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いつもの朝with可愛い妹

「ほーら、お兄ちゃん起きて」


 いつも通りの朝が来る。

 しかし現実、『いつも通りの朝』なんて無いことも知ってる。

 毎日同じ寝床から起き上がり、同じ食卓で朝食を平らげ、同じ鏡の前で歯を磨く。

 同じ同じと言ってはいるけれども、そのどれもが過去全ての朝と、どこかほんの少しずつ違っているはずだ。

 昨日は二度と訪れない。

 再現は出来ても、やり直しはきかない。


 人間は――いや、全ての命は、明日に続く一方通行の道を進み続けなければならない。そういう呪いを持って、誰しもがこの世に生を受けるのだ。


「朝ご飯、出来てるよ」


 いつもの朝、でもいつもと違う朝。

 自分の眠気を自覚した瞬間から、意識は覚醒している。

 最愛の妹が自分を起こしに来ていることは分かっているが、それでも俺の身体は意識と同調して鉛のように重く、ふかふかのベッドから動こうとしない。


「起きてってば」


 小さい手が身体を揺すってくる。

 その揺れが逆に心地よく、まだ夢の世界に片足を突っ込んだままの俺を、更に深層へと追いやる。


「仕方ないなぁ……」


 夢というのは不思議で、眠っているのにそこに居るように映像が見える。

 自分の深層心理とか願望とかが影響を与えているとかいう説があるらしく、俺は夢を見るとすぐに夢占いのサイトを見る。

 今日の夢は、どんなだろうか。


「ん、あぁ……はっあんっ……良い、そこ……すっごい気持ちいいっ……お願い、お兄ちゃん……もっとして……私のことぐちゃぐちゃにしてっ! うん……いいよ、そのまま中で……お兄ちゃんの濃いの……私にちょうだいっ……」


「お前何してんの!?」


 飛び起きた。

 衝撃的な夢で飛び起きるというのはよく聞く話だが、今日の俺は衝撃的な現実で飛び起きた。

 稀有な経験をしたとは思うが、これを他人に話そうとは思えない。

 妹の喘ぎ声で起きたなんて。

 その妹は俺のベッドの縁に座ってしれっと真顔だが。


「別に何もしてないよ。変な声出してただけ」


「俺の部屋で変な声出すなよ!」


「だってお兄ちゃん起きないからさ。寝覚めの良さそうなアラーム鳴らしてあげたんじゃん」


「危うく夢として光景を見ちゃうところだったわ!」


「妹のあられもない姿を夢に見るなんて、変態の兄を持つと大変だなぁ」


「誰が中学二年の妹の裸で興奮するかよ」


「ロリシスコンの兄」


「残念ながら俺は年上好みだ」


「嘘。お兄ちゃんがいつも私のパンツ見てドギマギしてるの知ってるんだからね?」


「なんで知ってる……。年頃なんだよ思春期なんだよ! ていうか中学生の癖に大人びた下着を穿くなよ」


「良いでしょ別に。妹だからってお兄ちゃんの好みに合わせなくっても」


「だからロリコンじゃねえよ。俺好みだから困ってるんだろうが!」


「あら、図らずも誘惑しちゃってたか。夜這いとかやめてよね、お母さん達居ないからって」


「だから、俺は妹相手に性的興奮を覚えたりはしない!」


「ふうん、まあいいけど。それじゃあお兄ちゃん、目が覚めたなら降りてきてご飯食べてよ。食器洗っちゃいたいからさ」


「あ、ああ……今行くよ」


 俺の返事に満足そうに頷くと、妹は俺のベッドから降りて部屋の外へ出ていこうとする。

 しかし何故か、ドアノブに手を掛けたところで振り向いて俺を見る。


「それと言い忘れたんだけど――」


 ニヤリと笑う妹。


「勃ってるよ、お兄ちゃん♪」


「朝だからだよっ!」


 という俺の叫びは、虚しくも閉まりゆくドアにぶつかって、淀んだ部屋の空気の中に霧散したのだった。




 * * * * * 




 命帝大学附属中学校2年C組出席番号2番、天海木陰(あまみこかげ)

 長い黒髪に、可愛いというよりは綺麗な顔立ち、長い睫毛、160㎝弱の身長、スレンダーな体型、日々発育しているバスト、色白な肌。

 小学生の頃から幼馴染みの風原憩に勉強を教わっていることもあり学業は優秀で、学力試験では毎回学年1位の成績を修め、運動神経も抜群で、その上気取らない性格でリーダーシップもある為人望もある。

 このポテンシャルの高さ、本当に俺の妹かと疑いたくなってくる。

 中学の頃の風原憩だって、これほど目立っては居なかった。いや、憩の場合は意図的に自分の能力を隠していたところがあるのだが。

 それが高校で爆発しただけで。


 とにもかくにも、羽狩輪廻が俺の弟子ならば、天海木陰は風原憩の弟子だった。

 ただ木陰と憩の明らかに違う点は、木陰は特別人助けを好まないということだった。あくまで自分の都合で自分の能力を使う。

 そういうところは、我が妹ながら好感が持てるのだが。


「ご馳走さまでした」


「はいお粗末さまでした」


 いつも通りのダイニングで朝食を食べ終えた俺は、いつも通りの洗面所で歯を磨き顔を洗い、いつも通り自室で指定の制服に着替え、いつも通り玄関で靴を履いていた。

 そしていつも通り「行ってきます」と言おうと思ったところで、リビングのドアから木陰が顔を出していることに気付いた。


「なんだよ?」


「いや、お兄ちゃん、学校行くの?」


「何言ってんだ、当たり前だろ」


「停学中なのに?」


「あ」


 そうだ。

 俺、今日から一週間停学じゃん。

 すっかり忘れてた。

 うわはずかし……。

 普通に行こうとおもっちゃったよ……。

 ていうか、ちょっと待て。


「おい木陰、お前俺が身支度してる時から気付いてただろ……」


「うん。バカだなーって思ってた」


「正直なのは良いことだけど、思ってるなら言えよ性格悪いな」


「お兄ちゃんバカだね」


「性格悪いな!」


「ね? 思ってることを全部言えば良いわけじゃないんだよ。人間関係って難しいね」


「お前は思いの伝え方に課題があるな」


「じゃあ勉強しておくね。勉強は好きだし」


「奇特なやつ」


「お兄ちゃんには言われたくないなぁ。それより上がったら? お茶でも淹れてあげるよ」


「うん、そうする、ありがとう」


 俺は素直に靴を脱いで玄関から上がり、肩を落としながらトボトボとリビングへと足を踏み入れるのだった。




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