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失恋(藤ちゃん)

 もっともらしく青春を語ってみたところで、俺の学生生活には青春の『せ』の字も無かったわけで、だからそれは想像というか、妄想でしかないことは分かっている。

 もちろんまだ学生の身ではあるので、これから青春らしい青春をするという可能性は大いにあると思いたいが、しかし現実的に考えれば数多いる学生諸君の内のどれ程が、青春を謳歌するというのだろうか。


 というか、そもそも。



 青春て、なんだ?



 青い春、と書いて青春。

 それは分かる。

 いや待て、何が分かるんだ。

 青い春ってなんだ。

 大体、季節に色なんかあるものか。

 まあ比喩表現なのかもしれないけど。


 言葉の意味は字を見れば分かる、はずだ。

 しかし、こと『青春』という熟語に関して、俺は理解を示すことができないでいた。

 悶々としている。


 なんとなくであるが、俺には青春=学生という安易なイメージがある。きっとこれはマンガとか学園もののドラマから植え付けられたイメージだろう。

 逆説的に、社会人に青春というイメージは薄い。

 うーん。

 その差は、なんだ?

 社会に出ると、しがらみが多くなるからか?

 まあそれだって勝手なイメージでしかないだろうけど。


 こんなことを考えることに、意味なんてない。

 しかし意味のないことを考えることに、意味がある気がする。

 だから俺は――人間は考えることをやめられないんだと思う。

 ただ、一人で考えていても埒が明かないのも事実だ。

 もっともこの設問に明確な答えがあるとは思えないが、それでもある程度の落としどころを見つけて、それを暫定的な解答にしたいのだ。

 そうやって人間は、生きてくものじゃないか。


「輪廻」


 雪禰初夏が去って、昼食を無事に完食した俺とその弟子は、特に何をするでもなく、というよりできることがなく、ぼんやりと放課後までの時間を過ごしていた。

 俺と同じように、輪廻もなにか考え事をしていたようで、声を掛ければその小さな身体をピクリと震わせた。


「な、なんでしょうか?」


「いや、まあ大した用じゃないんだけどさ」


 本当に大した用じゃないので、一応前置きをしておく。


「青春て、なんだと思う?」


 はっきり言って、普通のヤツにこんな話は振れない。別に輪廻を変人と思ってるわけではないが、輪廻は感性が特殊だというのは確かだ。そして常に何かしらの真理を求めている。

