最近のアイドル業界の話ついでの状況確認
朝、星宮短冊は確かにパンツを穿いたらしい。
しかし、何故そうと言い切れるのか。
そんな当然の疑問をもった俺に、短冊ちゃんはこう言った。
「私、これでもパンツにはこだわりを持ってるんですよ」
「うん、つまり?」
「朝起きて、その日穿くパンツを決めるところから、私の一日は始まるんです。それがなきゃ一日は始まらないんです」
「いや、別に始まるだろ。っていうか始まってるだろ、既に」
「心持ちの問題なんですっ! その日の気分に合ったパンツを穿かないとこう、変なモヤモヤ感がずっと私の心を支配するんですよ。だからノーパンなんて言語道断なんです!」
「はあ、なるほどね……。あの、ちょっと気になったから聞くんだけどさ、寝てるときはどうしてんの」
「あ、ノーブラノーパンです」
図らずもブラの情報まで手に入ってしまった。
「先輩、今想像しました?」
「し、してない!」
「いや、別にいいんですけど。どうせアイドルなんて皆の夜のお供ですし」
「あ、そうなの? じゃあしたした。めっちゃした」
「え? 先輩も私を夜のお供に……?」
「違げーよ! ノーブラノーパンの想像をだよ! そのリアルに引いてる感じ、マジでやめてくれないかな……結構傷付く……。っていうか、もう少しファンを信じてやれよな。真っ直ぐな目で応援してくれてるやつだっているんだろうし」
「どうかな? 他の子のファンはともかく、私のファンの大半は私を夜のお供にしてると思うけどね」
「なんでそう思うんだよ」
「え、だって私がそうしてって言ってるから」
「痴女じゃねーか!?」
「今更ですか、先輩。可愛い後輩がアイドルやってるんですから、もう少し興味を持ってくださいよ。最近業界で話題の痴女系アイドルって、私のことなんですよ?」
「いやごめん、マジで全然知らない……。ていうか、最近のアイドル界ってそんな歪んでるの?」
「いえいえ、逆ですよ、逆。王道のアイドルが人気を席巻してるんで、ウチの事務所は奇をてらってあえて邪道でいってるんです。私の所属してるグループは五人組なんですけど、他の子はヤンデレに女王様にコミュ障にドM、って感じです」
「カオスすぎる……。最近のアイドルって大変なんだな……」
「いや、皆あれで結構楽しんでますよ? ほとんど素ですし」
「へー…………じゃあ、お前も素で痴女ってこと?」
「あ、誤解が無いように言っておきますけど、私ただの痴女じゃないですからね?」
「じゃあどんな痴女なんだよ……」
「私は処痴女で売ってるんです」
「しょちじょ? なんだそれ?」
「処女で痴女ってことです。『経験はないけど知識はあります。処女で痴女の15歳、星河みるくです。夜のお供に私をどうぞ♪』っていうのが私のキャッチフレーズです」
「うん……なんか、迷走してね? ていうか、『星河みるく』って?」
「あ、芸名です。私の」
「あ、そう…………」
それ以上、言葉は出てこなかった。
「あの、師匠達はなんの話をしているのでしょうか?」
良い間で、輪廻が当然の疑問を差し挟んでくる。
「お前は本当に出来た弟子だなー。俺は感動すら覚えるよ」
隠すことない本音である。
輪廻のおかげで軌道修正が出来そうだった。
「じゃあ本題に戻るけど、とりあえず朝、短冊ちゃんはパンツを穿いたんだな?」
「うん、穿きました、絶対」
「色は?」
「あの、それ大事なことですか?」
「めっちゃ大事だ」
「……パステルピンクです」
「なるほど……悪くはないな。で、どこで無くなったんだ?」
「それが分からないから困ってるんです!」
「まあ……そうだよな。じゃあ、どこで無いことに気付いたんだ?」
「ついさっき、自分の教室からここに来る途中です」
「うーん、となると可能性としては朝からつい今までの間ってことか……。範囲が広いな。今日移動教室は?」
「四時間目が体育だったので体育館に。後は六時間目が科学だったので、隣の第一科学室に」
「ふむ……ん、体育? 体育ってことは、そこで一回着替えたよな? そんときパンツは?」
「あ……ありましたね」
「よし、これでだいぶ時間が狭まったな」
「あの先輩、もしかして探してくれるんですか? 私のパンツ」
「ん? そのつもりで話してるんじゃねえの? だからパンツの色とか聞いたんだけど」
探し物をするならその対象物の特徴を知らなきゃいけないからな。まあ、半分は興味があったからだけど。
「いや、そうですけど……なんか最初乗り気じゃなかったんで……」
「乗り気じゃなかったっていうか、信じてなかっただけだ。とりあえず信じることにしたから、探すだけ探してやるよ。真理探究だ」
「先輩……」
「まあ、これが最初のちゃんとした活動なんて、泣けるけどな……」
輪廻が、項垂れる俺の手を握ってくれる。
「師匠、お気を確かに。真理に大きいも小さいもありません。無論この輪廻もお供します!」
「輪廻……」
確かな師弟の絆が、そこにはあった。
「先輩、羽狩ちゃんありがとう。後でちゃんとお礼はするから」
短冊ちゃんは結構飄々としているから、ここでそのお礼を期待しすぎると後でがっかりする羽目になりかねないなー、と思いながら。
「さて、そうと決まれば足で捜査だ」
俺達は真理探究部設立後初の、実地調査に繰り出すことにした。