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保健室の天使

 それはおよそ二週間前の、ようやく陽気をはらんだ春風が女子たちのスカートを揺らし始めた、希望への予兆を感じさせるようなそんな日だった。


 この日、真理探究部の部長に就任することになる俺こと天海夕陽は、幼馴染みの風原憩と話す内に半ば衝動的に部活動の発足を決意した。


 見切り発車とも言える。

 いや、見切り発車としか言えない。


 何故なら部活動の内容も決まっていなければ、俺以外のメンバーは一人も決まっていなかったのだから。


「まあ……部活の内容はいくらでも後付け出来るからいいとして、メンバーを集めなきゃだよな……」


「いやいや夕ちゃん、何の部活か分からない部活に入る人なんていないんじゃないかな」


 休み時間、俺が自分の席で呟いた独り言に、お節介にも“地味で可愛い”で有名な幼馴染みの憩ちゃんがごもっともな意見を差し挟んでくる。


「憩、つまらないことを言うんじゃない。何の部活か分からないからこそロマンがあるんだろうが。きっとそう思って『是非とも入りたい!』って言ってくるやつが居るはずだ」


「うーん、可能性は否定できないけど、居たとしても十中八九おかしな人だと思うな」


 憩のやつ、正論を言わせたら右に出るやつは居ないんじゃなかろうか。

 しかしこいつ、わざわざ休み時間に俺の教室まで来てこうやって一緒に頭を捻ってくれてるのだから、やはり持つべきものは幼馴染みである。


「まあいいじゃん。変な奴らの方が、いっそ楽しくなる気もするし」


「うん、夕ちゃんがいいなら、別に私はいいんだけどさ」


 そう言いながら苦笑する憩。

 幼馴染み故にこんなに普通に話してはいるが、今や憩は学年に留まらず学内の有名人なので、一目置いていたり高嶺の花のように扱われることも多い。

 現に今も、俺のクラスメイトの数人はチラチラと憩を見ているようで、時折視線を感じる。主に男子の。

 とても華やかというわけではないが憩はいかにも清純なお嬢様といった雰囲気を持っていて、それでいて実は綺麗な顔をしている。有名になってきてからはそのことに気付く人も多くなってきて、今では月に3人くらいには愛の告白をされていたりするらしい。

 とはいえ憩に恋愛する気はないようで、アタックした男子は可哀想なことに漏れなく撃沈しているらしいが。

 なので、きっとこうして普通に会話が出来る間柄の俺はいろんなやつから羨ましく思われているはず……と思えば、正直悪い気はしない。

 まあ俺も別段、彼女とか作る気はないけどな。

 と、この時は思っていた。


「しかし、今更部活作って入ってくれるやつなんているかね? 大体のやつはもうどっかしら入ってるやつか、部活動に興味のないやつかのどっちかだよなぁ」


「何言ってるの夕ちゃん」


俺が頭を抱えていると、憩がバカを見るような目で俺のことを見てきたので、俺はバカっぽく首を傾げた。


「1年生は今から部活動決めるんだから、1年生の子たちを勧誘すればいいじゃん」


「ああ! なるほど!」


 すっかり失念していた。そうか、1年生はまだ入学してきたばっかりだ。

 だとすれば、どの部活動に属するか決めてない人もそれなりにいるはず。


「さっすが憩、俺の右腕!」


「え、夕ちゃんの右腕? 右腕かぁ、右腕ねぇ……なんか変なことさせられそうで嫌だなあ」


 と、憩は目線を逸らし頬を赤くする。

 何を想像したのやら。


「お前こそ変なことを考えるんじゃない。想像力が豊かすぎるわ」


「もう、そんな褒めても何もでないよ」


 一転して憩はめちゃめちゃ嬉しそうだった。

 こいつには皮肉も嫌味も通じないんだよなぁ。捻くれてるのか純粋なのか、どっちなんだろ。


 とりあえず何はともあれ、ターゲットは1年生に絞ることにした。


 そして授業を挟んで次の休み時間。

 俺は一年生の教室のある三階に来ていた、のだが……。


「なんかめっちゃ見られてるな……」


 非常に居心地が悪い。

 廊下を行く下級生たちがほぼ100%の割合で俺をチラ見していく。

 いやまあ、気持ちはわかるけどさぁ……。

 一年生と二年生は同じ第二校舎に教室を与えられているが、二年生は一階と二階、一年生は三階と四階にそれぞれ詰め込まれているわけで、ということは構造上逆はあっても物理的に二年生が一年生の階に出没する可能性は極めて低い。