 だからこそ、こんな取りとめのない話をするのに、輪廻はうってつけなのだ。

 クラスメイトにこんな話をすれば、真面目に取り合ってもらえないか、面倒くさいと思われるのが関の山、最悪は頭がおかしいと思われる可能性だってある。

 俺だって一応人間社会にはある程度馴染んでいたいので、そんなリスクはおかしたくない。悲しいことだが、他人の思想を無条件に認められる人間は、そう多くないのだ。


「青春、ですか。これはまた、難しいテーマですね」


「そうだよな」


「単純なイメージだと、私は部活動を連想します。例えば野球なら、チームで甲子園を目指すとか、ですか?」


「ああ、確かに」


「スポーツに限らずとも、他の誰かと一緒に何かをする、ということが大事なのではないでしょうか」


「他の誰かと……一人じゃダメってことか?」


「ダメというか、これはなんとなく、それこそ私の思い込みかもしれませんが、人の心の揺らぎ、みたいなものが、青春にはあると思います」


「心の揺らぎ、か。なるほどな、確かに……人は一人じゃ、そうそう心を動かされない、かもしれない」


 例えば本を読むとか、映画とかを観れば心が動くことだってあるだろう。しかしそれを青春と呼ぶ人は居ないだろう。


「恋愛というのも、そうではないですか? 恋愛にも青春のイメージがありますが、それだって一人でできることではありません」


「そう、だな。恋愛は、青春かもしれない。心が揺らぐ。あの感覚は、青春と呼んでもいいのかもな」


「恋をしたことが、あるんですか?」


「あー……いや、まあ過去のことだ」


 今更語ることではない。

 もう過ぎたことで、終わったことだ。

 後悔しかなかったけれど。


「少し、羨ましいです」


 輪廻が目を逸らし、うつむきがちに言う。


「え?」


「私は恋というものをしたことが、ないですから。知ってみたいと思います」


「そうか、まあ気持ちは分からないでもない」


 好奇心の塊である輪廻なら、そうだろう。

 未知を既知に変えたいだろう。

 けど。


「けど、知らない方がいいことも、やっぱりこの世界にはあると思うぞ」


 そう言うと輪廻は顔を上げ、再び俺の目をまっすぐに見た。その目はやはり、真理を求めていた。

 だから答えてやる。

 輪廻が俺の問いに答えてくれたように、俺は輪廻の問いに答えたい。


「恋愛は楽しいけど、同時に、苦しいことも哀しいこともあるからな」


 輪廻の瞳が揺れた気がした。

 しかしそれも数瞬のことで、またすぐに揺らぎのない目に戻った。


「それでも」


 と、輪廻は言う。


「私は知りたいです。良いことであれ悪いことであれ。それが真理なのであれば、たとえ私が傷つこうとも」


 勇ましい。

 そして、危うい。

 だから、この後輩は放っておけないんだ。


「そっか。まあ焦るな。恋はしようとしてするもんじゃないからな。恋は、落ちるもんだ」


 我ながらくさいことを言う、と思った。

 そしてそれからはまた、お互いに無言で思考を始める。

 輪廻はきっと、恋愛について思慮を巡らせているのだろう。

 俺はというと。


 雪禰初夏のことを考えていた。




 * * * * * 




 何度かチャイムが聞こえたと思ったら、いつの間にか放課後になっていたらしく、少し前まで静かだった校舎の外が喧騒に包まれていた。

 中学は部活動が強制参加であるから、すぐさま下校する生徒は居ない。だから聞こえてくる音は恐らく外で活動している運動部のものだろう。


 校舎裏を少し移動して校庭を覗いてみれば、やはり陸上部らしき生徒達が走っているし、他にもサッカー部や野球部らしき集団も見える。校庭の外れにあるテニスコートでは、やはりテニス部が活動しているようだ。


 さっきの青春の話を思い出し、改めて見回してみるが、こうして実際にその光景を観察してみても、これが青春なのだという実感は湧かない。

 客観的に見れば、『大変そうだなぁ』という他人事な感想しか浮かばない。

 これはやっぱり、自分が“その集団”の中に居ないからだろうか?

 選手や、あるいはマネージャーである彼ら彼女らは、青春を実感しているのだろうか。


「あ、いたいた。おーい先輩、羽狩ちゃん!」


 後ろから声を掛けられ、思考を中断する。

 振り向くと、そこには短冊ちゃんと、その後ろに神代さん――ではなく、見知らぬ少女の姿があった。

 その少女は分かりやすく怪訝な表情をしていた。


「二年生の男子と、一年生の女子? 星宮さん、私に会わせたい人ってこの人達なの?」


 ハーフツインの髪型は可愛らしく、背も輪廻に負けず劣らず小さいが、気は強そうで態度はなんかでかそうだ。


「ああ、うん、そうです。っと、もう敬語使わなくてもいいか。ちょっとその前に、説明するね」


 少女は首を傾げる。

 それもそうだろう。俺だって状況が分からない。


「私、一つ恋藤先輩……じゃなくって、恋藤ちゃんに嘘ついてた」



「は?」



 恋藤、という名字らしい(短冊ちゃんが『ちゃん付け』するのは基本的に名字なので)少女は凛々しい眉毛をひそめる。



「私達、恋藤ちゃんの後輩じゃないんだ」



 ああ、そういうことか。

 制服のネクタイ、短冊ちゃんや輪廻、神代さんだとリボンになるが、そのカラーを見れば確かに、俺達は恋藤という少女よりも下の学年になる。

 俺の学年は赤、一つ下の輪廻達の学年は青、そしてその下、木陰達の学年は白だが、このカラーは学年と一緒にずれていく為、基本的に生徒は3年間同じ色のネクタイやリボンをすることになっている。

