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命帝大付属中学校

 * * * * * 




「あ、そういえば輪廻、最近お前元気無くないか?」


 俺と一緒に取り残されてくれた相方、もとい愛弟子の輪廻に、ようやくそう聞いてみる。

 『ようやく』というのも、ずっと心に引っ掛かってはいたのだが、聞くタイミングを掴めないでいたのである。


 珍しく二人きりになれたわけだし、今こそ可愛い後輩の悩みに親身になってやる時ではなかろうか。

 どうせ一時間目の授業が終わるまでは行動を起こせないわけだし、時間は沢山ある。

 ならば、可愛い後輩の為にこそ、その時間を使おうじゃないか。


 そう思って声を掛けてみたのだが、当の輪廻はというと一瞬ハッとした表情を見せて、しかし首を横に振った。


「いえ、私は普通です。その……天海木陰さんのことが気掛りなので……」


「ん……そっか、気に掛けてくれてありがとな」


 本当に、有り難いことだと思う。

 たかだか同じ部活動の先輩の家族の為に、後輩ら4人がこぞって協力してくれているのだ。

 最初こそは、余計なお世話だとさえ思ったが、確かに木陰のことをいつまでもこのままにしておけないのも事実だ。

 というか、俺がこのままにしておきたくない。


 『放任』と言えば自主性を重んじているように聞こえなくもないが、それはつまり『無責任』であるということだ。

 関与しないから責任を負わない。

 それはいかにも身勝手な考えではないだろうか。

 関与しようがしなかろうが、誰にでも責任はあるというのに。

 極論だが、遠くの国で起きた戦争だって、頑張ればもしかしたら止められたかもしれないのだ。

 『関わってないから知らない』なんて、まあそういう人も少なからず居るだろうが、それが良いか悪いかは別として、俺は好きじゃない。

 そもそも、この世界に存在している時点で、全ての物事は関係している。


 話が大きくなってしまった。

 物事を深く考えすぎるのは俺の悪い癖だ。

 とにかく、後輩達が妹のことを思ってくれてる今、兄である俺が動かないでどうするっていう話だ。

 今まで問題から目を背けていた愚かな自分に、別れを言うべき時だろう。


 木陰は、本当は学校が好きなはずだ。

 あいつは未知を探求したがる。

 その為に勉強もするし、読書もする。

 そういう点で、輪廻と木陰は少し似ているのかもしれない。

 求める場所が違うだけで。

 輪廻は真理を現実に求め、木陰は真理を空想に求める。


 どちらが正しいのかなど俺には分からない。

 ただ俺は、もう一度木陰に、学校に通ってもらいたい。


 その為にここに居る。

 だがしかし。


 “上履き”という装備を持ち合わせていない俺は、今この状況においてとんでもなく無力なのだった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 




 チャイムの音が聞こえる。

 一時間目が終わって休み時間に入ったみたい。

 私はトイレから出ると、ほんの少しの緊張を突き放すように、『ふぅ』と息を吐いた。


 妹ちゃんのクラスは事前に先輩に聞いてある。

 3年C組。

 そっか、ということは来年には妹ちゃんは、私達と同じ高校に通うのか。

 無事に卒業出来れば。


 うーん、やっぱし私がなんとかしないと。

 いや、中学校に留年とかってあるんだっけ?

 エスカレーター式だし、このままいってもちゃんと卒業出来て、入学も出来るかも?

 うーん……。


 そういう問題じゃあないか。


 “今”は今しか無いんだから、妹ちゃんにはちゃんと青春してもらわないとね、学校で。

 ちゃんと学校行ってたって、先輩みたいに歪んだ学生になることもあるわけだし。


 よーし、そんじゃま、作戦開始と行きますか!


 3年C組の表札を確認して、私はいかにもなんともない風を装って中に入る。


 ほーらね、誰も注目してない。

 そんなもんだよね、オドオドしてた方が目立つんだよ。


 しっかし……入ってはみたものの……。


 あー、なんかこう、クラスってコミュニティがいくつか出来てて、休み時間ともなればそのコミュニティで会話を弾ませるものだよね。

 私は自分のクラスでは無所属な人間だからあんまし分かんないけど。

 あ、いや、ぼっちではないよ?

