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アイドルとか芸能人に限らずですが、ストーカーって本当に許せないですよね

「先輩のしょうもない真理論はともかくとして」


 酷い。

 これが後輩の言う台詞だろうか。

 とても尊敬されているとは思えない。

 まあ、尊敬されていないことは知っているんだけれども。

 と、俺が残念な気持ちでいると、短冊ちゃんが立ち上がった。


「嘘を吐いて迷惑を掛けたことは、皆に謝ります。ごめんなさい」


 そう言って頭を下げる。

 しっかり90度、深々と。

 普段ふざけているだけの後輩に、こうも真面目な素振りを見せられると、それだけで許しても良いような気になってしまう。

 いかんいかん。ここでちゃんと厳しくしておかないと、他の後輩への示しがつかない。


「おいおい、そんな謝罪だけで許されると思ってるのか? 短冊ちゃん、世の中そんな甘くないぜ? ここはその綺麗な身体で、きっちり落とし前つけてもらわないとなぁ」


「天海さん、最低ですね」


 神代さんの鋭い目が俺を睨む。

 あれ?


「にんげんが、ちーさい……」


 背中から音無の声がボソリと聞こえる。

 あれあれ?


「その、流石にそれは人としてどうかと、思います……」


 脇に立っている輪廻さえ、俺の味方をしてはくれない。

 おかしい。

 後輩に対して威厳を損なわない為に心を鬼にしたというのに、威厳を損なうどころか人間性を疑われている。


「う、うん……まあ冗談だ冗談。いやだなあ、皆本気にしちゃって! 俺が可愛い短冊ちゃんをそんなに責めるわけがないだろー?」


 速攻で掌を返してみたものの、皆の目は白かったり、冷たかったり。

 そんな……俺が間違っていたというのか?

 後輩に舐められないように後輩に厳しくするなんて、矮小な人間がすることだったのだろうか?


「ううん、それくらい言われても仕方ないよ。私は皆を騙してたわけだし。だから先輩は、悪くない。悪いのは私」


「短冊ちゃん……」


「星宮さんが、そういうのでしたらまあ……。星宮さんに免じて、天海さんを許してあげます」


 神代さんの言葉に、輪廻は頷く。

 音無は既に寝息を立てている。


「皆…………っていやいやいや! なんで俺が悪人になってんだよ! そもそも短冊ちゃんが悪いんだろうが! 逆になってるから、立場が!」


 確かに俺もちょっと感動して『短冊ちゃん……』とか言っちゃったけどさ!


「うるさい……」


「あ、すみません……」


 背中の後輩に平謝りする俺。

 ああ、俺の威厳はどこに行ったのだろうか?


「まあ、もういいや……。短冊ちゃん、嘘を吐いてたのはもういいけど、なんでそんなことをしたのか、説明をしてくれ」


「うん……」


 俯きながら、再び椅子に座る短冊ちゃん。


「ちょっと、話しづらいんですよね……。でも、ここに居る皆になら、話してもいいかな」


 そう言って、神妙な面持ちの短冊ちゃんは、語り始めた。




 * * * * * 




 空気が、重い

 きっと空気中に何パーセントか鉛が含まれているに違いない。

 これならきっと音無の方が軽いんじゃないだろうか、というよく分からない思考辿り着いたところで、俺は頭を振って我に返った。


「ストーカーって、マジ?」


「マジです。こんなことで嘘は吐きませんよ。まあ、説得力ないですよね……」


 と、短冊ちゃん肩を落とす。


「先程のことは気にしないでください。そういう事情があったなら仕方ないですよ」


 うわ、なんか神代さんが顔に似合わず優しい!


「む、天海さん、何か失礼なことを考えていませんか?」


「え、してないしてない!」


 なんで分かったんだ?


「そうですか……いえ、今天海さんの顔の風紀が乱れていた気がしたので」


「はは……」


 顔の風紀って、なに?

 神代さんもまともそうな外見の割に言うことが謎だな。


「しかし、架空のパンツを餌にストーカーを誘きだそうなんて、すごいこと考えたな」


「え、だって、男の子って好きな女の子のパンツ、欲しいんじゃないですか?」


「欲しいな」


「………………」


「おい、なんで黙る」


「あーいや、答えは分かってはいたんですけど……実際にそう即答されると、引いちゃいますね、やっぱり」


「引くんじゃない。俺は男子の代表として一般論を語っただけだ」


「先輩に代表をされるなんて、世間の男性達が可哀想ですね」


 こいつはどれだけ俺を低劣な人間だと思ってやがるんだ。  


「で、ストーカー誘き出し作戦は上手くいったのか?」


「うーん、私達が『パンツが無くなった』っていう偽の情報を校内にばら撒いてる間に不審な動きをしている人が居たらそいつが怪しいのかな、と思ったんですけど……」


「ん、待て待て。その前にさ、校内にストーカーが居るっていう確証はあるのか?」


「家に変な手紙が届くんですけど、その中に校内で隠し撮りされた写真が入ってたんです。学校内の人間じゃないとそれって難しいと思うので」


「隠し撮り……マジか。ちなみにそれは、着替え中とかスカートの中の写真とかか?」


「…………」


「おい、なんでそんな怪訝な目で俺を見る?」


「……いや、だったらなんなのかなあ、と思いまして」


「だったら確認が必要だろうが。後輩のあられもない姿を盗撮されたなんて許せない。俺より先に短冊ちゃんの秘部を見るなんて!」


「いや見せませんし。あと先輩にあられもない姿を見せる予定はありません。それと一応アイドルなので、“秘部”っていう言い方やめてもらえますか?」


「ちっ、つれないなぁ、俺と短冊ちゃんの仲じゃないか」


「ただの変輩と後輩ですよね? ちなみに写真は先輩が期待しているようなものじゃなくて、昇降口で靴を履き替えてるところとかですよ」


「べ、別に期待してなんかねえよ……。しかし、マニアックだなー……まあ悪くはないけど。じゃあ短冊ちゃん、今度それ――」


「だから見せませんって。話が進まないのでこのどうでもいい話やめてもいいですか?」


「…………」


 酷く冷たい。

 短冊ちゃんの心はドライアイスで出来てるんじゃないだろうか。


「それで、怪しい人物は発見出来たのですか?」


 俺が落ち込んでいることなど気にも留めずに、神代さんが短冊ちゃんに聞く。


「うんそれが……全然で。もう一人、協力して探してくれてる人が居るんだけど、その人からも連絡はないし……。パンツじゃ弱かったかなぁ……」


 短冊ちゃんがそう言って肩を落としたその時。


 ピンポンパンポーン。


 というそれは、校内放送の合図だった。

 こんな放課後になんだ?


『1年H組、星宮短冊さん、1年H組、星宮短冊さん。至急、職員室までお越しください。繰り返します――』


 ピンポンパンポーン。


「私? なんだろ?」


「男の声だったよな?」


「うん、多分ウチのクラスの担任」


「パンツが見つかったっていう話じゃないか?」


「いやパンツは穿いてますから」


「まあ知ってるけど。とりあえず行ってこいよ」


「そうですね。それじゃあちょっとひとっ走り行ってきます」


「廊下は走ってはいけませんよ」


 と言ったのは俺なわけがなく、神代さんだった。


「風紀委員みたいなこと言うなあ」


「風紀委員なんですよ、天海さん?」


「あっはは、どちらかといえば先生が言いそうだけどね。それじゃあね」


 俺がボケて神代さんが突っ込んで短冊ちゃんが笑い飛ばして。

 短冊ちゃんは危なげなくスカートを翻して、部室を後にした。



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