 だから現時点で言えば、木陰達三年生は白、二年生が赤、一年生が青になっている。


 恋藤という少女は白いリボン――つまりは木陰と同じ学年だった。


「へ? な、なに言ってるのよ! あなた達二年生と一年生じゃない。私はちっちゃいけど、これでも三年生なんだからね!」


 ほんのり自虐的なことを言いつつも、胸を張っている姿は、どこか悲しい。

 きっと背が低いのがコンプレックスなのだろう。


「んー、ごめんね。これコスプレなんだ。私達、本当は高校生なの」


 コスプレて。


「こ、高校生!? ど、どういうこと?」


 そりゃあ驚くだろうな。

 中学校の校舎裏にコスプレした高校生が居たら。

 いや俺は別にコスプレだとは思ってなかったが。


「えっと、それはこの人が説明するね」


 と、短冊ちゃんが言う。

 この人って誰だろうか? と思い短冊ちゃんの方に目を向けると、なぜか目が合った。


「ほら先輩、早く!」


「って俺かよ!?」


 なんで俺が短冊ちゃんが連れてきた謎の少女に事情を説明しなきゃならんのだ。というかまず俺に説明をしろ。何をどう説明したらいいかを、説明してくれ。そして紹介をしてくれよ。

 という意味を含ませジト目で短冊ちゃんを見つめてやるが、彼女は微笑みながら『なんですか先輩?』と言わんばかりに首を傾げるだけだった。

 なるほど。

 要するに丸投げか。


「あ、別に丸投げしてるわけじゃないですからね。こういうのはやっぱり首謀者である先輩から説明した方がいいかと思いまして」


「なぁ首謀者っていう言い方はどうかな?」


 俺は犯罪者か。組織のリーダーか。

 ………………。

 いや不法侵入者で真理探求部の部長じゃん!!

 合ってるのは合ってるのか……。


「ひいっ! も、もしかして私を誘拐する気じゃ!?」


「ああ、ほらもう! 怖がっちゃったじゃんか。待ってくれお嬢ちゃん。俺達は怪しいものじゃ……いや怪しいものではあるんだが……悪いものじゃない」


「し、信じられますか! どこの誰とも知れない貴方のことなんて!」


 気が強そうな癖にビビリなのか、この少女は。ビクビク震えてるのが小動物みたいでちょっと可愛いな。なんて和んでる場合か。


「あの、自己紹介した方がいいのでは?」


 傍らの輪廻から的確なアドバイス。

 そうだな、短冊ちゃんが俺達の紹介を華麗に省略してくれやがったので、それは必要なことだろう。

 信用してもらうには、素性を明かさなければ。


「えっと、恋藤さん、だっけ?」


「え、ええ」


「よく聞いてくれ。俺は命帝大学附属高校二年の天海夕陽だ」


 とりあえず立場と名前を明かした。

 えっと、あとは何を言えばいいんだ?

 普段こんなちゃんと自己紹介する機会なんて滅多にないからな……。

 趣味とか、特技とか?

 いや面接じゃないんだから。

 なんて、自分で自分にツッコんでる場合じゃないか。


「えーっと……」


 残念ながら、これ以上俺には人に語れるプロフィールが無いらしい。

 なんて浅い人間性。

 なんて薄っぺらい人生だったのだろうか。

 そんな、ある種の絶望を抱いた俺に。


「天海、夕陽さん?」


 あろうことか、恋藤という少女の方から声を掛けてきた。


「天海、夕陽……っ、もしかして! 貴方は木陰のお兄さん!?」


 そうか、そう言えば話が早かったのか。

 すっかり失念していた。


 天海木陰の兄。これこそが、俺が一番誇れる自慢のプロフィールだったのだから。


「君は木陰を知ってるのか?」


「そりゃあ! 私と木陰は親友だもん! で、木陰のお兄さんがどうしてここに? あ、いや……そんなことはどうでもよくって、木陰は? 今どうしてるんですか!?」



 すごい剣幕ではあるものの、口調が敬語に切り替わったところをみると、どうやら高校生ということは信用してもらえたらしい。

 しかし、親友という彼女も、木陰が学校に行かない理由を知らないのか。いや、俺だって、それこそ首謀者である雪禰から聞くまで知らなかったのだから、木陰はきっと誰にも言ってないのだろう。


