試合、それは悲しく
対戦相手をカラは見た。軽く目をこすってみる。
しかし、その対戦相手は変わらず目の前にいた。
「まじ?」
「俺も信じられん」
タロも同意する。
目の前の光景は、カラとタロのの常識から大きく外れたものだった。
見る影もなくやつれた女達が、目の前で整列していた。
そして、背後のカラの鍛えた女達を見やる。
タロの丹精込めた食事と二日間の休息により、栄養が隅々にまでいきわたってつやつやと輝いている。
そして、きっちり洗濯をした運動着から覗く手足は引き締まり、身のこなしも敏捷そうだ。
対して、相手方を見れば、ぎすぎすというオノマトペが聞こえてきそうだ。後は何だろう、ぱさぱさだろうか。
なんだか見る影もなくやつれている。そのやせ細った顔の中目だけがぎらぎらと不穏な光を放つ。
はっきり言って不気味だ。
「あれは一体?」
「栄養不足というより、栄養の偏りかなあ」
少々パサつき気味なのはビタミン不足かもしれないとタロは推測する。
「明らかに睡眠不足もありますね、大丈夫なんでしょうか」
ぎらついた目はうっすらと充血している。
なんだかホラー、それもゾンビ物を思い出した。
割と状態のいいゾンビのようだ。
「まさかと思うが、まさか20世紀の初頭の精神論か?」
身体を鍛えるという概念あたりは前時代的だと思っていたが、そこまで古いとは思ってなかった。
「勝負が見えすぎている」
カラは絶望のあまり立ちくらみをおこしていた。
カラが絶望したのは、あまりにも楽に勝てる相手だったからだ。この状態の相手に勝ったとしてもとても自慢にはならない。
「あれだな、元気いっぱいの子供と杖ついてる老人の徒競走みたいな感じか?」
タロのたとえが的確過ぎた。
「なんだろう、この無力感」
あれほど知恵を絞ったのに、それが全部水泡に帰したような、徒労という言葉が、これほどふさわしい場面もそうないというか。
がっくりと肩を落とすからにタロが慰めるように手を置いた。
あまりにもカラが哀れだった。
カラが鍛えた相手は、それはもう軽快に障害物を超えていく。
動きに切れがいい。
そして相手方は、悲しいことに完走者が一人もいなかった。
完走の前に全員倒れ、立ち上がることなく終わった。
「目安にもならなかったな」
「うん」
もっといい勝負をさせてやりたかった、こんな勝ち方、何のカタルシスもない。
「どうするんだよなあ」
少なからず予算も使っているはずだ。カラは悪くない、まったくもって悪くないけれど、やっぱりやるだけ無駄な試合な気がした。