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カラは、食事メニューを見ていた。
雑穀混ぜご飯、鶏肉、野菜スープ。
鶏胸肉には疲労回復効果があるというのは無効での知識だが、こちらの胸肉でも効果あるのだろうか。
そんなことを考えながら、入院中の女性達のリハビリを行う。
ある程度の栄養状態の改善から、軽い運動で、筋肉を増やす。
食事と運動のタイミングがずれると、逆効果になりやすい。
女性達は美味しそうに食事をとりつつカラをちらちらと見ていた。
痩せこけていた身体は普通ぐらいに肉が戻り、そろそろ退院してもよさそうだ。
カラはこれからを考える。
タロの仕事はそろそろ終わりそうだ。
栄養学の知識を軍に所属する調理師に教える。カラの栄養学の知識も順調にプールされているようだ。
タロはそろそろ実家に帰ることができるのかもしれない。
これまでずっと二人三脚でやってきたようなものなので、カラとしてはタロに帰られるのは結構な痛手だ。
カラは新しい仕事を仰せつかったので、帰るのは当分先だ。
最近、家族から手紙が届いた。
弟妹に文字を教えておいてよかったと思うのはこういう時だ。
文字というものは、自分がいない場所でも情報伝達がスムーズにいくよう考えられたに違いない。
あちらはそれほど変わりがないようだ。
紙が貴重なので、手紙は最低限しか用意できない。
代り映えしない日常で、書くこともあまり多くないのだろう。
新たな仕事の準備も始めなくてはならない。
カラは十五人分の名簿を片手にしばらく考え込んだ。
体操選手だったからは格闘技の知識はない。
そうなると基本的な体力の底上げくらいしかできないわけだが。
「やっぱり、心肺機能の強化かなあ」
その方法をいくつか考えてみる。
高地トレーニングが一番手っ取り早いのだが、このあたりにそんな高い山はない。それならばどうしようか。
布地のサンプルを見せてもらうべきだろうか。
なるだけ目の細かい密な布を。
あとはゴムベルト、強度はどのくらいかは実地に試すしかないだろうか。
女性たちは順調に回復してきている。
ついでに医者が、リハビリの概念についてやたらしつこく聞いてくる。
「怪我をした部位をかばってあまり運動しないと、別の部位の筋肉も落ちるので、それを防ぐためです」
それがカラのできる精一杯の説明だったが、医者は納得してくれない。
図にリハビリ用の道具の形を書き記して、ケースバイケースで頑張ってくれとだけ言っておいた。
カラはこれから忙しいのだ。
そろそろ回復した彼女達から離れて新しい仕事の事前準備に、追われることになる。