「木陰は元気だよ。ただ学校には行こうとしない。その理由を探る為に俺達はここに来たんだ。君は――」


 何か心当たりがあるか、と問おうと思ってそう聞かなかったのは、俺の中で繋がったものがあったからだ。

 雪禰は、木陰の親友の好きな男の子が、木陰のことを好きで、その事実を告げたのだと言った。

 ということは。


「君は、恋をしているのか?」


「は、はい?」


 唐突な質問だっただろう。

 話の流れにまったくそぐわない、斜め上を行く問い。

 だがしかしそれも仕方ない。

 俺は早急に話を進めたい。

 せっかくここまで来たんだ、もう少しで木陰の不登校を、どうにかできるかもしれないんだ。


「あーいや、ある人に聞いたんだ。木陰の親友には好きな人がいるって」


 その男の子が木陰を好きだとは、あえて言わない。当人なら分かっていることだろうし、人の傷を抉る趣味は俺にはない。もし当人じゃないなら、それこそ言う必要のないことだ。


「んー? どこの誰がそんなことを……。まあ、そうですよ。正確には“してた”ですけど」


「過去形? ということは、今は恋してないってことか?」


「あの、あんまし乙女の奥深くに入ってこないでくださいよ、あなたは私の彼氏ですか? まあ、木陰のお兄さんだからギリギリ許しちゃいますけど……。まあね、フラれたんです、私。私が好きだった男の子には、他に好きな女の子がいて……あ!」


 そこで何かに思い当たったように、恋藤さんが声を上げる。


「思えばそう、あの時からですよ、木陰が学校に来なくなったのは。その時のクラスメイトの女の子が急に言ってきたんです。私が好きな人に、好きな女の子がいるって言って、その……お兄さんにはちょっと言いづらいんですけど、それって木陰のことだったんです」


 “その時のクラスメイト”というのはつまりクラス替えで今は別のクラスになった、ということだろうか。あの雪禰初夏と。


「ああ……その話も知ってる」


「おや先輩、校舎裏に引きこもってた割りには訳知りですね?」


 短冊ちゃんが不思議そうに俺の方を見てくる。

 ていうか屋外に引きこもるってなんだよ。


「ふ、バカにするなよ短冊ちゃん。俺だってただ時間を潰す為にここに来たんじゃないんだぜ。動けないなら動けないなりに、情報を手にする方法はあるんだよ」


「へー」


 興味なさそうな短冊ちゃん。

 まあ本当は、情報の方から歩いてきただけなんだけどな。

 それを知っている輪廻がじっと見つめてくるが、気にしないでおこう。


「で……ですね、木陰はその話を聞いた次の日から学校に来なくなったんです。最初は風邪ひいたんだって聞いてたんですけど……それからしばらくしても全然来ないし、心配で」


 ふむ、なるほどな。

 そういうことか。


「恋藤さん、だっけ?」


「あ、はい。恋藤、恋藤聖歌っていいます。お兄さんは歳上なんですから、呼び捨てで構いませんよ」


「そっか、じゃあ聖歌」


「ちょ、なんでいきなし名前呼びなんですか! そういうのは、私の彼氏になってからにしてください!」


 うーむ、女心は複雑だな。


「ん、と……じゃあ、恋藤は俺を彼氏にする予定があるのか?」


「ありませんよ! ifの話です!」


「じゃあ、俺と付き合ってくれ」


「えっ!?」

「は?」

「はい?」


 輪廻と短冊ちゃんと恋藤が、それぞれのリアクションを見せる。

 いやいや、なんで輪廻が一番驚いてるんだよ。


「へ? え? お兄さん、私のこと好きなんですか?」


「え? まあ顔は好きな方かな」


「デリカシーの無い最低なことを言いますね」


 と、短冊ちゃんが呆れたように言う。

 褒めてるのになんで最低だと言われなきゃいけないんだ。

 なぜか輪廻はぷるぷると震えているし。


「仕方ないだろ、内面はまだほとんど知らないんだし」


「内面を知らない段階で告白するのはどうかと思いますけどね、普通に。ていうか会ったばかりですし」


「なんだよ短冊ちゃん、やけに突っ掛かるじゃないか。さては嫉妬か?」


 俺が冗談めかしてそういうと、反して短冊ちゃんは真顔で言う。


「嫉妬……ああそうですね、そうかもです。私先輩のこと、大好きですからね」


「おいやめろ……心にもないことと分かってはいても、男は単純だからな。変に意識しちゃったらどうするんだ」


「あはは、別にいいですよ、私を好きになってくれても。変に意識しちゃっても、変な気さえ起こさなければ。私、先輩と恋人になるのは無理ですけどね」


 ひでえ。

 この後輩はどんだけ、先輩を弄んでくれるんだ。


「あ、あの……」


 俺と短冊ちゃんのやりとりに、おずおずと入ってくる恋藤。


「今私が告白されてるんですよね?」


「ああ、そうだった。放置してごめんな」


「やっぱり放置されてた! 告白されたのに!」


「まあまあ、それで、答えは?」


「あー、えっと、その……」


 え、悩んでのか?


