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スカートの中の見えそうで見えない違和感

 双六というアナログで楽しい遊びを、生活様式すらコンピューター化してきた現代の子供達は知っているのだろうか?

 1から6まで目があるサイコロを振って、ただひたすら運だけでゴールを目指す、というようなあの元祖ボードゲームを知らないなんてことがあれば、それは人生にとって大きな損失と言えよう。

 何故ならばあのゲームは、人生の縮図であると言っても過言ではないからだ。

 その双六から派生したのであろう人生ゲームの存在がそれを証明している、かもしれない。


 ただまあ、人生の縮図たる双六を更に『人生』に寄せたのが人生ゲームだとして、俺には腑に落ちない点が二つある。


 一つは、進行が運任せ過ぎる点。

 確かに、人生において『運』というのは非常に重要で大きな要素ではあるが、ただそれだけではない。

 実際の人生というのは、よく言われることではあるが“選択の連続”である。

 しかし人生ゲームにおいて、『選択』という要素が大分低くはないだろうか?

 職業さえ運で決まってしまうなんて。

 ルーレット一つで。

 そんな博打で人生を大きく左右する就職活動をする人が、はたして居るだろうか?

 まあ世の中いろんな人が居るから、その可能性はゼロではないが、極めて少数派だろう。


 それに運だけで弁護士やら医者やらスポーツ選手やら、なれるものか。

 いやまあ、仮になれたとしよう。

 そうしたらその職業なりの給金が当然もらえるのだろう。

 それはいい。

 しかし、そこにその仕事の辛さがまったく反映されていない。

 弁護士は人の罪を扱う仕事だし、医者は人の命を扱う仕事である。そしてスポーツ選手は、自分の才能と戦い続けなければいけない。

 やりがいのある分、過酷な職業だと思う。

 肉体より精神が、それこそ想像出来ない程にすり減るのではないだろうか。

 だというのに、かのゲームは職業に就いたらお金をもらえるだけである。


 人生はそんな甘くないと言いたい。

 まあ、俺は人生を語れるほど生きちゃいないけど。

 人生どころか俺が甘ちゃんだけど。


 そして腑に落ちない点二つ目。

 どうしてスタート地点が皆同じなんだ。

 それこそ運で決めるべきじゃないか?

 人間は生まれる場所を選べないのだから。

 現実的に、生まれの不利有利はあると思う。

 最初は対等だなんてあるものか。

 というか、人間誰しも対等な相手など居ないだろう。

 皆それぞれ、自分の人生しか生きれないのだから。


 とまあ、いろいろと名作ゲームに対してダメ出しのようなことをしてきたが、実際そこまでリアルを求めてしまうとルールが複雑になりすぎてゲームとして破綻してしまうだろうし、あの辺が丁度いい具合なのだろう。

 というか、そこまで現実味を求めるのであれば、人生ゲームをやるより人生をやれ、という話である。


 はい、大分本題から逸れました。

 今俺がしたいのは人生ゲームの話ではなくて、双六の話だ。

 唐突だが、双六にあって人生ゲームにないルールがある。ルールというか、マスが。


 『振り出しに戻る』


 こんな酷いことがあるか。

 せっかく今まで頑張ってきたというのに。

 過ぎた時間が巻き戻ることはない。だから人生ゲームにはそのマスがないのかもしれない。

 だが実際に人生には、それに類似した状況がある。いや時間が巻き戻るよりも尚酷い。

 だから双六は人生の縮図だと、俺は思うのである。


「完全に振り出しに戻りましたね、師匠」


 椅子に座った俺に、近くに座る輪廻が話し掛けてくる。

 場所は第二科学室、つまりは真理探究部部室、すなわちスタート地点である。


「そうだな……」


 過ぎた時間が巻き戻ることはない。

 だがしかし、持っていたものを根こそぎ失うことはある。

 時間を消費しただけではなく。

 俺達は、わずかな希望をも無くしてしまった。


「本当に、どこに行ってしまったんでしょうね……」


 窓際に立つ神代さんがぼそりと呟く。

 ってあれ?


「なんで神代さんが居るの?」


「はい? なんでもなにも、星宮さんのパンツが見つかっていないというのに帰れるわけがありますか」


「本当にありがとねー、神代ちゃん」


「い、いえ……」


 科学室特有の高いテーブルに座った短冊ちゃんにお礼を言われて照れる神代さん。


「それより星宮さん、そんなところに座っているとその……見えてしまいますよ?」


「へ? 見えるって何が?」


「その……中が」


「中?」


 うわ、本当だ!

 短冊ちゃんのスカートの隙間から、その奥底が……見えそうで、見えない……!


「わわ、本当だ」


 ちっ、脚をぴっしりと閉じやがった。


「危ないなぁ、エロい先輩に乙女の大事な部分を覗かれちゃうところだった」


 てへへ、と笑う。

 全然危うい感じではない。


「師匠はエロいのですか?」


 大体、短冊ちゃんはガードが甘過ぎるんじゃないのか?

 アイドルのくせにノーパンでその辺平気で練り歩くし、今だって俺の目線ちょい下くらいにスカートの裾がきている。

 そもそも、本当にパンツなんてどうやったら無くなる――。

 ん。

 あれ。

 頭の中で何かが引っ掛かる。

 脳裏に、つい一、二時間前に見た光景が甦る。

 俺の前、階段を駆け上がっていく短冊ちゃん。

 ん。

 んー?


「師匠?」


「神代さん」


 首を傾げている輪廻に応えずに、神代さんに声を掛ける。


「なんですか?」


「ちょっと音無の膝枕代わってくれないかな? 御手洗いに行きたいんだけど……」


 すっかり定位置的に椅子のベッドに俺の膝枕でくつろぐ音無を見ながら言う。


「はぁ……まあ構いませんけど」


 近付いて来た神代さんに、音無を起こさないようにそーっとポジションを代わってもらう。


「さて、輪廻」


「はい師匠」


「お前にはちょっと頼みたいことがあるから、付いてきてくれ」


「はい、なんなりと!」


 何故か輪廻は嬉しそうである。


「んー? 先輩、羽狩ちゃんにトイレでお願いごと? なんかエロそー」


 短冊ちゃんめ、鋭いな。


「な! 天海さん、そんなことはこの私が風紀委員として――」


「あー神代さん、音無起きちゃうから騒がないでね」


「あ、すみません…………って、ちょっと天海さん!」


 神代さんが何か喚いているのを無視して、俺と輪廻は部室を後にした。

 一番近いトイレへと向かう。

 大丈夫、今は放課後でここは特別校舎である。

 人気は大分少ない。安心だ。

 というわけで。


 俺はこれから、輪廻にエロいことをお願いする。




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