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結晶石を君へ  作者: ながとむ
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初めての友達はいつも気怠げ

結晶。それは才能の一つ。人を人ならざる者に変える才能。

その才能は千差万別。

炎を操る者もいれば獣に姿を変える者、目を合わせるだけで他者を誘惑する者。

様々だ。

しかし注意しなくてはならない。

結晶には寿命がある。

寿命もこれまた千差万別。人によっては数年の者も居れば生涯結晶を使える者もいる。

結晶は結晶石を生む。

結晶石は結晶が安定した者にしか生み出せない。

結晶石は取り込む事で結晶の回復につながる。

回復すれば寿命もほんの少し伸びるのだ。

また結晶石は結晶と同じ力を持つ。

結晶石を砕けば結晶を持たざる者も結晶を使うことができる。




そして、結晶を持つ者のみが通える世界でも有数の結晶育成学校、国立流星学園。

流星学園は全寮制。幼小中高の一貫校。

広大な敷地にはコンビニ、温泉、レストラン、映画館。何でもある。


学内はランクが分けられており、それにより待遇に差が出る。

上から


プラチナ

ゴールド

シルバー

ブロンズ

ストーン


この五段階となる。

ランクは結晶の力だけではない。学内での生活態度もまた、評価基準となる。

大半の生徒はシルバーランクに分類される。

ブロンズランクは劣等生。

ゴールドランクであればかなり優秀な生徒。

プラチナランクは学園でも数えるほどしかいない学園のお気に入りだ。

ストーンの待遇は劣悪そのものだが学園に1人居るかどうかといったレベルだ。





これは、中等部に入学する1人の女生徒の成長。

そして、結晶の運命を巡る物語。




「ううー…。入学初日からバスに乗り遅れるなんて最悪だよぉ〜…。絶対遅刻だぁ…。」


はち切れんばかりのトランクケースを引きずりながら半泣きで急勾配の坂を歩く1人の少女。

名前は美空アカリ。今年から中学生の13歳。


何が入っているのかは謎だが、そのトランクは明らかに重そうで、歩みを進めるため体に反動を付けてトランクを引っ張る。といったワンアクションを挟まなければならなかった。


「はあ…はあ…つ、疲れた…あうう…。」


疲弊したアカリはまるで犬のような口呼吸で疲労を吐露する。

情けない声を出しつつも尚もトランクを引きずる。


アカリがトランクと共に一人の少女の横を通過する。

アカリは必死にトランクを引きずるあまりその姿に気が付かなかった。



「ねえ…ーーその、荷物…ーー大変そう…ーーだね…ーー?」



眠たくなるような、ゆったりとした口調。

アカリの見逃した少女が声をかけてきた。

アカリはキョトンとしながら彼女の顔を見る。


「え?あ、あはは…。私、今日入学式なんですけど、うちの学校全寮制っていうから、持って行けるものは持って行こうってつい張り切っちゃって…。その制服、同じ学校の生徒ですよね?私、今年から中等部に入学した美空アカリです!あなたは?」


透き通るような白い肌。絹糸のようなこれまた白い髪。眠たいのか降りかかっている瞼から覗かせる蒼い瞳。誰もが美少女と言うであろう美少女だ。だがアカリにはこれほどの美少女、見覚えがないといった面持ち。

次に目に付いたのは服装。

襟と袖から伸びる二本線が特徴的なブレザーにチェックのスカート。

アカリは彼女がすぐに同じ制服だとわかった。

最初こそ戸惑い気味だったが彼女の問い掛けに快く答えている。


「私は…ーーーー不動…ーーー未央…ーーー。あなたと…ーーー同じ…ーー中、等部…ーーー今年から…ーーーー。よろしく、ね…ーーー。」


アカリは先に名乗り名前を聞くと女生徒はまたゆっくりと口を開いた。


「そうだったんだ!よろしくねっ!」


ハツラツとしたよく通る声のアカリ、

眠たげながら透き通るような綺麗な声の未央。2人の出で立ちはまさに対照的だ。


「あっ!このままだと遅刻しちゃうよ!早く行こっ!」


互いの自己紹介を済ませるとアカリはハッと思い出したようにまたトランクを引きずり始める。そして、未央を催促した。

しかしそれでも未央に急ぐ素振りは一切ない。


「大丈夫…ーーーー。すぐ…ーーー着くから…ーーー。せっかくだから…ーーー貴女も…ーーー。」


キュッとアカリの手を握りしめた未央。

未央はアカリに笑いかける。その姿はあまりに凛々しく、可愛らしい笑顔だった。

アカリは思わず頰を赤らめつつこれから起こる事柄の予想が付かないとばかりに困惑した表情を浮かべる。


次の瞬間、彼女達は坂道から姿を消した。

なんの前触れもなく。

最初から誰も居なかったかのように彼女達の元いた場所に風が吹く。



「ーーーー着いた…ーーーよ…ーーーー。学校…ーーーー。」


ボーッと立ち尽くす未央と、目を瞑ってへたり込んでいたアカリ。

未央が到着を知らせるとこれまたアカリは戸惑いながら目をゆっくり開く。


「わあ…!」


目の前に広がるのは関係者以外の立ち入りを必ず阻むという気概を感じさせる大きな扉。奥にはおとぎ話で出て来る城のような大きな校舎。

間違いなく、そこは流星学園の校門前だった。


「すごい!すごいよ!!これ、未央ちゃんの結晶の力!?すごい!!すごい!!」


迸る語彙力不足の賛美。

興奮のあまりすごいしか出てきてないことに本人は気付いてない様子。


「うん…ーーー。私の…ーーー結晶は…ーーー転移…ーーー。半径…ーーー。8km以内で…ーーー。…ーー場所が分かれば…ーーー…どこでも…ーーー移動できる…ーーー。この学校…ーー結晶持ちが沢山…ーー。友達…ーー出来ると…ーーーいいな…ーーー」


所謂テレポーテーションの能力。

未央はゆったりとした口調を崩さない。


「それじゃあこの学校で最初の友達は私だね。」


パッと立ち上がり、アカリは未央の手を握る。


「ーーー…え?」


思わず眠たげな眼も全開になる未央はやはり吸い込まれそうになるほど美しい青。


「ダメ…かな?」


アカリはその目をじっと見つめては眉をひそめて不安そうに問いかける。



「ーーー…ううん…ーー。…ーー嬉しい…ーー。そう言ってくれたの…ーー…美空さんが初めて…ーー。」


手を握り返す未央。その眠たげな顔は確かに笑っていた。


「美空さん、じゃなくてアカリだよ!もう友達なんだもん!」


手を放して、右手の人差し指を立て、訂正をするアカリ。

名称とはアカリにとって大事な距離感になるようだ。


「…うん…ーー。よろしくね…ーー、アカリちゃん…ーー。でも…ーーーもう、時間…ーーだよ…ーー…。入学式…ーー。始まっちゃう…ーー。」


新しく出来た友達に喜ぶ間も無く、時間が差し迫っていることを告げられる。


「わあ!やばいやばい!早く行かなきゃ!」


慌てふためきながら重い重いトランクを引きずりアカリは学校の門をくぐった。

それに歩を合わせて足を踏み入れる未央。

2人は晴れてこの学園の生徒になった。そして、これから6年間、外界に自らの足で出られなくなった事はまだ知る由もない。

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