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和風美少女風紀委員のダル絡み

 結局、勢い勇んで乗り込んだ短冊ちゃんの教室に目的のブツ――パンツは無かった。

 短冊ちゃんの机にも入っていないし、ロッカーにも見当たらないし、床に落ちているはずもなかった。

 短冊ちゃんが寝ぼけている間に教師に没収されたのでは(どんな教師だよ)と無理な推測をして、教卓の裏を探したりもしたのだが、まあ普通に無いというか、無くて良かった。


 一応教室に残っていた短冊ちゃんのクラスメイトの女子数人にもパンツがあったかどうかを尋ねてみたのだが、怪訝な顔で首を横に振るだけで、一つの情報も出てはこなかった。


 次に俺達四人は体育館に向かった。

 体育館には更衣室が併設されているのだが、もしかしたらそこで着替える際に短冊ちゃんがパンツを置き忘れたのではないかという推測である。

 まあ、これも結構無理があるが。

 体育で着替えるときにパンツを脱ぐ必要は無いのだし。


 さすがに俺が女子更衣室に入るわけにはいかないので、輪廻と短冊ちゃんに任せて音無と外で待機していたのだが、出てきた二人はやはりというか、浮かない顔だった。

 例によって、体育館内に居たバレー部員とバスケ部員にも聞いてはみたが、『ああ、パンツ? それならさっき見たよ』というやつは一人も出てこなかった。


 そして行くあてを失った俺達は、体育館と第二校舎間の渡り廊下で、立ち尽くしていた。


「無いですね……」


 さっきまで元気だった輪廻も、さすがに肩を落としている。


「うーん、まあ普通無くなるものじゃねえからな……。どこでどうしたら無くなるのかがまったく分からん」


「本当ですよねー」


 おい、なんで無くした本人が他人事なんだよ。


「短冊ちゃん、他にどっか心当たりねえの?」


「うーん、今日他に行ったところなんてありましたかね?」


「俺達に聞かれても知るかよ。短冊ちゃんのストーカーとかじゃねえんだからさ」


「………………」


 ん、あれ?

 なんだ?

 短冊ちゃんが、俺の顔をじっと見つめて硬直している。

 俺、なんか変なこと言ったか?

 いや言ってない。そもそも俺が変なことを言うなんてことがあるわけ無い。

 俺は正論を振りかざすのが得意な男なんだ。

 じゃあ、なんで短冊ちゃんは固まっているのか。


「短冊ちゃ――」


 さすがに視線に居心地が悪くなって声を掛けようとした、そのときだった。


「あなた達ですね、風紀を乱している珍妙な四人組とは」


「は?」


 その声が聞こえた第二校舎の方を、反射的に見ると。


「背ぇでかっ!」


 と、俺のリアクションで分かる通り背の高い――厳密には身長172㎝の俺よりも少し低いくらいの、長い黒髪を大きな三つ編みにした綺麗な女子が立っていた。


「第一声がそれですか。見た目通り失礼な人ですね」


「いやいや待て待て。見た目に失礼ってどんなやつなんだよ。そういうあんたこそ失礼じゃねえか。綺麗な顔だからってなに言ってもいいと思うなよ」


「確かに私は綺麗です。が、それとは関係なく、私は言いたいことを好きな時に好きなだけ言います」


「………………」


 なんだろう、まだ二、三言しか会話していないというのに、目の前の綺麗な女子がまともな人間じゃないということが分かる……!!

 こういう輩と相対したときには、まともに取り合っちゃいけないというのが鉄則だったはずだ。


「さ、行こうぜ。輪廻、短冊ちゃん」


 そして俺は歩き出す。

 きっと同じ気持ちだったのだろう、金髪と茶髪の後輩達も黙って俺に付いてくる。

 とりあえずもう体育館の方に用はないということで目指すは第二校舎なので、必然的に黒髪女子の脇を通ることになる。

 目を合わせたらダメだと思った。

 ここはしれっと、さっきの会話は無かったことにして立ち去るべきである。


 だがしかし。


「お待ちなさい。まだ話は終わって居ませんよ」


 その言葉と同時に、横を通り抜けようとした俺を遮るように、か細い腕が差し出された。

 もう既に手遅れらしいことを、俺は悟った。


「い、急いでるんだけど……」


 嘘だが。

 別に短冊ちゃんのパンツを探すのに、そこまで急を要してはいない。


「犬も歩けば棒に当たる」


「はい?」


 黒髪の女子が急にそんなことを言う。

 うん、なにを言いたいのかがまったく分からない。


「急いでいるときこそ遠回りをした方がいい、ということです」


「え、それって『急がば回れ』じゃ?」


「………………」


 まあ、『急がば回れ』でも実際的には状況に即してはいないけど。むしろ、なにかをしている内に災難に遭う、という意味の『犬も歩けば棒に当たる』の方が俺の心境に当てはまっている。