 そりゃあ見るわなぁ……俺でも逆の立場だったらチラ見どころかガン見する。


「うーん、これでうろうろしてたら不審だろうか」


 そう考えた俺は、とりあえず手近にあった保健室のドアを開けて身体を滑り込ませた。

 ふぅ、と一息つく。


 保健室の中は物音がしない。

 保健の先生は居ないようだった。


「ま、ちょうどいいか。休憩がてら一人作戦会議といこう」


 一年生の頃にはたまに利用していた保健室だったが、二年になってから足を踏み入れるのは初めてだった。

 なんか、保健室って校舎の中でも隔絶されているような気がする。

 空気が違う。時間の流れ方が違う。匂いが違う。

 何故か学校の保健室というのは、どこか居心地が良いように出来ている気がする。

 この学校は少し特殊なところがあり、先進的な試みとして一つの学校内に二つの保健室が設けられている。その理由は主に二つある。


 一つは、単純に生徒数の多さである。単純計算でこの学校には1000人弱の生徒が通っており、そうなれば保健室の利用者も自ずと増加していく。すると施設の容量として一つの保健室では足りない為、保健室が二つあるのだ。


しかしであれば、一つの保健室を広く作ればいい話じゃないか、と思うだろうがこれは間抜けな話、校舎が完成し実際に生徒が入ってからそのことに気づいた為、後に第二保健室が緊急的に増設された。これが保健室が二つ存在する二つ目の理由だ。


 ちなみに第一保健室は第一校舎の一階、そして第二保健室はここ、一年生の教室が詰まっている第二校舎の三階にそれぞれ位置している。第一保健室の隣に第二保健室を作らなかったのは単にスペースがなかった為……ではないかと俺は踏んでいるが、どうやら広い校内で緊急の怪我などに広く対応できるようにあえて離れた位置に作ったらしい。

 というのは、やたら学園の事情に精通している憩に聞いた話だ。


 ホントにまあ、知識も身体能力も規格外のスペックを持ったやつだな、わが幼馴染みながら。

 そんなことを改めて思いながら奥へと足を動かす。

 やはり人気はない。俺はとりあえず腰を落ち着けようと、一番奥にあるベッドに腰を下ろした。

 別に座るのであれば椅子も用意はされていたが、今はなんとなくベッドのクッション性が恋しかった。


「ふう、とはいえ、早くしないと休み時間が終わっちまうな」


 授業と授業の間にある休み時間はお昼休みを除いては10分しかないので、もたもたしてはいられない。今は二時間目と三時間目の間、出来れば今日中に部活動のメンバーを集めたいところなのだが、移動教室もちらほら入っているので自由に過ごせる休み時間は今を除けばあと1回とお昼休みしかない。

 いや、実際のところ今日にこだわる必要もないのだが、それは自分自身の気持ちの問題で、明日になったらこの熱が冷めている可能性を考えると(我ながらそういう人間だと自覚しているので)今日動くしかない。


「しかし、さすがに見切り発車過ぎたかなぁ……」


 静かな部屋に自分の声だけが響き、より一層部屋の外との隔絶感が増す。

 一年生をターゲットにする、ということでとりあえず一年生の教室がある階に来てはみたが、しかし別に一年生に知り合いもいないし、急に上級生が話し掛けてきたら普通の下級生はビビるか不審がるかの二択だろ。俺ならそうだが、偏見か?

 ていうか、部活の勧誘ってどうやるんだ?

