするアキだったがアカリはまた一言付け加えた。


「70%の確率で…」


まさかの不確定予知能力だった。

しかも予知できる時間が明日のみという限定的過ぎる能力。

ノリが軽く明るいアキも苦笑いするしかなかった。

微妙な空気のまま、アキはアカリを牡丹寮まで案内する。

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