「え、それって『急がば回れ』じゃ?」


 なんか苦い顔で黙りこくっているので、繰り返してやった。


「い、異口同音です!」


「うん、きっと『違う音で同じ意味』っていうことを示したくて同音異義語って言いたいんだと思うんだけど、まあそれだと逆だよね? けど異音同義語っていう言葉はあまり使わないし、普通に同義語か、類義語って言うといいと思うよ。まあ、『犬も歩けば棒に当たる』と『急がば回れ』の意味はまったく違うんだけどね」


「……………………」


「さては君はバカだな?」


「う、うるさいです! 風紀委員の名の元にあなたを戸締まりしてもいいんですよ!?」


「取り締まる、だよな? なんで君はそんな大和撫子みたいな外見なのに日本語が壊滅的なんだよ。っていうか風紀委員? ああ、だからさっき風紀がどうこうって言ってたのか」


 俺がそう言うと、黒髪のバカは険しくしていた顔を急に緩めたかと思うと、今度は余裕のある笑みを見せた。なにこの人怖い。


「そう…………そう私は風紀委員。であれば風紀を乱す悪人になんと言われようとも痛くも痒くもありません。日本語の間違いがなんですか。存在自体が間違っているあなたに比べれば、そんなちょっとした欠点はむしろ可愛い……。そう、私は可愛いんです!」


 いやだから怖えーよ。


「他人の存在否定して自己正当化って、こいつ結構クズいな」


「ですね。先輩に負けず劣らずって感じです」


 短冊ちゃんが俺を貶めながら同調する。

 今俺を貶める必要があるだろうか。

 しかし今は可愛い後輩に構っている場合ではない。目の前のバカをどうにかしなくては。


「可愛い要素はあんまねえよな。めっちゃ綺麗寄りだし。そんでお姉さん、結局なんの用なの?」


 逃げようとしても回り込まれてしまうのが関の山である。いくら軽いとはいえ、音無を背負っていては体勢的に機動力は望めない。

 であれば、さっさと用件を聞いてさっさと退散してもらうのが一番手っ取り早いだろう。


「礼儀のなっていない人ですね。まずは名前を名乗るのが筋というものではないですか?」


 お前には言われたくない。というかだったらまずはお前が名乗れ、と言いたいところだがもういいや。言い返すのも面倒臭い。


「2年E組、天海夕陽だ。茶髪のが星宮短冊で金髪のが羽狩輪廻、そんで背中のこの白いのが音無禊だ。全員1年、クラスは知らん。で、君は?」


「いいでしょう。私は1年F組、神代破魔矢です。風紀委員をしています」


「はいはい、風紀委員の神代さんね。で、なんの用?」


「『はい』は一回」


 何様なんだよ。


「はい……で?」


「風の噂で、『パンツ、パンツ』と連呼しながら女子を引き連れて校内を闊歩する男が居ると聞きました。どう考えても風紀の敵なので成敗に来たのですが、あなたのことでよろしいですよね? 天海さん」


 成敗て。時代劇の観すぎなのかな、この人。


「待て待て。確かに大きく間違ってはいないが、別に連呼した覚えはねえし。ていうか正直に言って、俺達はパンツを探しているだけだ」


「っ! 女子のパンツを剥いで回るつもりですか!?」


 黒髪のバカ改め神代さんは、焦った様子で制服のスカートを押さえた。


「いや剥がねえよ。どんな鬼畜な変態なんだ俺は。そうじゃなくて、短冊ちゃんがパンツを無くしたって言うから、探すのを手伝ってるだけだって」


「…………。えっと、『校内でパンツ宝探しプレイ』ですか?」


「分かった。お前はどうしようもないくらいに精神が歪んでいるらしい。人の話をちゃんと聞け」


「ゆ、歪んでなどいませんっ。これでも私は清浄な巫女なのですから……」


「巫女?」


「ああいえ、こちらの話です……。しかし天海さん、あなたの話は信じかねます。パンツを無くすなどということがあり得ますか?」


「俺もそう思ったが、本人がそう言うんだから仕方ないだろ」


 俺の言葉を受けて、神代さんは短冊ちゃんに目を向ける。


「星宮さん、でしたね。彼の話は本当ですか?」


「え? ああ、うん。無くしちゃって……」


「まさか、本当にそんなことが……。ん? ということは今、星宮さんは……」


「ノーパンだ」


 やはり皆そこを気にするんだな。


「こ、これは由々しき事態ですね。ノーパンの女子が校内を歩き回るなど、風紀の乱れここに極まれり、です……。分かりました、風紀委員の名において、その失せ物探しに助力しましょう」


「え?」


「なんですか、間の抜けた声を出して」


「付いてくるの?」


「そう言っているでしょう? 理解力の貧しい人ですね」


「間違いではないかもしれねえけど、そこは『乏しい』が良いと思うよ」


 げ、睨まれた。


「さ、行きましょう!」


 と、別に目的地も無いというのに、神代破魔矢は身を翻し第二校舎に向けて歩きだした。

 え、マジで? あの人も一緒にパンツ探してくれるの?

 いやー……。


 絶対邪魔だろ。


「とりあえず、行くかー……」


 後ろの後輩達にそう言うと、彼女らも複雑な表情で頷いた。

 こうして、パンツ捜索隊に新たなメンバーが加わったのだった。


 今背中で眠っていられる音無が、本当に羨ましい。




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