 他の部の方法が分からない。

 去年、俺が入学した時にはどんな勧誘をされたのだろうか。

 ……………………いや。

 俺、勧誘されてねえな……。

 そんなバカな、俺ほどの人材が何故どの部の目にも留まらないのだろうか、と思うほど自惚れちゃあいないが。

 そういえば一年前の俺は部活なんて全然興味がなかったから、意識的に新入生に声を掛けている上級生を避けていたような気がする。

 これが記憶の改竄じゃないことを祈るばかりだな。

 しかしそれでも、部活の勧誘ポスターは見たことがあるが、俺が今からあれを作ろうとしたら今日が終わる。


「うーん、やっぱ当たって砕けるより他はない、か」


 と、結局ろくな解決策も見つからず、じゃあ何の為に保健室に寄ったんだと自責の念を浮かべようとしたその時だった。


「ひっ!?」


 その情けない声は俺のものだ。相変わらず静かなままの保健室に盛大に響く。

 人気もやはりない、というのに。

 “何か”が俺の腰にしがみついていた。

 反射的に視線を向けると、それは人の腕のようだった。しかしその袖から出る手は驚くほどに白い。


「ゆ、幽霊!?」


 恐怖はあったが、しかし正体を不明にしたままの方がもっと怖い。

 俺は恐る恐る、後ろを振り返り――――。


「すー……すー……」


 そこに天使を発見した。


「なんだ、この子……」


 最初はやはり人間じゃないと思った。

 しかし視覚から伝わってくる肌の質感も、俺の腰に抱きついているその腕の温もりも、静かな息遣いも。

 彼女がこの世界に存在していると誇示していた。

 儚げで、触れた瞬間この世から霧散してしまいそうな、一見幻じゃないかと目を疑うほどに、その少女は。


「白い……」


 肌も、髪も、閉じている瞼から生える長い睫毛すら、綺麗に白かった。

 俺のつぶやきがその小さな耳に届いたのか、髪も肌も透き通るような白色の少女が身じろぎをする。

 そして、ゆっくりとその目の中の琥珀色を俺に向け。


「だれ?」


 と言った。




 * * * * * 




 俺がドギマギしながら自己紹介をすると、その白い少女も「おとなし、みそぎ」と名乗った。

 何故だかその少女は俺と話している間も俺の腰に抱きついたままで、妹以外の女子にそんなスキンシップを取られたことのない俺は、かなり戸惑っていたが、上級生の維持もあってポーカーフェイスを貫いていた。

 話を聞くにどうやらこの音無なる女子は俺が入ってくるよりも先にこのベッドで爆睡していたようで、俺が気付かなかっただけのようだ。

 単純に存在感が希薄なのかもしれないが、白すぎてベッドのシーツと同化していた、というのもあるかもしれない。或いは俺がどうかしていたのか。


「それにしても、お前めっちゃ白いな。ハーフとか?」


「ううん。あるびの、だから」


 ぎゅう、と俺を抱き締める力が何故か強まった。

 というか、俺はずっとこの振り返った姿勢で話し続けなければならないのだろうか。

 どこかで体勢を整えるか。


「あるびの? なんだそれ」


「びょうき。せんてんせい、はくひしょう」


 びょうき。

 病気、と言った。

 この少女は透き通るような外見に似合う透き通るような声がとても魅力的であるが、どうしてか声量がかなり細い。それでも聞き取れるくらいの重みを、その言葉は持っていた。


「なんか、ごめん」


「だいじょぶ、きにしてない。べつに……いやでもないから」


 その時は病気を嫌がっていないなんて変わっているな、と思ったが、その日家に帰ってから先天性白皮症なる遺伝子疾患について調べた俺は少しだけ納得した。


 先天性白皮症の個体を、アルビノと呼称するらしい。

 生まれつきメラニンが欠乏しているらしく、それにより視覚障害が起きたり、日光に弱く日焼けが火傷のようになったり、皮膚がんのリスクも高いらしい。

 それを知るとやはり、生きづらいのでは? と俺などは思ってしまうが、逆に光さえ遮断すれば、そこまで不便ではないというようなことを書いている記事も見つけ、そういうものなのか、と思う。

