ファンタジーが攻めてきた
カラは前世の子供の頃、恐竜展に連れてきてもらったことを思い出していた。傍らのタロもまた同様の思いを抱いているのだろう。
模型の恐竜は見上げるほどに巨大だった。ちょっとした体育館ほどの建物の半分ほどの面積をその恐竜の展示に使っていた。
動かない恐竜でも、その迫力にしばらく目を奪われたものだった。
目の前のそれはそれより少しだけ小柄だった、しかし縦に割れた瞳孔がぎょろりと動き、自分達の動きを完全マークしている状況はあの時とは比べ物にならない緊張感をカラタチにもたらした。
「気にすることはないわ、むやみに人は食べないから」
マデリーンがそう言うとカラとタロは思わず食いついた。
「むやみにって、少しは食べるってことなんじゃ」
「そういう事故はここしばらく起きてないわよ」
「起きてるんじゃないか」
二人は目を半眼にして、目の前のドラゴンとしか言いようのない生き物を見た。
「初めて、ファンタジー世界に転生した自覚ができたわ」
タロは震えながら同意した。
そのドラゴンはわずかな身動きで、細かな鱗が波打つのが見える。間違いなく生きたドラゴンだ。
その青黒い色のドラゴンは腕の半ば肩と肘の骨の間から羽の被膜が伸びている。
皮膜の色はグレイ、そして鰐の口吻を短くしたような口からこぼれる牙と、頭の頭頂部に真っ赤なとさかが生えていた。
「これから行くところは、こういうのがいっぱいいるの?」
カラが小刻みに震えながら尋ねる。どうか違うと言ってくれという祈りを込めて。
「当り前でしょう、私たちの行くところは軍よ」
「聞いてないぞ、そんなン」
タロが思わず天を仰ぐ。
「どういうことですか?」
「ああ、最近転生者による成果が、あんまり大きくないって愚痴ってるの、軍の関係者の偉い人なんだね、で、適当な転生者を軍でこき使うとか何とか」
「理不尽、過ぎるだろ」
タロが唸った。
「料理人の転生者にいったい何ができるっていうんだ?」
「私、前世の役に立つ知識なんかほとんどないんですよ」
涙目のカラをよしよしと頭をなでてやる。
「それならすぐに放り出してもらえるよ」
「そしたら家族が借金で路頭に迷うんですよお」
カラとタロが涙目になる。
慰めようもない気がしたが、マデリーンに何かできるわけでもない。
そして、カラとタロは馬車で、延々と続く道を進んだ。
その道の傍らには、色とりどりのドラゴンが何匹も並んでいる。
十五匹数えたところで数えるのをやめた。
「ドラゴンって」
「そりゃ龍騎兵隊は軍の花形だからねえ」
「ほんまもんのドラグーンかよ」
タロは乾いた声で笑う。
脱走は無意味だ。ドラゴンの群れをかわしてどうやって脱走できる。
「まさか役立たずだからドラゴンの餌とかないですよねえ」
カラが涙目だ。多分そんなことはないとマデリーンは言おうとしてやめた。




