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暗黒時代の迷信

 女性職員の勧誘も無事終わった。

 最終的にくじ引きで、出場者を決めることになった。

 丸く収まったのなら、それでいいとカラは天を仰ぐ。

 気温は急上昇していた。

 この世界でも地球と同じように四季がある。地域によって暑くなり方や冷えかたが違うが、それも地球と同じだ。

 この辺りは随分と熱くなるところだなと日差しを受けながら思う。

 季節が変わるほどの時間、ここで過ごしたのかとカラは少し感慨深いものを感じた。

 走り込みは基本なので、あちらもこちらも熱心にやっている、それをしばらく眺めていた。

 いきなり一人が倒れる。

 カラも様子を見るため駆け寄っていった。

 人だかりの中カラはそっと様子を見る。

 顔は青ざめているのに肌に触れると体温が高い。

「あんまり汗をかいてないわ、熱中症かもしれない。誰か水を持ってきて」

 カラが言うと、おそらくこの場の責任者と思われる、壮年の男がカラを怒鳴りつけた。

「馬鹿を言うな、訓練中に水を飲ませるなどありえん」

「あの、水分補給もせずに、走り込みをさせてたの?」

 カラの常識がガラガラと崩れた。

「今夏ですよ、何考えてんの?」

「何を言っている、訓練中は水を飲んではいけない、これは転生者が言っていたことだろう」

「誰だそんな嘘を教えたの」

 とんでもない愉快犯転生者がいるとカラは怒髪天を衝く。

「いいから水を取って来い」

 カラの声が低くなる。

「それと、塩と砂糖も持ってくるように」

 そう言うと、カラは倒れた相手を見る。

「体温を下げなきゃ、布を水で濡らして持ってきて、急げ、下手すりゃ死ぬわよ」

 飲み水と、調味料を手にしたタロがついてきた。

 塩と砂糖を水差しに一匙ずつ落とすとよく混ぜる、掌に数滴のせて味見をした。

「こんなもんかな」

 一滴ずつ相手の唇に落とす。

 濡らした布を受け取ると、首と脇の下に布を当てる。

「熱中症になったら、身体を冷やす、脇の下、首、太腿に太い血管があるので、そこを冷やすといいわ」

 カラがそうしていると、倒れていた相手が目を開いた。

「気が付いたなら自分でのみなさい」

 水差しを渡すと、相手はむさぼるように飲み始めた。

 それを植えた眼差しで見る同僚たち。

「ずっと、水を飲んでないの?」

「どうしたんだ、一体」

「この暑い中、走ってるのに水分補給してないっていうのよ、それが転生者の教えだって」

「ああ、それならなあ、確かに昔そういうこと言ってた時期があんだよ、昭和の昔だがな、今は危険だからやるなって言ってたけど」

 タロの学生時代がその過渡期だった。若い養護教諭と壮年の体育教師のそれをめぐるいがみ合いの凄まじさは今も記憶に残っている。

 般若のモデルが女だという話に初めて納得できた。

「たっぷり汗かいたら、真水で水分補給したら危ないとかそういうことはあったろうけど」

 塩分が欠乏して水中毒を起こすこともある。

「昔の人、正気?」

 カラは持ってきた新しい水差しに、塩と砂糖を加える。

「この水なら、飲んでも大丈夫よ」

 簡易スポーツ飲料を作ってやれば、争うように水差しをつかみあう。

「どんだけ乾いてたんだ」

 その有様にタロは呆れかえった。

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