 生まれた時からそうなのであれば、それがその人の普通になるのかもしれない。

 後は周囲の目や認識を、本人が気にするかどうかか。


 そう思うのは、この日の夜のことだが。


「で? どっか調子悪いのか?」


 保健室で寝てる人に対して間抜けな質問だと、口に出してから思った、のだが。


「うん、ねむいの」


 同じくらい間の抜けた答えが返ってきて少し安心する。


「そうかそうか、眠いのは確かに辛いな。ぐっすり寝た方がいい。それじゃ、俺はそろそろ行かないと――――」


 結局体勢を変えるタイミングも掴めずそろそろ辛くなってきたので、そう言って早々に立ち去ろうかと思ったのだが、しかし音無の腕は依然俺の身体に巻きついたままで身動きが取れない。


「あのさ、音無。離してくれないかな?」


「なんで?」


「いや、そろそろ戻らないと授業が……」


 別にそんな真面目な性格ではないが、多分この時の俺は後輩女子と保健室のベッドの上で二人きりというシチュエーションにビビッていたのだと思う。


「おねがいが、ある」


「え、お願い?」


 突拍子もなさ過ぎて、俺の話をガン無視されたことすら気にならないレベルだ。

 俺は相変わらずきつい姿勢で、寝そべって俺に抱きついているから実は同じくらい辛いんじゃないかと思われる音無と見つめあう。

 見れば見るほど、幻想的な少女だ。

 最初に天使と見間違えたのは、むしろ間違いじゃなかったのではないかと思う。

 その何にも汚れていない澄んだ目を見ていると、どんなお願いでも聞いてあげたくなってくる。


「いっしょに、ねて?」


「ごめん無理」


 俺はその魅力的過ぎるお願いを、即断即決というより半ば反射的に断った。


「おねがい」


「いやしかし、まずいだろ……。音無、自分が何を言ってるのか分かってるのか」


「わかってる。あなたが、いやらしいことをかんがえてることも、わかる」


「それは分かってほしくなかった……」


 でも不可抗力だろ、俺みたいな男子高校生にとって女子と同衾するっていうのは自動的にその先を妄想してしまうレアなイベントなのだから。


「だから、いいよ。わたしにえっちなこと、しても」


「はあ!?」


 何言ってんだこの女子は!


「そのあとでいっしょに、ねむってくれるなら、それでいいよ」


 待て、待て待て待て待て待て待て待て待て待て。


「落ち着け俺、そして落ち着け音無」


「ん?」


 小首を傾げる姿はそりゃあもう可愛いですけれども!


「音無、お前経験あるのか?」


「けいけんって、なんの?」


「何のって……それは……」


「あ、せいこうい?」


「俺がどうやってぼやっと表現するかで悩んでいるのになんてストレートな表現を!」


「だめだった?」


 本当に毒気なくそう聞いてくる音無を見ていると、こちらまで毒気を抜かれる気がする。


「ま、まあいいよ……で?」


 俺が返答を促すと、音無は小さく首を横に振りながら。


「ううん、ないよ。あなたは?」


「勿論俺もない」


 勿論と言えてしまうのが悲しかった。


「じゃあ、ちょうどいいね」


「何も丁度良くないよ!?」


 尚も首を傾げる音無に、俺は意を決してお説教をすることにした。


「あのなぁ音無、お前の考え方は非常に危うい。初対面なのに俺が心配になるレベルだ」


「あやうい?」


「そうだ。男に対する認識が甘すぎる。男はみんな狼って、聞いたことないか? いや返事はいいよ。とりあえず世の中の男は常に女の子の貞操を狙っているんだ。まあ言い過ぎかもしれないけど、セキュリティとしてはそれくらいの意識を持っておくに越したことはない。今ここに来たのがチキンの俺だから良かったが、他のやつだったらお前は今頃美味しくいただかれている可能性すらあるんだぞ」


 後輩の女子にこんなこと言いたくはないが、これも音無の為だ。

 と、俺がこれほどまで熱弁しているにも関わらず、音無は今一つ納得いっていないようだった。


「わたし」


「ん?」


「あなたじゃなきゃ、こんなおねがい、してない」


「へ?」


 え、ん?

