めでたし、めでたし?
昔々ある所に、おじいさんとおばあさんが雪山の中腹に住んでいました。
おじいさんとおばあさんは貧乏で正月を迎えるにも米一粒も残っていませんでした。
そこでおばあさんが織った反物を町へ売りに行くことにしました。
おじいさんが山を降りようと歩いていると罠にかかった鶴と出会いました。
おじいさんは困りました。
寒いしお腹は空いてるし、そんな時に誰かを助けるほど余裕はありません。
でも、鶴は潤んだ目でこちらを見ています。
「仕方がない」
そう言って、罠を外してやりました。
なんとか町につき、反物を売ろうとしますが、誰も買ってくれません。暫く町をうろついていると同じ境遇の笠売りに会いました。
笠売りは潤んだ目でこちらを見ています。
おじいさんは困りました。
しかし、売れない物を持って帰っても仕方がないということで、反物と笠を交換して帰ることにしました。
笠を持って家へ帰ろうと雪の降るなか山道を登っているとお地蔵さまに会いました。
お地蔵さまの頭には雪が沢山積もっています。
お地蔵さまの目は……潤んでいませんが、じっとこちらをみている……ような気がします。
おじいさんは困りました。
仕方がなく、交換した笠をかぶせてやりました。
しかし、一体分足りません。
おじいさんは困りました。
この雪のなか、自分の頭に手拭いがなければ、頭が寒くて仕方がありません。ただでさえ髪の毛が少ないのに……
お地蔵さまは、じーーーーっとこちらを見ている……気がします。
仕方がなく、手拭いを頭に付けてやりました。
家につくとおばあさんが出迎えてくれました。
しかし、おじいさんが何を持っていないのを見るとじと目でこちらを見てきます。
おじいさんは困りました。
なんとか今日の出来事を説明しました。しかし、おばあさんの理解は得られませんでした。
「おじいさん、米が一粒もないと言うのに、それ以上の損をしてどうするのさ!!」
「いや、ばあさんよ。もともと貧乏なんじゃ、これ以上の貧乏で何を怒ることがあるのだ!!」
どうやら喧嘩が始まりましたね。
一方その頃家の外では……
雪のなか、女の人が歩いてきます。まるで鶴のように綺麗な人です。
反対の方向からは、お地蔵さま軍団が貢ぎものを引摺りながらやって来ます。
そして山の上から吹雪と共に色の真っ白な女の人が歩いてきます。
そして三組はおじいさんとおばあさんの家の前で出会いました。
なんだか見えない火花が散っている気がしますね。
「あら、あなたたち。どちら様かしら。私、こちらのお宅に用があるの。助けて頂いた恩返しにはたを織ろうと思っているのよ。だから、お邪魔よ、お退きなさい。」
「いやいや、我々もこちらのお宅に用があるのです。この雪のなか笠を頂きましてね。御礼の品を持ってきたのです。この品があれば貴女の出る幕はないのですよ。どうかお引き取りください。」
「あら、じゃあ私のお仕事の邪魔をしなければいらっしゃってもよくてよ?」
「「貴女のお仕事?」」
「ええ、こんな雪の日は人間を氷漬けにするのがお仕事なのよ。ふふふ♪」
「そんなことを許すわけないでしょう。私の恩返しを邪魔しないで下さい!」
「我々だって恩返しをするのです。」
なんだか、こちらも喧嘩が始まりましたね。
そんな中、煩悩を祓うための除夜の鐘が鳴り響くのでした。
めでたし、めでたし