「よろしくお願いします!」


「ごめんなさい!」


 頭を下げてきた恋藤に、頭を下げ返す。


「は、はい?」


 頭を上げて俺を見る恋藤の顔は、引きつっている。それはそうだろう。


「俺、恋藤と付き合う気はない。今のところは」


 ポカン。という言葉がピタリと当てはまる顔だった。


「な、な、なな……! なんで告白された私がフラれてるんですか!?」


「本当だよなー」


 努めて他人事のように言う俺。しかし恋藤の視線はガンガン俺に突き刺さってくる。


「いや、だって仕方ないだろ。オーケーされるなんて思わなかったんだから。君には好きな男の子が居たんじゃないのか?」


「はい? だから過去形なんですって。もうあんな男、好きでもなんでもないです。女の子は切り替えが早いんですからね」


「そういうもんなのか……」


 俺なら、結構引きずるけどなぁ。

 そりゃあもう、スルズルと。


「それに、好きな人に好きな人が居るなら、私はそれを応援したいです。その相手が親友でも、いや親友だから、ちゃんと潔く身を引いて、その行く末を見守りたい」


 そう、だよな。木陰の友達なら、そう考えるのかもしれない。何せ類は友を呼ぶのだから。


「ごめんな。俺は君を試したんだ。今でもその男の子を好きっていう気持ちがあるんじゃないかって。もしそうなら、告白するべきだって思ってた」


「それで、その気持ちを炙り出す為に、フラれる覚悟で恋藤ちゃんに告ったわけですか」


 得心したように短冊ちゃんが言う。


「まあそういうことだ」


「お兄さんは、乙女を傷つけるのが上手いですね。本気で悩んだのに!」


「人聞きが悪いな、俺はそんなつもりは……」


「そんなつもりはなくとも、女子は傷つくんです」


「え?」


 思わぬ方向から、いつも俺の後ろに控えがちな輪廻から、避難の声が上がり面食らう。


「後で、お話ししたいことがあります」


 真面目な顔で、輪廻がそう言ってくる。


「話って……」


「後で」


「はい……」


 輪廻の圧力に、俺はつい敬語をつかってしまった。


 絶対そうだ。

 パンツのことを、輪廻は怒っている……!

 いやまあ怒らない方がおかしいし、だから怒られても仕方ないとは思うが、しかし心のどこかで輪廻は許してくれるんじゃないかと思っていたのは事実だ。


 完全に甘えだ。

 俺が悪い。

 俺しか悪くない。

 非は俺にある。

 認めよう、雪禰初夏がそうしたように。

 悪意があろうが無かろうが、罪は罪なのだから。


 しかし、今は木陰のことをどうにかする為に動くべき時だ。それを理解して、輪廻は『後で』と念を押してくれたのだろう。


「まあ、そういうことなら恋藤。お願いがある」


「女の子を袖にしておいて直後にお願いとは、お兄さんは図々しい人です」


 ふくれっ面の恋藤は、見かけ通り機嫌が悪いようだ。まあそれも俺のせいなので非難することはできないが、話は聞いてもらわなくては。


「頼むよ。もしかしたらこれで、木陰の不登校が終わるかもしれないんだ」


「え! するする、なんでもします!」


「こら、なんでもするとか、女の子が軽々しく言うもんじゃないぞ」


「お説教はノーサンキューです! それより、私は何をすればいいですか?」


 まったく、最近の後輩は先輩の言うことを聞かないもんなのか。単に俺に威厳が無いだけかもしれないが……。

 まあしかし、木陰のことに前向きな姿勢はありがたい。

 そして俺は、至極簡単なお願いをする。


「木陰と、恋バナをしてくれ」





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