 それは、どういうことだ?

 えーと、俺じゃなかったら、一緒に寝ようって言ってないってこと?

 つまり、俺だから一緒に寝たい、っていうことでいいのか?

 ふむ。

 なるほど。

 え、俺今、愛の告白されてる?


「お前、もしかして俺のこと――――」


 好きなのか?


「うん、すごくねごこちよさそうだな、って」


 微笑みながら音無は言う。


 え?


 寝心地?


「わたし、しんぐにはこだわるほう」


 いや知らねえよ!

 俺は人間だぞ、いつから寝具に生まれ変わったんだ、いやていうかまだ死んですらないし!


「えーと、音無。つまりお前は、俺を抱き枕的に扱いたいから一緒に寝たい、っていうことか?」


「ん、さいしょから、そういってる」


 言ってねえよ!

 と叫びたくはあったが、本能的に音無には優しくしなきゃダメな気がした。

 しかし、なんか情けなくなってきた。

 音無は安眠を求めて俺を誘ったというのに、後輩の女子に対して卑しい気持ちを持つなど先輩としてあるまじきことではなかろうか。

 それなら俺は、音無のお願いを聞き入れるべきか。

 聞き入れて大丈夫だろうか。


「音無、なんで俺と眠りたいと思うんだ?」


「においがいい、あとだきごこちがしゅういつ」


 初めての褒められ方だが、悪い気はしない。

 うーん、そうだなぁ、出来ることなら可愛い後輩のお願いを聞いてやりたいところなのだが。

 俺が俺を信じられない。ここで女の子を泣かせるようなことがあったら、何のためにわざわざ一年生の階まで来たというんだ――――あ。

 妙案を、思いついた。

 むしろこれは、チャンスなのかもしれない。


「音無、お前入る部活は決めてるか?」


「きゅうに、なに?」


「いいから」


「ううん……はいるつもり、ない」


「そうか、よかった! じゃあ、俺と部活しようぜ!」


「はいるつもり、ないっていった」


「分かる分かる、俺も去年までそう思ってたからな。でもな音無、俺は気付いたんだ。部活をやらないで後悔するなら、やって後悔した方がいいって」


 我ながら引用にも程があるなぁ。


「うんどうは、むり……」


 眠そうな顔を曇らせて、音無が言う。

 しかしそれは俺にとって何の問題でもない。


「おーけーおーけー、そもそも俺も運動部を作る気はなかったしな」


「なんの、ぶかつ?」


「さあ、まだ決めてない。でも先のことは分からない方が面白いだろ?」


「ときと、ばあいによる」


 そりゃ真理だわ。


「とにかくまあ、交換条件というわけじゃあないけど、俺が創設する部活に入ってくれるっていうなら、お前の居眠りにちょこっと付き合ってやってもいい」


 めちゃめちゃ上からの物言いになってしまったけれど、俺の方が年上だし、これくらいが丁度いいだろう。


「ん、わかった」


「え、マジで?」


 音無はこくこくと、可愛く頷く。


「わたしはぶかつにはいるから、あなたはベッドにはいって」


「すげえ台詞だな……もう少しいかがわしくない感じでお願いしたいんだけど」


「わたしと、ねて」


「なお悪いわ……」


 とりあえずは契約成立だ。

 これで俺の望みも、音無の望みも達成出来るし、仕事の依頼と考えれば俺が狼化する(狼男か!)リスクも減る。俺はこれでも約束は守りたいタイプの人間なんだよ。


「それじゃあ……お邪魔するぞ。あ、起きたらでいいから、部活を発足する時に提出する紙に、名前書いてくれよな」


「わかった」


 会話はそこまでで、俺は音無に導かれて靴を脱いでベッドに入った。

 最初は背徳感を感じたものの、不思議と音無の寝顔を見ている内にそんなやましい気持ちは溶けるように消えてなくなった。

 そういえば昔はよく木陰とこうやって寝たよな、なんて少しノスタルジーに浸りながら壁に掛けられた時計を見てみると。


  三時間目の開始から、10分が経過しようとしていた――――。




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