 どのコミュニティの人ともある程度仲良く出来るタイプの人間だからね、私。

 自分で言いたくないけど、八方美人てやつ。


 あんまり人間関係に深入りしたくないし、かといって一匹狼気取って悪目立ちしたくないし、だからそういう立ち居振る舞いが私には丁度いい。


 まあ私の話はどうでもいいか。

 現状が問題だなぁ。


 複数人で盛り上がってるところに割って入るのは、流石に難易度高いなぁ……。

 いや出来なくはないけど、怪しまれるリスクが高すぎる。

 まあ出来ることなら、妹ちゃんが所属してるコミュニティに話を聞けるのが一番だけど。

 それを断定する術はないし、ここはとりあえず……。


 私は教室内を見渡してみる。

 お、いるいる。まずはああいう子から話を聞いてみますか。

 まあどのクラスにも一人は居るもんだよね、ああいう他者と関わらない一匹狼ちゃん。


 窓際で一人、窓の外を眺めている女子生徒に狙いを定め、私は近付いていく。


 髪は長く綺麗で、顔立ちも整っていて、凛々しい眉毛のせいか気が強そうに見える。


 近付く私に気付く様子はない。

 さて、なんて声を掛けようかな。


「あの、急にすみません……」


 声を掛ければ流石に気付いたようで、凛々しい少女の目が私を捉える。


「ちょっとお聞きしたいんですけど、最近木陰ちゃん……天海木陰さんて、学校来てないんですか?」


 少女が驚いた表情をする。

 そしてすぐに。


「あなた、木陰のことを知っているの!?」


 ふむ。

 偶然だったけど、ビンゴだったみたい。

 妹ちゃんは、この女の子とコミュニティを結成していたらしい。


 ちなみに、私が中学生に敬語を使っているのは、別に媚びへつらっているわけではなく、昨年度卒業した私のリボンカラーが、現1年生のカラーだからだ。

 果たして高校1年生の私は、中学1年生に見えるのだろうか。


 見えたら見えたで、ちょっと複雑だなぁ。




 卍 卍 卍 卍 卍 




 かつて私が入り浸っていたと言っても過言ではない風紀委員会室は、私が卒業したあの日から何も変わっていなかった――などということはなく、むしろ大分様変わりしていた。


「本当に、ここは風紀委員の部屋ですか……?」


 いつも冷静沈着な私が、狼狽しながらそう呟いてしまうほどだ。


 なんというか、ファンシーだった。

 カーテンとソファはパステルピンク、事務仕事用の机は陶磁器のような白。部屋の随所に誰の私物かは知らないが、愛らしいぬいぐるみ達がふんぞり返っていた。

 そのくせ、どこかこの部屋は禍々しい。

 原因はすぐに分かった。


 ファンシー過ぎるこの部屋に不似合いな物がいくつか、あからさまに置かれていたり、壁に掛けられていた。


 鞭、手錠、荒縄、首輪。


「な、なんですか……これは……」


 風紀委員の部屋とは、到底思えないのですが……。


 SMグッズ、ですよね?

 いや、私でもそれぐらい知っています。

 決して興味があるわけではないですが。


 風紀を管理する人間として、暴力沙汰、不純異性交遊、薬物乱用は容認出来ないので、それらに関する知識はあらかた頭に叩き込んであるのです。


「こんなものが、何故ここに……?」


 机の上に置かれていたいかつい手錠をつまみ上げ、首を傾げていると。


 がららっ、と音がして、私は反射的に身構える。


「はぅ、おやおや、風紀委員の聖域に不法侵入なんて、悪い子さんですか?」


 音のした方をみると、入り口のドアが開いていてそこに身長の低く、それに反して高い位置で髪をツインテールにしている少女が立っていた。


「あなたは?」


「はぅはぅ、そういうのって礼儀的に、まずは自分から名乗るもんではないですかねぇ? というか、そんな必要もなく、私はあなたを知ってますけどね? 神代破魔矢さん」


 不覚にも常識を正されてしまいました……。いや、それよりも、この少女は何故私のことを?


「そんな意外そうな顔をしないでほしいですねぇ~。在学中、あなたは有名人だったんですから。ねぇ、冷血姫の神代さん」



「れ、れいけつひめ? 何ですかそれは?」



「はれ、本人は知らない呼び名だったんですか? まあ、好意的な呼び名ではないですもんねぇ。誰もあなたの前では呼ばず、陰でひそひそ言ってたんでしょうね。ああ、ちょっと違いましたかね? 誰も、あなたの周りには居なかったんですかね?」


「な! し、失礼ですっ!」


「はぅ、これはごめんなさい。事実は時に人を傷つけますね。で、神代破魔矢さん――」


 なんなのですか……この少女は。

 言動が、雰囲気が、どこか普通じゃない。



「卒業生のあなたが、この学校の風紀を貶めたあなたが、何の用でここへ?」



 は?


 はい?


 何を言ってるのですか、この子は。


 私が、風紀を貶めた?


「何を、バカな……」


「バカはあなたです。はぅ、また失礼でしたね。でも仕方ないのです、これも事実なので。これであなたが傷ついたとしても、それはあなたの罪の代償になると思うのですよ」


 言ってる意味が、全然分からない。

 そうして止まった思考の中に。


「ああ、申し遅れましたね。私は月織余白(つきおりよはく)。この学校の唯一の風紀委員です」


 にこりと笑う少女の、甘めな声が響いた。




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