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アイドルの後輩が穿いていたパンツを無くしたらしいんだけどそんなことある?

 それは、あの決意の日から一週間が経った頃だった。

 つまり、真理探究部の設立から一週間後。


 そう、俺は驚くべきことに、あの日一日でメンバーを集め顧問を見つけ、そして活動内容を記入して部活動の登録用紙を生徒会に提出してみせたのである。

 生徒の自主性を重んじるこの学校では生徒会がほぼそのまま学校内の決定権を掌握している。

 となれば話は簡単だった。


 というのも、現生徒会長が俺――天海夕陽と風原憩の共通の幼馴染みだからである。

 旧知のなかだからこそ融通が効くということはままあることだろう。

 というわけで活動内容はなんでも良いとして、校則にのっとって人数さえ揃えれば俺は新しい部を設立することが出来るわけだった。


 そして運良く話はトントン拍子に進み、偶然知り合った一年生の羽狩輪廻、星宮短冊、音無禊、そして名前を貸すだけならと言ってくれた幼馴染みの風原憩を加え、晴れて最低人数の五人に到達し、後は近くに居た覇気の無い男性教師に顧問をお願いし、空いていた第二科学室を部室として使わせてもらうことになった。


 で、それから一週間後である。


「完っ全に失敗した……!」


 俺は既に、部室で頭を抱え激しく後悔をしていた。


「どうしました? 師匠」


 金髪のちっこいやつが、テーブルの向い側から心配そうな顔で見てくる。


「なんだよ、真理探究部って!」


「えっと、『人類の発展の為にこの世界の真理を暴く崇高な目的を持った部』と、師匠がおっしゃっていた気がしますが」


 羽狩輪廻は、出会ったその日から俺のことを師匠と呼んで慕っている。

 その理由は俺には分からないが、悪い気はしないので放っておいている。


「言ったよ! でも冷静に考えたらただの痛い厨二病患者じゃんか!」


「そんなことありません! 師匠の信念に私は深く賛同しました! 俗世間の濁流に溺れることなく、おのが思想の果てを、共に目指しましょう!」


 熱い、熱すぎるぜ……!


「輪廻……! お前ってやつは、弟子の鏡だな!」


「勿体なきお言葉です!」


「ん………うるさい……」


 背後から囁くような抗議の声が聞こえたので首を後ろに向けると、俺の後ろに椅子を置いてそこに座り、俺の背中に寄り掛かって眠たげに目を擦る白い少女がいた。


「あ、悪い音無。っていうかそこで寝てたのか……。軽すぎて気付かなかった」


「ねむいから……しずかに……」


「はいはい……」


 ていうか、こいつはいつも部室に寝に来てるのだろうか。

 まあ寝てるだけでも、こいつが部に入ってくれたおかげでこうして真理探究部は活動出来ているわけなので、文句は言えない。


「いやだから活動してねえじゃんなんにも!」


「うるさい」


「ごめんなさい……」


 そう、部を設立して一週間、忙しい憩を除いてこうして集まってはいるものの、俺達は特にこれといった活動が出来ないでいた。


「そりゃそうだ……真理探究部ってなんだよ? 真理の探究ってなんだよ? 何をどうすればいいんだ……。本当に見きり発車すぎるだろ、俺。もっと活動内容を考えるべきだった……。やりたいこと、俺の、やりたいこと……」


「師匠の自問自答、勉強になります」


 そんな尊敬の目で俺を見ないでくれ、輪廻。もっと侮蔑の目で見下してくれ。自問はしてるけど自答は出来てないんだ。答えがあるのかどうかもわからん。

 俺は、この部を作って、何をしたかったのだろうか。


「んぱい………せんぱい、せんぱいせんぱいせんぱいっ…………先輩っ!!」


 遠くから聞こえた呼び声が最大になったその瞬間、この第二科学室のドアが開くと同時に、この部屋に居なかった部員が姿を現した。


「なんだよ短冊ちゃん、騒々しいな。俺は今悩んで――」


「事件! 先輩、事件なんです! 先輩事件なんです! 先輩なんです! 事件!」


「やめろ落ち着け、俺を事件と呼ぶな」


 星宮短冊こと短冊ちゃんは、茶髪を振り乱し血相を変え、つまり分かりやすく焦っていた。


「まずは呼吸を整えて、冷静にあったことを話せ」


 いかにも先輩らしく落ち着いた対応の俺だが、後輩の方はいつもの通り後輩らしくなく、全然先輩の言うことを聞かない。


「私のパンツが無くなったんですっ! この事件の真理を暴きましょう! 先輩っ!」



 そして俺はようやく理解した。

 これがこの真理探究部の最初の活動になると。


 そう俺は、アイドルのパンツを探すためにこの部を作ったんだ。




 * * * * * 




 って、そんなわけがあるか。

 まあいいや、退屈しのぎくらいにはなるだろうと、俺は短冊ちゃんの話を詳しく聞いてやることにした。


「はあ? 穿いてたパンツが無くなっただあ? そんなことあるわけねえだろ、アホか」


 鼻で笑い一蹴した俺に、短冊ちゃんはなおも食い下がる。


「本当なんですってば! なんで信じてくれないのよ!」


「なんでもどうしても、あり得ないだろ、普通に。本当だって言うなら、スカートたくしあげて見せてみろよ」


「ちょ……! 本当だったら見せれるわけないでしょ、この変態! どさくさに紛れて女の子の大事なところを見ようとしないでください!」


「べ、別にそういうつもりじゃない! ただ見た方が手っ取り早いって思っただけで!」


「百聞は一見にしかず、ということですね、師匠」


 座ってる俺と立ってる短冊ちゃんの口論に、勇敢にも輪廻が割って入ってくる。


「そ、そういうことだ」


「む…………と、とにかく見せるのは無理! ていうか、先輩は先輩のくせに、可愛い後輩の言うことを信じてくれないんですか?」


「う…………」


 そういう言い方は卑怯だと思うし、そもそも自分で『可愛い後輩』だと言うのはいかがなものかと思うが、しかし実際問題俺は先輩だし短冊ちゃんは可愛いので、俺は強く出ることが出来ない……!


「師匠、ここは器を広く持って、ひとまず信じてみてもいいのでは? はなから全てを否定する人が真理に到達出来るとは思えませんし」


「う、うーん……まあ、そうだな」


 そのアドバイスは、どちらかというと輪廻が俺の師匠みたいに思えるのだが……まあ気にしたら負けか。


「分かった……とりあえず信じるよ」


「ほっ……さっすが先輩、童貞だけあって女の子には弱いですね♪」


「うるせえちゃんと褒めろ」


「イヤー、センパイハタヨリニナリマスネ!」


「感情がこもってないのがありありと分かるな……。将来女優とかに転向する予定なんだったらもっと演技力を磨いた方がいいぞ?」


「余計なお世話です。それじゃあ、詳しく事情を説明しますね」


 そうして俺は、後輩のアイドルがノーパンになった経緯の詳細を、聞くことになるのだった。



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