そして初めて、僕達は真理に到達した
暴力は良くない。
それは普通、小学校どころか幼稚園や保育園で教わることではないだろうか。
『道徳』という科目の、基礎の基礎ではないだろうか。
確かに俺は短冊ちゃんのおっぱいを揉んだ。
しかしそれは、『パンツを見つけたらおっぱいを揉んでいい』という短冊ちゃんの発言を受けてのことで、実際に俺はパンツを発見してみせたのだから、短冊ちゃんのDカップのおっぱいをいくら揉もうと咎められる謂れはないはずだ。
だというのに。
「後輩の! アイドルのおっぱいを揉むなんて!」
と、机を挟んだ向こう側で、短冊ちゃんが激昂している。
「短冊ちゃん落ち着け、自分の発言を思い出せ。短冊ちゃんに二言はないはずだろ?」
「そんな言葉はありません! あんなの強がりに決まってるじゃないですか! それなのに、本当に私のおっぱいを揉むなんて!」
あーもう、これだから最近の若者は嫌なんだよ。
自分の言ったことにくらい責任を持つべきだろ。
まあ、出来てる人も居るんだろうけどさ。
「まあまあ、俺の初揉みの相手になれたんだから良いじゃねえか」
「良いワケがありますか! 私だって初揉まれですよ! 私は痴女ですけど処女なんです! 知識はあっても経験はないんですよっ!」
そう力説されましてもね。
ていうか、そんなことより。
「そんなことより、短冊ちゃん」
「そんなことより!? 言うに事欠いて『そんなことより』ですか? 先輩は私のおっぱいをなんだと――」
「そんなことよりなんでパンツがそこにある?」
俺がいたって真面目なトーンでそう問うと、短冊ちゃんは話すのを止めて気まずそうに目を逸らした。
「今短冊ちゃんが穿いているそのパステルピンクのパンツ、それを探して一時間以上歩き回ったわけだけれども、どうして短冊ちゃんがそれを穿いているんだ? まさか、自分で穿いてて気付かなかったなんてことは、ないよな?」
「う……」
「それについては、私も説明を願いたいところですね。ただ嘘を吐いていたというのなら、星宮さんはいたずらに風紀を乱していたことになりますし」
別の机で落ちこみ続けていた神代さんが、顔を上げて話に入ってくる。
と、あれ、音無が居ない?
神代さんの隣で突っ伏していた音無の姿が消えている。
左右に首を振ってみるが、音無は視界に入らない。
どこに行ったんだ?
「天海さん、音無さんだったら後ろですよ」
神代さんがつまらなそうな顔で教えてくれる。
なんでつまらなそうなのかは分からないが。
後ろ?
言われて首を後ろに向けてみると。
「うわ」
本当に、これに気付かない俺はどれだけ鈍感なのかと思うが、軽いというのもあるし、音無がさりげな過ぎるのだろう。
音無は俺の背中にしなだれかかって眠っていた。
「いつの間に」
「天海さんがそこに座ったときにはもう、移動を開始していましたよ。本当に、天海さんのなにがそんなに良いんでしょうかね」
なにがと言えば、寝心地が良いらしいが。
「どうして、ですか?」
その声は正面から。
つまりは短冊ちゃんの言葉だった。
「どうして、分かったんですか? 私がパンツを穿いていること」
さっきまで遠くを見ていた目が、今は真っ直ぐ俺の瞳を見つめてくる。
どうやら話をする覚悟は出来たらしい。
「うーん、最初に違和感を感じたのは多分、第二校舎の階段を上がるときかな。短冊ちゃん、駆け上がって行ったろ、パンツ穿いてないのに」
「あ…………」
「そしてつい今さっきも、パンツを穿いていないにもかかわらず、無防備にもテーブルの上に座っていた。男の俺の目線があるのに、だ。普通、パンツを穿いてたって気を付ける人は気を付ける。穿いていないなら尚更だろう。それなのに短冊ちゃんは、ガードが甘過ぎたんだよ。だから輪廻に協力してもらって実験をしてその結果、短冊ちゃんがパンツを穿いてるという結論に至ったんだ」
「なる、ほど……」
「長々と推測を論じたけれども、まあ実際はもっと単純な理由だったかもな。そう、それこそ真理みたいな」
音無以外の目線が俺に集中していた。
皆一様に、俺の次の言葉を待っている。
まあ、知りたいよな。
これが真理探求部発足以来、初の真理だ。
「女の子のパンツがそんな簡単に脱げるなら、世の中の男共は苦労しねえんだよ」
まったく驚くべき真理に辿り着いたと、自分を褒めてやりたい。
しかし、残念なことに。
この部屋には俺以外に共感できる者が、誰一人として居なかった。




