戦後処理
カラは、力なくへたり込んだ女達を観察した。
「あれ、かなりやばい、下手すれば後遺症もあり得る」
間違った鍛え方で、身体を壊しているようだ。来た時から半病人だったからそれはわかっていたが。
「まじかよ、労災じゃねえの」
タロもさすがに哀れに思う。
カラが、爪の状態を見た。
「色が悪い、貧血かも」
「貧血?」
「うん、ろくに食べさせずに運動させてたのか、一切休憩時間を取らなかったのかわからないけど」
タロは寒々とした気分に襲われた。哀れすぎる。
「ちょっと、医務室を大至急開けて」
全員医者の世話にならなければならない状況だとカラは判断した。試合を中止にするべきだったかと少し後悔した。
「全員?」
マデリーンが駆け寄ってきた。
「うん、タロ、あのお鍋持ってきて」
カラが言ったのは、恐ろしく料理の味を損ねるため、まともに使われていない錆の浮いた鍋のことだ。
「どうすんだよあんなん」
「あれでお茶を沸かす」
うげっとタロは唇を歪める。
「そんなもん絶対まずいに決まってんだろ?」
カラは担架を要請した。
試合に参加したメンバーも、介助に回っている。
「これ、偉い不祥事になるんじゃねえか」
タロが茫然とひとりごちる。
カラは悪くないが、カラには何の責任もないと思うが、カラが原因と言えば言えるような状態な気もする。
「とにかく、あの鍋でお湯を沸かしてお茶を淹れて?」
「なんであの鍋なんだよ?」
「あの錆の味が、一番血の味に近いの」
血液の成分は鉄分だ。貧血予防に鉄瓶で沸かしたお湯でお茶を飲むのが、有効だと聞いたことがある。
「あ、なるほど」
虚ろな目をした女達に、タロはさびた鍋をさすがに軽く洗ってお湯を沸かすことにした。
カラは相手方の訓練スケジュールを確認して立ちくらみをおこしていた。
「無茶苦茶もいいところだ」
どうやら、司令官クラスのお偉いさんが、入れ代わり立ち代わり無計画に訓練を推し進めたらしい。
その結果食事と睡眠以外休憩をまともにとっていない。
食事はカラとタロが協力して改良したバランス栄養料理ではなく、以前のままのものだ。
「そりゃ、身体を壊すわ」
「素人でもわかるわね」
マデリーンも同意する。
タロが用意したやたらまずいハーブティーを女達は虚ろな目で飲んでいる。
「とにかく、一番ひどいのは貧血ね、あとは、食事療法で、筋肉の状態は思ったよりいいけど」
カラはそう言って、彼女達に特別食を用意するようにイリアス少佐に掛け合うことにした。