カラの苦悩
結局カラの仕事はぶち壊された女性たちの介護とリハビリになってしまった。
一人一人介護するのは看護師の仕事だが、その治療メニューはカラが割と自由に決めることができた。
数日はほとんど寝たきりだった女性たちも、少しずつ、回復するにつれて、カラのリハビリメニューをこなすようになった。
「思った以上にあのおっさんたち老害ってやつだな」
タロが、将校たちのことをそう評したが、カラとしてもそれを否定するつもりはなかった。
消化が良くて栄養のある療養食のメニューもタロは考えてくれた。
根菜類を柔らかくにこんなスープを給仕しながら、仮にも軍病院なのにリハビリセンターがないのはいかがなものだろうとカラは呟く。
「そもそもそう言う発想がないんだろう。病人、怪我人はひたすら安静にしておいて、治ったらそれでおしまい」
安静にしていた状態から歩行訓練を行うための道具すらなかった。
工具課に歩行器を作るよう要請しなければならなかった。
結局できたものは木枠に、キャスターをつけただけの代物だったがないよりはましだった。
「安静にしすぎても、筋肉が落ちるから、最低限の運動は必要なんだけどな」
そんなカラを不審の眼差しを向けるもの、あるいは新たな知識を与えるものと好奇心に満ちた視線を向けるものと、病院関係者の視線は様々だった。
「あと少ししたら、水中訓練ができるかな、水中ウォーキングは、病後や怪我後のリハビリにピッタリなんだけど」
「まあ、結構顔色もよくなってきているから、それはいいんじゃないの」
そんなことを言いながら、タロは少しだけため息をついた。
カラがいろいろとやっている後ろを誰かがついてきている。それも一人ではない。
やはり、カラのすることは少々刺激的すぎるのだろう。
「進んでいるかね?」
一日の仕事を終えて、いろいろと書付をしているカラとタロのところにやってきたのは件の老害の一人、某将校だった。
「ああ、何の御用ですか」
とってつけた笑みを浮かべて頭を上げてあいさつした後そのままカラは仕事を続けた。
「いや、なかなか目覚ましい活躍だそうで」
「そうですか?」
「歩けない患者に歩行補助具をつけて歩かせるなど、なかなか斬新だ、看護師たちも仕事が楽になると好評だよ」
「あくまで患者のためですが」
それをつけると一人でトイレに行ける。これは大きい。
やはり、ある程度の年になれば、その介助を受けなければならないのはかなり精神的に苦痛だ。
そうなれば多少大変でも歩行器を選ぶだろう。
「寝たきりで歩かないと、足の筋肉はあっという間に落ちます。足は生命線というのがあちらでの医療の常識でした」
足裏のツボは脳に直結しているって噂だったよなあ。そんなことをタロは思い出していた。
「その知識をやはり貴女に生かしてもらうことになった」
いきなり何を言い出すんだろう。そんな目でカラは相手を見た。
十数人の軍人にから直々に教練を施すようにと命じられた。
「あの、グダグダの後で?」
思わず敬語を忘れてからが呟いてしまったのは責められないとタロは思った。